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橘高文彦 デビュー39周年記念 “Thank You” LIVE FINAL 2024.11.19@横浜 1000 CLUB

YOUNG

1984年、ヘヴィ・メタル旋風が巻き起こるなか、ひとつの若手バンドがメジャー・デビューを飾った。そのバンドとはAROUGE(アルージュ)。平均年齢18歳という若さだが、前身バンドのSleazy Luster(スリージー・ラスター)時代には、様々なバンド・コンテストで入賞、ベスト・ギタリスト賞も獲得するなど、年齢にそぐわない実力の高さを誇った。そのギタリストこそ、橘高文彦である。

その橘高が、デビュー39周年を記念して<“Thank You” LIVE>と題する様々なライヴを2024年に行なった。AROUGE時代の盟友である山田晃士(vo)とのライヴを8月に、筋肉少女帯の相棒ギタリストでもある本城聡章とのライヴを9月に開催。そしてデビュー40年目となる2024年11月21日を目前に控えた11月19日。<“Thank You” LIVE FINAL>として、筋肉少女帯とX.Y.Z.→Aの対バンが遂に実現。両バンドとも、橘高が在籍するバンドである。

’80年代の洋楽ヘヴィ・メタルがBGMとして流れ続け、ヘア・メタル真っ盛りな時代に染められた横浜1000 CLUB。ステージには、橘高の愛機である1967年製フライングVと“39”の文字が描かれたバックドロップが掲げられ、今から始まるライヴへの期待感を無言で煽り続けていた。

X.Y.Z.→A

19時ジャスト、SEの「RISING ANTHEM」と共に両腕を高らかにあげてステージに現われたのはX.Y.Z.→A。ファンキー末吉(dr)と和佐田達彦(b)のキメを合図に、バンド・サウンドを轟かせながら「Chapter Has Begun」からライヴに突入した。のっけからワウ・ペダルを踏みながら二井原 実(vo)の歌と絡むメロディを奏でたと思えば、今度はキレのあるコード・リフを刻む橘高。さらに単音フレーズも入れながらグルーヴを作り出し、ソロとなればディミニッシュやハーモニック・マイナーも駆使しつつ華麗にして激しくメロディを疾走させていく。その姿といいプレイといい、まさに“暴逆の貴公子”(デビュー時の橘高のキャッチコピー)のオーラを放つ橘高である。

X.Y.Z.→A

二井原 実

X.Y.Z.→Aとしても結成からすでに25年目。メンバーそれぞれの活動もあって、ここ数年はX.Y.Z.→Aとしてのライヴは控えめながら、4人ともミュージシャンとして様々なライブをずっと続けているだけに、全くの衰え知らず。それぞれ実力があるからこそ、遠慮なくぶつかり合い、高め合い、そしてエネルギッシュに曲を呼吸させていく。それを浴びながらオーディエンスも遠慮なくヘドバンしながら、“橘高メタル”に狂喜するばかりだ。

橘高文彦

「X.Y.Z.→Aは1999年に『ASIAN TYPHOON』でデビューして、今年でちょうど25年。1999年といえば、筋肉少女帯になにがあったか憶えてないけど、あんなに仲良かったメンバーと8年ぐらい会わなくなっちゃって(笑)。爆風スランプもちょうど’99年あたりで活動休止してまして、二井原さんがやっていたSLYも活動休止。そんな4人が出会って、“我々は今、Zやな”と。でも二井原さんが、“昇った太陽を落とすな。ここからAを目指して、この4人で頑張ろうやないか”と。そういう意識で名付けたのがX.Y.Z.→A。いつの日か、筋肉少女帯、爆風スランプ、ラウドネス、X.Y.Z.→Aの4バンドで一緒にライヴやりたいね、というのが当時の夢でした。今日は、ひとつの夢が実現したようで、とても嬉しいです」(橘高)

そんな話から続いたのは温かいバラード「Foreve be with you」。さらにポジティヴな想いも綴られた名曲「枯れない泉」。それらで橘高が聴かせるフレーズやメロディは、優しさとロマンチストぶりに溢れたもの。そのギター・プレイに抱きしめられ、酔いしれるオーディエンスの姿が会場に広がった。

再び橘高メタルが火を噴いたのはライヴ後半。スラッシュ・メタルの旨味も感じる「Miracle」やソロ・コーナーを始め、どこまでも攻め立てる。活動凍結前の筋肉少女帯では、“お城を建てる”と本人も語るように様式美や構築性をギター・プレイのポイントにしていた橘高。しかしX.Y.Z.→Aでは、さらに技巧派な構築性と多彩なアプローチを展開。その圧巻のスキルはオーディエンスの心も身体も激しく突き動かしていった。
「どんな時でも前を向いて、希望を持とうやないか」(二井原)というX.Y.Z.→Aの合言葉と共に「Don’t Let The Sun Go Down」をラストに轟かせ、会場は熱い一体感に包まれた。

筋肉少女帯

“メタハラ”=メタル・ハラスメント──このライヴを迎えるにあたり、筋肉少女帯のメンバーからそうした声が漏れ聞こえていた。ヘヴィ・メタル縛りの殺人的セトリを橘高が組みそうな予感で、メンバーの誰もが戦々恐々とする日々。そして20時半──時は来た。

