サカナ食のトレンドは<未利用部位>と<常温>? 食の展示会「グルメショー」に行ってみた
2月12日~14日、東京ビッグサイト(東京国際展示場)で開催された食の展示会「Gourmet Show(グルメショー)」。「東京ギフトショー」との同時開催で、ギフト向けの食アイテムが多数紹介されていました。
中でも、サカナに関する商品をピックアップしてご紹介したいと思います。今回のトレンドは、<未利用部位>と<常温>をテーマにした商品でした。
グルメショーとは
「グルメショー」は、「ギフトショー」の一部として併催される食の展示会で、ギフト寄りで、やや高い価格帯のエッジの利いた商品が揃うのが特徴です。
大規模展示会に比べて、生産量が少ない、中小企業の比率が高い傾向があり、他の展示会では見られない商品を発見することもできます。
毎年春と秋の2回開催しており、行政や企業とのコラボ企画などもあります。
キーワードは「未利用部位」「常温」
今年のサカナ関係の出展では、<未利用部位>や<常温>をテーマにした商品がよく見られました。
「未利用魚」は昨今の水産業界におけるトレンドの一つですが、「資源化されたら未利用じゃなくなるじゃん!」というつっこみもあり、筆者としては<未利用部位>に注目。未利用部位=これまで廃棄されていた部位を使用した商品が気になりました。
また、ギフトショー併催のためか、お持たせやギフトを想定した<常温保存が可能な製品>が散見されたことも興味深い点でした。
では、気になった商品をいくつかご紹介します。
新幹線で食べるおつまみに! 静岡名物を常温で
静岡県静岡市の老舗「さすぼし蒲鉾」が紹介していたのは、静岡名物「黒はんぺん」。
静岡で「はんぺん」といえば、アルファベットの「D」のような型をした魚肉練り物を指します。静岡おでんの具でも有名ですね。
この商品の何がすごいかと言うと、常温保存が可能なのです。
B-nest静岡市産学交流センターが主催する「商品開発プロジェクト」から生み出された商品で、「静岡県で新幹線に乗るときに買うおつまみに地元のものがない」という気付きから、常温でも扱える製品として開発されたそうです。
「キオスクなどで扱ってもらうには、冷蔵ではちょっと難しいと。常温なら置けるかもしれない、ということで開発しました」と語るのは、さすぼし蒲鉾株式会社営業部長の森藤高志さん。
蒲鉾の常温保存は少し難しいらしいのですが、調理・加工方法を工夫して実現したといいます。
釣りのお供にもぴったり?
味や食感は通常の黒はんぺんと変わらず美味です。
味は七味入り、ペッパーチーズ、プレーンの3種類を販売予定とのこと。正式には3月から販売開始するそうですが、先行して今回グルメショーでバイヤー向けに発表されました。
森藤さんは、「新幹線だけでなく、釣りのお供にもぴったり。静岡での釣行にご利用ください」と話してくれました。
マダイの利用率を30%→60%に
三重県南伊勢町阿曽浦から出展した「ウクラ山ラボ」の「おやつひもの」も秀逸な一品。ウクラ山ラボは、マダイの養殖業を営む有限会社友榮水産で新規事業や新商品開発を担当するセクションです。
ウクラ山ラボの橋本かおりさんによると、「これからの水産を考えると、養殖事業だけでなく、加工や旅行業も手掛けたほうが良いと判断し設立しました」とのこと。養殖場とは別に加工場も設け、これまで「鯛めしの素」などを開発、販売に至っているといいます。
「おやつひもの」は、これまで廃棄されてきたマダイのアラなどを利用した商品です。
一般的なマダイの可食部率は30%で、残りの70%は廃棄されていました。そこで、腹骨や中骨、カマなどの未利用部位を手軽に食べられるように加工して製品化。これによりマダイの利用率は60%に向上したそうです。
防災食としての利用も視野 味は2種類
具体的には、未利用部位を調味液に漬け、味が染みたところで、オーブンで干物に。その干物をさらにレトルトで加圧調理しています。レトルトなので、常温保存も可能です。
「どうしたら食べられるようにできるか、試行錯誤しました。防災食としての利用も視野に入れたため、常温で保存できるレトルトという選択になりました」と橋本さん。
味付けは、塩と白しょうゆの2種類。実際に食べてみると、マダイの身の旨味がずっしりと詰まった感触で食べ応えがあり、味付けもシンプルな分、マダイの味がそのまま伝わってきます。
また、マダイは普通に食べているとあまり脂を感じませんが、脂の甘みや旨味もしっかりと感じることができました。
同商品は「発表以来、大変な人気」とのことで、製造がなかなか追いつかない状況。現在は受注生産をしていますが、近くECサイトでの販売も広げたい考えです。
