東急とJR九州が〝相互乗り入れ〟で需要平準化に挑戦 交通5社連携の「九州・沖縄オフピーク旅促進プロジェクト」スタート(九州・沖縄全域)【コラム】
東急とJR九州を中心に交通・航空企業5社がタッグを組んで、交通・観光業界永遠の課題「需要の平準化」に挑戦します。東急、JR九州、ソラシドエア、スターフライヤー、ニッポンレンタカーサービスは2024年6月4日から、「九州・沖縄オフピーク旅促進プロジェクト」をスタートさせました。
日本の観光地は週末は混雑しても平日は空いている……のが当たり前ですが、平日旅行を促してピークをならし、ゆったりした日程で九州や沖縄を周遊してもらうのがプロジェクトの狙いです。プロジェクトのアウトラインとともに、JR九州のニューフェイス列車、最後に需要平準化の意義や課題を考えます。
平日に定額宿泊できる「サブスク」
プロジェクトの柱が、「TsugiTsugi(ツギツギ=次々)」と名付けた東急の定額制回遊型宿泊サービス。何やら難しそうですが、簡単にいえば「(宿泊の)サブスク(サブスクリプション)サービス」。会員になってプランを購入すれば(定額を支払えば)、宿泊施設の平日に当たる日~木曜日、全国200以上のホテルや旅館に割引で宿泊できます。
プロジェクトは、2025年5月31日まで約1年間。期間中にツギツギで宿泊(予約)、ソラシドで九州・沖縄エリアを訪れた旅行客に、次回旅行で使える無料宿泊券をプレゼントします(※最大12泊分)。
無料宿泊券は全国で使えますが、プレゼントがもらえるのはソラシドの九州・沖縄便だけ。九州旅行のリピーターを増やす作戦で、例えば今回は福岡、2回目は鹿児島など、旅行目的地の分散化を促すJR九州が、キャンペーン成功の鍵を握るキーカンパニーといえそうです。
航空2社は、機内限定価格で「JR九州フリーきっぷ」を発売(スターフライヤーは継続、ソラシドは新規で6月下旬詳細発表予定)。ニッポンレンタカーは、ツギツギ会員のサイトからの予約で料金を最大41%割り引きます。
ツギツギ誕生からJR九州との「相互乗り入れ」に至るまで
ここでワンポイント、ツギツギの誕生秘話。正式な事業化は2023年5月ですが、原点は2016~2017年ごろ話題になった平日は都会、週末は地方の〝お試し地方移住〟です。
ホテル・リゾート事業部事業戦略グループの川元一峰主査(現職)が、空き家問題や観光の需要平準化といった課題解決つながるサブスクビジネスとして、東京急行電鉄(当時)の社内ベンチャーに提案。2021年4月からの実証実験を経て事業化にいたりました。
2024年6月時点の個人会員約8万5000人、法人プラン契約50社以上。少々のこじつけを承知でいえば、プロジェクトは東急とJR九州の〝相互直通の成果〟といえそうです。
グルメプレゼントにAIオリジナル曲
オフピーク旅促進プロジェクトは、最近のネット系ビジネスらしく多彩な関連サービスがセットされます。
「“あの”名店の逸品グルメ」は、月替わりプレゼントに応募すると、抽選で賞品がもらえます。無料宿泊券は有料会員(実際に旅行した人)だけですが、グルメは誰でも無料会員になれば応募できます。
お次は「楽曲生成AI機能」。プロジェクト案内人のAI(人工知能)コンシェルジュと会話すると、AIがオリジナル曲を提供してくれます。このへん、筆者は正直いって「何のことやら??」。でも、最近の観光や旅行の興味は千差万別。AIナンバーを聞いて旅行しようと思う方もいらっしゃるかも(?)です。
ところで、九州の鉄道はJR九州だけじゃない。忘れちゃいけない西日本鉄道。東急と西鉄ホテルズは2023年9月に提携。西鉄ファンの皆さんは福岡のほか別府、鹿児島、那覇などの西鉄系ホテルに宿泊できます。
九州に行ったら、この列車に乗ろう!!
ここでキャンペーンで九州旅行したら乗りたい列車2題。JR九州大分支社が2024年6月1日から、博多~大分・別府間(久大線経由)に投入したのが「進撃の巨人」のラッピング列車。作者・諫山創さんの出身地・大分県日田市(旧大山町)による「進撃の日田」プロジェクトとのコラボで、8月末まで。
2024年4~6月の「福岡・大分デスティネーションキャンペーン」(福岡・大分DC)は、第4コーナーを回ったところで、快走が続くのが新しいD&S(観光)列車「かんぱち・いちろく」です。博多~由布院・大分・別府の所要時間は約5時間。新幹線なら東京を発車した列車が博多に到着します。でも鉄道はスピードだけじゃない。詳しくは本サイトの詳細なレポートどうぞ。
リモートワークがオフピーク旅を後押し
ラストは、キャンペーンタイトルに戻って「オフピーク旅促進」とは。日本の観光旅行、週間では週末集中、通年ではゴールデンウィーク(GW)、夏休み、年末年始の三極集中です。GW週末ともなれば人気観光地は大混雑・大渋滞。景色を見に行ったのか、旅行客を見に行ったのか分かりません。
受け入れ側も大問題。ピークにあわせてドライバーや従業員を確保しなければならず、パートを多用。安定した雇用環境にほど遠く、産業として一流とみられません。
国が、観光・旅行の平準化を真剣に議論したのは2010年前後。GWの地域別分散化を検討しました。例えば、北海道と九州は5月1週目、関東は2週目、関西は3週目と、地域で連休を分けて旅行客を分散します。
アイディアはナイス……でしたが、金融機関の決済が地域バラバラだと困るといったネガティブ議論が噴出し、翌年には東日本大震災が起きて雲散霧消しました。
その点、今回のプロジェクトが狙うのは平日旅行の促進。平日に旅行しやすくなるのは当然ですが、実際に休暇を取って出掛けるかはどうかは旅行者次第です。
筆者は一瞬、「本当に平日旅行するのか?」の疑問を抱きました。しかし、すぐにそれが誤りだと気付かされました。
平日旅行を後押しするのは、コロナ禍を経て定着したリモートワーク。旅行かばんにノートパソコンを入れて、昼間は観光、夜は仕事の働き方(遊び方)が可能になりました。
その点では、まさに時流に乗った今回のプロジェクト。平日のD&S列車で現役ビジネスマンらしき旅行客を見掛けたら、それはオフピーク旅で出掛けた人かもしれません。
記事:上里夏生