オーディエンスの振るペンライトの光が迎える中、飛翔するメロディが魅力の「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」から筋肉少女帯のライヴはスタート。バンド再始動後の1作目となった『新人』(2007年)からの曲だ。いろいろあったが、2006年から再び始まった筋肉少女帯への愛情、メンバーとファンへの感謝も込めて、キャパリソン“FKV”を歌わせるように弾く橘高。たちまち笑顔で溢れていくメンバーやオーディエンス。橘高も幸せを噛みしめながらフレーズを弾きまくる。

筋肉少女帯

大槻ケンヂ

「橘高文彦さん、メジャー・デビュー39周年、おめでとうー! いつもセトリを僕が組んでるんですけど、今夜は橘高さんが組みたいって。今夜は彼がセトリ大臣になりました。僕は落ちたので、そうだな〜、兵庫の知事から始めようかな」(大槻)

簡単な文で大槻ケンヂ(vo)のMCをまとめたが、もちろん橘高とのやり取りもあり、笑いが絶えない。そんなムードから一気にギアを上げたのは次の曲だった。三柴 理(pf)との掛け合いバトルを炸裂させる「くるくる少女」で、遠慮なくお城をブチ建てる様式美野郎と化す橘高。

その勢いで貫きそうに思われたが、筋肉少女帯では異物同士を掛け合わせた相乗効果と、ソングライターやギタリストとしての振り幅を探求する橘高でもある。そうした側面を表現した楽曲たちを、今夜のセトリ大臣は組んでいた。オープニング・ナンバーも含め、長いことライヴで演奏していなかった曲、大槻セトリ大臣が存在を忘れていた曲を、もう1本の柱にしていたようだ。

自らも歌いながら大槻とのデュオも楽しませた「青ヒゲの兄弟の店」、メンバー全員の芳醇なメロディが折り重なっていく「宇宙の法則」など、メタハラから大きくかけ離れた展開。気持ち良さそうに演奏する内田雄一郎(b)、橘高のメロディを彩るようにコードを響かせる本城聡章(g)である。また漫談のようなトークの末に始まった「おわかりいただけただろうか」では、橘高がメイン・ヴォーカルも執り、メタルの魂が宿った邪悪な歌いっぷりでオーディエンスを熱狂させる。

その曲の間、楽屋でノドを休ませていたのは大槻。再びステージに戻って開口一番、「ここから数曲、みんな、頑張りましょうね」とひと言。大槻が歌っていて一番クラクラッと来る「ツアーファイナル」を始め、橘高メタルの連発だ。メタハラなどいろんなことを言っていたものの、メンバー全員、気持ちを奮い立たせたまんま突き進む。涼しい顔で叩きまくる長谷川浩二(dr)が恐ろしい。筋肉少女帯の濃密にして重厚なバンド・サウンドは、オーディエンスの心を最高潮に引っ張り上げていった。

「ア デイ イン ザ ライフ」をポップに決めて本編を終わらせたが、アンコールが橘高を呼び戻す。

「みなさんがずっと応援してくれたおかげで素敵な夜になりました。11月21日に橘高、おかげ様で40周年を迎えることができます。こういうヤツが40年、ステージでずっとメタルを演奏し続けられて、みんなの幸せそうな顔を前に頭を振れるなんて、中学の時に引きこもっていた俺に言いたいです。とても誇らしいです。みんなに感謝の気持ちを伝えたくて、Thank Youと掛けて39周年ライヴです。みんなが来てくれたこと、一生、忘れません。どうも、ありがとうございます」(橘高)

ファンキー末吉、内田雄一郎、本城聡章、三柴 理を迎え、ソロ作からの「Thank You」を聴かせる橘高。亡き母への想いも重ねながら歌い上げる橘高の姿がステージにあった。さらに続いたのは筋肉少女帯とX.Y.Z.→Aの全メンバーによる「イワンのばか」。興奮と高揚と感謝が渦巻き、橘高はフライングVをブン回し、最高の狂騒曲となって会場を揺るがした。デビューから40年目を迎えた橘高文彦は、これからも狂い咲き続ける。

橘高文彦 デビュー39周年記念 “Thank You” LIVE FINAL 2024.11.19 @ 横浜 1000 CLUB セットリスト

X.Y.Z.→A セット

1. RISING ANTHEM(SE)〜Chapter Has Begun
2. Labyrinth
3. Razor’s Edge
4. Faster! Harder! Louder! Deeper!
5. Forever be with you〜枯れない泉
6. Miracle〜GUITAR Solo
7. Patriot’s Dream
8. Yesterday! Today! Tomorrow!
9. 生きるとは何だ
10. Don’t Let The Sun Go Down

筋肉少女帯 セット

1. 「航海の日」(SE)〜トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
2. くるくる少女
3. 僕の歌を総て君にやる
4. 青ヒゲの兄弟の店
5. 宇宙の法則
6. おわかりいただけただろうか
7. ツアーファイナル
8. 詩人オウムの世界
9. 再殺部隊
10. ア デイ イン ザ ライフ
[encore]
11. Thank You
12. イワンのばか(筋少&X.Y.Z.→A)
S.E Promised Land

(レポート●長谷川幸信 Yukinobu Hasegawa pix:LisA=kozai)

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