子どもの言葉の習得が「早ければいい」わけではない理由 発達心理学者がわかりやすく説明
言葉のやりとりが楽しくなる2~4歳。「言葉の発達は子どものペースにまかせて」と語るのは青山学院大学教育人間科学部心理学科教授・坂上裕子先生。言葉を引き出す養育者の対応についてうかがいました。
大人の要求水準は高すぎ! 幼児期の発達障害グレーゾーンの子どものハードルを低くするべき理由「こころの発達は、からだの発達と深く関係している」と、青山学院大学教育人間科学部心理学科教授・坂上裕子(さかがみ ひろこ)先生は、著書『子どものこころの発達がよくわかる本』の中で語ります。『子どものこころの発達がよくわかる本』の中から、とくに「言葉の発達」についてうかがう本連載。前回は“言葉”を覚えて、発するまでの0歳~2歳の段階についておうかがいしました。
第2回になる今回は、1歳~4歳の“言葉”のやりとりに注目して、コミュニケーション方法について教えていただきます。
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1歳~4歳 やりとりのなかで言葉は育つ
──前回は、“言葉”を発する段階までおうかがいしましたが、今回は“コミュニケーション”の時期に入っていく、ということで、お子さんの言葉の発達でお悩みの親御さんも多いと思います。言葉の発達のためには、どんなことをしたらよいのでしょうか?
坂上裕子先生(以下坂上先生):そうですね。“やりとり”の前に、まずは言葉の基礎には愛着が関係している、というお話をしましょう。
1歳の誕生日が近づくころになると、子どもは養育者をはじめ、周りの人たちと、モノを介したやりとりをするようになります。このようなコミュニケーションの形を「三項関係」といいます。今までの“1対1”から“他者とモノを含む関係”へ変化する、ということですね。
三項関係が成立するということは、子どもと養育者が同じ対象に注目する「共同注意」が成立しているといえます。このやりとりが愛着の対象との間でさかんにおこなわれるようになります。
〈『子どものこころの発達がよくわかる本』より〉
坂上先生:子どもは自分で移動ができるようになると、養育者を安全基地として、周りの世界を探検します。そして、自分が面白いものごとを発見したときには、その発見を周りの人に知らせ、分かちあおうとします。そこで、養育者をはじめとする周りの人が、その対象物の名前や起こったことを言葉にして伝えることで、子どもは世界のことを知り、言葉を覚えていきます。
──「同じものを見ている」という安心感が、会話する楽しさへつながる、ということですね。子どもが何かに注目したときに、親はどのように関わるとよいのでしょうか。
坂上先生:やりとりをするときに心がけたいのが、子どもの興味、関心に応え、それを一緒に楽しむ姿勢です。
子どもの問いかけに周囲の人が「ワンワンだよ」とか「ワンワンかわいいね」などと応えることによって、子どもはその言葉や意味を知るようになります。
子どもが小さいうちは、養育者が指さして「あれは○○だよ」と教えても、同じモノに注意を向けられなかったり、視線を追えなかったりすることがよくあります。養育者が主導するのではなく、子どもが興味を示した対象についてやりとりしてみましょう。子どもの興味に養育者の側が合わせていくことで、やりとりがふくらみます。
──つい「いろいろ教えたい」という気持ちが先走ってしまいますが、子どもの興味に合わせることが大切なんですね。
坂上先生:そうですね。「教える」よりも、「応える」姿勢が大事です。
正解を教えるとか、知識を増やすことを心がける前に、まずは子どもの問いをきっかけにして、目の前のやりとりや会話のキャッチボールを楽しんでみましょう。
子どもに聞かれたことがわからなくても大丈夫です。「パパ・ママはこう思う」とか、「なんでだろうね、どう思う?」など、一緒に考えて会話を広げてみましょう。
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坂上先生:子どもの「あれは?」「なに?」「なんで?」は、語彙を増やす大きなチャンスです。子どもは、他者や周囲のモノ、できごとの名前をあれこれ知りたがります。やりとりを通して、モノには名前があることやものごとにはつながりがあることに気づいたとき、一気に言葉を吸収し、語彙を身につけていきます。
言葉の発達は子どものペースにまかせて
──それでも、子どもがなかなか話さないと、親としては不安になりますよね。「たくさん話しかけているのに」と、つい他の子と比べて焦ってしまいそうです。
坂上先生:言葉の発達には、脳の言語機能にかかわる部分をはじめ、視覚や聴覚など五感をつかさどる部分の発達、感覚や運動機能、口や舌、のどといった発声にかかわる器官の発育なども関係しています。
言葉を話せるようになるまでには、いくつものプロセスを踏む必要があるため、時間がかかります。また、発達の進み具合には大きな個人差があります。
言葉の発達がゆっくりだと、自分たちの愛情不足ではないかとか、育て方が悪いのではないか、障害があるのではないかと心配になってしまう人もいると思いますが、結論を急がないことです。
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──“言葉”に関しては敏感な親御さんが多いですよね。「早く子どもとコミュニケーションがとりたい」という気持ちもあるのでは、と思いますが。
坂上先生:おしゃべりできるようになって、周りの人と上手にコミュニケーションをとれるのはもちろんうれしいことですが、言葉の発達は「早いからいい」というものでも「遅いからよくない」というものでもありません。
例えば、たくさんおしゃべりするものの周囲の人たちとのコミュニケーションが成り立っていない、というようなこともあります。逆に、言葉がつたなくても、表情や身ぶり手ぶり、視線を合わせるなど別の方法でうまく相手とコミュニケーションをとれていることもあります。
〈『子どものこころの発達がよくわかる本』より〉
坂上先生:もし、子どもの発達に関することで悩んでいることがあったり、コミュニケーションで不安な要素があったりするときは、小児科医や心理士、言語聴覚士など、子どもの発達の専門家がいるところに相談してみましょう。自治体の発達相談窓口も活用できます。
──“早い=いいこと”ではない、というのは、言われてみるとそのとおりですね。子どもなりのペースを大事にしたいと思います。
今回は、1歳~4歳ごろの子どもの発達について、言葉の発達を中心におうかがいしました。次回は言葉の発達の時期と重なる「イヤイヤ期」の対処法についてうかがいます。
■今回ご紹介の書籍はこちら
『子どものこころの発達がよくわかる本』
発達はさまざまな事柄が関係しあい、枝葉のように広がって進んでいくものです。たくさんの枝葉を支える太い幹と根っこが育つには、長い時間が必要です。子どもも親も試行錯誤して、失敗と修復を繰り返しながら、育っていきます。
本書では、保護者や保育者向けに、就学前までの子どもの発達や対応の具体例をわかりやすく解説しています。
『子どものこころの発達がよくわかる本』青山学院大学教育人間科学部心理学科教授・坂上裕子/監修 講談社