中学受験で差がつくポイント! 「考える力」と「伝える力」の総合的能力クリティカル・シンキングとは?
我が子には、芯のある考えと意見を持ってもらいたいもの。クリティカル・シンキングは、自分で考えたことを慎重に判断し、しっかりと他者に伝える力です。大学や高校、小中高生を対象とした塾で「考える力・伝える力」を教えている狩野みき先生が、スキルの基礎から育む方法まで解説します。
「スマホを3時間以上使う子ども」成績は平均以下? スマホ利用が学力に与える悪影響を脳科学者が解説クリティカル・シンキングとは「批判的思考」と訳されている言葉で、ロジカル・シンキング(論理的思考)などと並ぶ3大シンキングのひとつです。これまではビジネスに役立つ力としてとらえられてきましたが、複雑性と不確実性が増していく社会を見据えて、現在は子どもたちにこそ必要なスキルだとして注目を浴びています。
「考える力」と「伝える力」の総合的能力であるクリティカル・シンキングについて、長年「考える力・伝える力」を教えている狩野みき先生に、スキルの基礎から育む方法まで解説いただきます(全3回の1回目)。
クリティカル・シンキングっていったい何?
クリティカル・シンキングは、日本では主にビジネスの場で役立つ能力として知られてきたスキルです。
「批判的思考」と訳されているので、「何事もネガティブ(否定的、批判的)に考えること」「他人に意見すること」だと思っている方は多いようですが、実際の意味はまったく違うと狩野先生はいいます。
「クリティカル・シンキングは他人を批判することではなく、自分の頭で主体的に物事を考え、自分で考えたことを慎重に判断し、しっかりと伝える力を指します。
このように説明すると、ユニークなアイデアや意見こそがクリティカル・シンキングだと思う方もいますが、『主体的』には奇抜さや独創的という意味はありません。
また、これをいったら響きがいいとか、優等生的な意見を持つのとも違います。
周りと同じ意見であっても、違う意見であっても、クリティカル・シンキングは、誰かの受け売りではない、自分で考えた意見を持つことです。
そして、『私の考えは○○です。なぜならば……』というように、自己の結論と理由の両方を伝えられる力のことをいいます」(狩野先生)
中学受験対策として注目されているクリティカル・シンキング
クリティカル・シンキングは「考える力」と「伝える力」の総合的能力なので、子どもたちに育みたいスキルとして注目されていますが、関心が寄せられている理由はそれだけではありません。
「打算的な話をすると、クリティカル・シンキングを身につけた子は、特に個人面接や集団面接、討論、プレゼンテーションといった試験で、周囲の子よりも頭ひとつどころかふたつもみっつも抜きん出ます。
それというのも、常に自分の頭で主体的に物事を考え、『私の考えは○○です。なぜならば……』という、結論と理由のプレゼンを普段から積み重ねるからです。その経験が、どんな場面でも自分の主張を余すことなく伝えられる力になります。
この力は中学受験だけではなく、その後の高校、大学受験、就職試験でも有利に働くでしょう」(狩野先生)
受験の場であるなら、緊張も相まって言葉が出てこなくなることさえありますが、クリティカル・シンキングの経験を積んでいけば、ここぞという大事な場面でも冷静に、しっかりと自分の意見を言葉にして、人の胸を打つような理由を伝えられます。
子どものクリティカル・シンキング力を育むには何をすればいい?
どんなスキルも、一朝一夕で身につけられるものではありません。では、クリティカル・シンキングの場合、どんな方法で何を積み重ねていけばいいのでしょうか。
「子どものクリティカル・シンキング力をつけるのに一番大切なことは、親御さんが子どもの話を否定しないことです。これが出発点であり、最大のポイントです。
相手がたとえ我が子でも一人の人間として尊重し、対等な関係で向き合って、まずはすべてを受け入れてください」(狩野先生)
クリティカル・シンキング力をつける最初の一歩にして、最大のポイントは「子どもの話を否定しないこと」。 写真:milatas/イメージマート
子どものとんでもない話も受けとめられる鉄板ワード
クリティカル・シンキングの力を育む最大のポイントは「子どもの話を否定しないこと」ですが、子どもは親が好ましいと思わないことも平気でいってくることがあります。しかし、狩野先生には、困ったときに使える鉄板ワードがあるそう。
「子どもの話は、『へ~』で受けとめるといいでしょう。とんでもないことをいってきたときも、間違ったことをいってきたときも、まずは『へ~』と反応してみてください。
たとえば、『将来、何になりたいの?』の質問に、子どもから『ユーチューバー!』と返答があったとします。親御さんの心の中では(え? まさか!?)と思うかもしれませんが、まずは『へ~』といって、子どもの返答に関心があることを伝えるんです。
また、ここで重要なのは、噓をつかないことです。
親御さんがユーチューバーに賛同できないのに、『ユーチューバーいいね!』と返すのはNGです。いくら子どもの話を否定しないことがクリティカル・シンキング力を育む基本といっても、偽りの返答をしてはいけません」(狩野先生)
狩野先生の場合、先生自身はユーチューバーの良さがあまりわからないので、まずは「へ~、ユーチューバーね~、なるほどね~」と受けとめたあとで、「ところで私、ユーチューバーのことがわからないから、何がそんなにYouTubeってすごいのか教えてくれる?」と、子どもに質問をして会話を発展させるといいます。
大人だから、親だからって等身大以上のことをしてはダメ!
「前述のユーチューバーの話では、私は『何がそんなにYouTubeってすごいのか教えてくれる?』と、子どもに質問すると話しましたが、もし親御さんが私と同じようにユーチューバーの良さがわからないのなら、素直に我が子に教えてもらいましょう。
子どもにクリティカル・シンキングを育むうえでは、親たるものは偉くなければいけないとか、正しくなければいけないなんて考えは捨ててください。
わからなければ、『あ、それ、お母さん(お父さん)わからないな~』と素直な態度を子どもに返してほしいのです。きっと我が子は一生懸命に考えて、親御さんに自分の意見や知っていることを伝えようとするはずです」(狩野先生)
クリティカル・シンキングは、どんなに親子間が良好な家庭でも、子どもの学年が上でも、親御さんが子どもの話を受けとめるところからスタートします。そして、対話を発展させることで、子どもの「考える力」と「伝える力」を育んでいきます。
子どもの話に「へ~」で反応することは、どの家庭でもできることです。まずは親子の普段の会話の中で、子どもの話を受けとめることから始めてみるといいでしょう。
連載第2回は、クリティカル・シンキングを育む際に、親御さんが口にしてはいけないNGワードなどを紹介します。
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◆狩野 みき(かの みき)
「自分で考える力」イニシアティブ、THINK-AID主宰。
聖心女子学院初・中等科に学び、中学高校時代をドイツのブリティッシュ・スクールにて過ごす。慶應義塾大学法学部卒、慶應義塾大学大学院博士課程修了(英文学)。30年大学等で「考える力・伝える力」と英語を教える。慶應義塾大学、東京藝術大学、ビジネス・ブレークスルー大学講師、子どもの考える力教育推進委員会の代表も務める。著書に『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』『世界のエリートが学んできた 自分の考えを「伝える力」の授業』(ともに日本実業出版社)、『「自分で考える力」が育つ 親子の対話術』(朝日新聞出版)などがある。2012年、TEDxTokyo Teachersにて、日本の子どもたちにもっと考える力を、という趣旨のTEDトーク“It’s Thinking Time”(英文)を披露し好評を博した。2児の母。2025年2月、小学生対象のクリティカル・シンキングのプログラムが15周年を迎える。
取材・文/梶原知恵