福生『韮菜万頭(にらまんじゅう)』の元祖の味にワオ! アメリカンな町中華で満腹
「元祖」って言葉に弱いのは、きっと私だけではないはず。なぜなら、そこが存在しなかったらそのものが存在しなかったかもしれないからだ。
たとえば、銀座の『煉瓦亭』がなかったらエビフライやハンバーグなどの大衆的な洋食が、横浜の『吉村家』がなかったら家系ラーメンが食べられなかったのかもしれない。現に、元祖と名乗る店はいつも行列ができる人気店である。おそらく、ほとんどの場合が偶然だったり、たまたま組み合わせてみた料理だったり、「元祖を作ろう!」と思って生み出されたものは少ないと思うが、そんなドラマ的要素も元祖の魅力だ。
そしてそれらは、まず、裏切ることがない。だから好き嫌いは関係なく、元祖と名の付く店や場所には行ってみることにしている。
そんな元祖を目指して、はじめて福生へとやってきたのだ。福生といえば、言わずもがな「横田基地」が有名だ。駅へ降りるや否や、“ウッドランド柄”の迷彩服を着た軍人さんがあちらこちらにいることに、ここが基地の街だと実感。
駅舎自体は中央線のどこにでもある造りだが、ここは新宿や渋谷かと思うほど、とにかく外国人の姿をよく目にする。
異国情緒は「福生ベースサイドストリート」まで来ると顕著で、行ったこともないロサンゼルスのサンタモニカビーチを彷彿とさせる雰囲気で、ローラースケートで走りながら、すれ違う人々に思わず「ハロー」とハイタッチしたくなる、こともない。
ひとしきりアメリカンを堪能しながら散策していると、周りの建物とは全く毛色が違う建物が見えてきた……そう、ここが目指していた「元祖」である。
出たっ、『韮菜万頭』だ! これで「にらまんじゅう」と呼ぶらしい。その巨大で独特な手書きフォントが、ファサードを彩っている。
なんと形容すればいいのか……赤、白、パステルグリーンの配色が、日本的ではなく斬新だ。それでいて、なんとなくアメリカンな雰囲気を醸し出している。これはもう、とにかく中に入って様子を伺ってみたい。
「いらっしゃいませ」
店内は、複雑な和洋中のハイブリッド。
和風のイスにアメリカンなテーブル、全体の配色は中華風の派手な原色カラーが目に付く。なんだか、この空間にいるだけでワクワクする。
店の中央のテーブルに座り、脊髄反射で瓶ビールを頼む。瓶ビールは安定の国産ASAHI。お冷と兼用のグラスに、麦汁を注ぎ込んで準備完了だ。
ドッ……ドッ……ドッ……、アイヤ──ベリーデリシャス! 甘いとか辛いとか、ラガーとかクラフトとか置いといて、ビールは世界共通、平和の証の酒なのだ。
さて……いよいよ本来の目的である「元祖」にありつこう。もはやお気づきだと思うが、ここの元祖はこれだ……!
その通り、「元祖 韮菜万頭(にらまんじゅう)」である! 正直、ニラ饅頭と言われてパッと思いつくシルエットがないが、これを見て「ああ、これがニラ饅頭だ」と何の疑いもなく思えた。割り箸で持ち上げてみると、箸がきしみそうなドッチャリ感。熱々のところを一気に食らいつく。
──ウ・マ・イ‼ なんですか、この肉々しさは。口に入れた瞬間に弾け飛ぶんじゃないかと思うほどムチムチの身で、皮が破けた瞬間に大量の肉汁が口中にあふれる。この触感は肉だけではない、プリプリのエビも入っているじゃないか。モグモグ、ウマウマ……とにかく食べることの幸せを噛みしめることのできる一品だ。
つづいてやってきたのが……チャプスイなる謎の料理。見た目は八宝菜だがその通りで、いわゆる「アメリカ版八宝菜」とのこと。
とろりと温かい餡とシャグシャグの野菜たちとのコントラストが最高で、豚肉もたっぷり、これはライスが欲しくなる。ほんのり、お酢がアクセントとして効いているのがいい。私の中でチャプスイの元祖といえば、この店となった。
主たる料理は中華系が多く、アメリカ版の町中華的な店なのだろう。ヨーロッパ版の町中華、アフリカ版の町中華……ふと、世界中にそんな町中華が存在するのかと思ったら、胸が中華鍋の如(ごと)く熱くなるのを感じた。
そんな中華は続くよ、どこまでも。エビとブロッコリーの塩炒めをいただくのだが、「塩炒め」というワードが素晴らしい。味付けは塩で素材の旨味をメインで食わせようという心意気。具もそのままで、エビとブロッコリーに大ぶりのキクラゲとレンコンなどシンプル仕上げ。
見た目はシンプルだが、ひと口食べれば、アラ驚き。ジワリと体に染みるようなエビと野菜の旨味があふれる。こんなシンプル料理のどこからこんな濃厚な旨味が出てくるんだ……?
胃袋はすでに限界を超えているが、「豚しゃぶ辛味ダレ」なんて文字を見たら看過できない。赤・青・黄の三色雷文丼に、明らかに辛そうな色をした豚しゃぶがこんもり。
下敷きの青菜と共に、割り箸でわしづかみ食らいつく──ウマカラッ! ずっと舌にジンジンというわけではなく、つき抜けるようなキリッとした旨さ。こいつをモシャモシャと食べながら、冷たい麦汁でマリアージュさせる幸せよ。
最後のひと口、元祖・韮菜万頭をじんわりと味わって飲み込む……幸せで、腹がパンパンだ! いやはや、どれもこれもちょっとだけ一般的な町中華と味付けが違うが、とにかくおいしかった。
やはり、元祖は裏切らない……それは間違いなく真実だ。だがしかし、自分の胃袋の容量は裏切るという、それもまた、情けない真実だ。
次に出会う「元祖」は、計画的に、かつ、腹八分目を心がけることを心に誓います、アーメン。
韮菜万頭 福生店(にらまんじゅう ふっさてん)
住所: 東京都福生市福生2218
TEL: 042-553-0177
営業時間: 11:30~15:00・17:00~21:30(金・土・日・祝は11:30~15:00・17:00~22:00)
定休日: 無
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取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)
酒場ナビ
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