友榮水産では、ゲストハウス「まるきんまる」の運営もしており、養殖の生け簀でマダイと一緒に泳げる「鯛になるタイ験ツアー」など楽しめるコンテンツも展開しているそうです。
魚皮とエビの頭でチップス
兵庫県神戸市の株式会社エスグローが出展していたのは、海産物の廃棄ロスを利用したチップス「TOTO CHIPRU(トトチップる)」と「EBI CHIPRU(エビチップる)」。トトチップるは魚の皮を、エビチップるはエビの頭をチップスにした商品です。
エスグローは物流サービス企業ですが、物流に即した商品開発、マーチャンダイジングなどにも進出。その中で、「東南アジアの鮮魚工場で廃棄される魚皮を利用できないか」という相談があり、トトチップるを開発したという経緯があります。
東南アジア特有の味付けも
当初は「ソルテッドエッグ味」の1種類のみで、パッケージも60gの大サイズだけでしたが、バイヤーからの要望で、味のラインアップやサイズを拡充し、今回の出展となったといいます。
トトチップるはソルテッドエッグ、塩、カレー、わさび、チーズ、ソルテッドエッグスパイシーの6種で、エビチップるはソルテッドエッグ、塩、チーズ、スパイシーの4種。
ちなみに「ソルテッドエッグ」とは、塩味を漬けた卵の黄身に浸したもので、東南アジア特有の味付け。卵の風味も相まって、美味しさがミックスアップする味になっているそうです。
鯛やエビの未利用部位を使用したエキス商品
香川県高松市の株式会社トラスト・ジャパンの人気商品が「お鯛さん」と「甘海老様」。これも、廃棄されていた魚の未利用部位を使用した商品です。
お鯛さんは、瀬戸内のマダイのみを使用。背骨等の廃棄されていた部位をじっくり煮込んで、マダイのエキスを抽出した一品。とても濃厚で、好みに応じて薄めて使います。
甘海老様は、エビの廃棄物になってしまう頭などの殻からとったエキスで、同様の使い方が可能です。
飲食事業者に人気 手軽に一品&ちょい足しに
どちらかといえば、飲食事業者に人気があるといい、鯛飯やラーメンなどによく使われるとか。例えば居酒屋などで、だし巻きたまごに入れれば「鯛風味のだし巻きたまご」になるなど、手軽に一品増やせるそうです。
家庭でも使用可能で、「一度買われた方はまた購入してくれる。リピート率がすごく高い」と、トラスト・ジャパン営業課長の松浦一麿さん。ちょい足しに使えるし、にゅうめんやお茶漬けなどにも気軽に使えるのがうれしいですね。
今回はバイヤー向けに贈答用の商品を開発し出展。通常パッケージは、同社のオンラインショップなどで購入可能です。
青りんごのような爽やかな風味<タガメサイダー>
続いては、魚ではなく水生昆虫。
「タガメサイダー」はオスタガメのフェロモンの香りを利用した、青りんごのような爽やかな風味のサイダー飲料。通常のサイダーと違うのが舌触りと、喉越しの滑らかさです。
これは、昆虫の脂に由来するものだそうで、タガメサイダーの美味しさを引き立てます。
手掛けるのは、昆虫食業界ではよく知られるTAKEO株式会社。200ミリリットルのボトルのほか、浅草にあるカフェでは、タガメ・タピオカ入りの商品を飲むこともできるそうです。
使用しているのは国産ではなく、タイ産の養殖された「タイワンタガメ」。タイなど東南アジア諸国では昆虫食が一般的で、タガメも主要な食材のひとつになっているそうです。
なお、タガメサイダーの売上の一部は、タガメなど水生昆虫の研究のための「タガメ基金」に寄付されているそうです。
かつては日本全国で存在していた昆虫食
昆虫食は、興味本位に取り上げられたり、無責任に批判されたりします。
しかし、かつては日本でも全国でごく普通に食べられていたという記録もあるのです。そして、その理由は「美味しかったから」だとする研究もありました。
「食べる」という行為は自然と人間をつなぐ、もっとも基本的な関係性のひとつ。私たちも変な色メガネで見ることなく、ごく普通に受け止めて食べていきたいものです。
タガメサイダーは子どもたちにも人気。TAKEOは食育などに力を入れています。水生昆虫ファンならずとも応援していきたい活動です。
<未利用部位><常温>が今後のトレンドに?
グルメショーで展示される商品はギフト寄りの製品ではありましたが、日常的に使っても美味しく食べられる商品ばかりでした。また、社会性のある商品は、応援したくもなりますよね。
今回発見したような<未利用部位>や<常温>をテーマにしたサカナに関する食品は、今後のトレンドになるのかもしれません。
(サカナトライター:土屋ジビエ)