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優しい表現と辛辣な視線、30年ぶりのジャン=ミッシェル・フォロン展(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

20世紀後半のベルギーを代表するアーティストのひとり、ジャン=ミッシェル・フォロン(1934-2005)。色彩豊かなその作品は、一見すると優しくあたたかいイメージが感じられますが、その根底には環境破壊や人権問題など、社会的な問題に対する鋭い視線が込められています。

日本では30年ぶりにフォロンを紹介する大規模な展覧会「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」が、東京ステーションギャラリーで開催中です。


東京ステーションギャラリー「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」会場入口


フォロンはブリュッセル近郊のユックル地区生まれ。幼い頃からいつも絵を描いている少年でした。一家がよく休暇を過ごしていた保養地クノックでマグリットの絵と出合い、画家を目指すようになりました。

フォロンは故郷を飛び出してパリに渡ると、日常の生活からの発見やアイデアをたくわえるかのように、5年にわたって毎日ドローイングを続けました。


プロローグ「旅のはじまり」


フォロンの作品には、しばしば同じようなモチーフが繰り返し登場します。帽子にコート姿で、本展で「リトル・ハット・マン」という愛称で呼ばれる人物像もそのひとつ。初期から晩年の作品まで、絵画でも彫刻でも、多様な姿であらわれています。


プロローグ「旅のはじまり」


矢印も、フォロンお気に入りのモチーフのひとつ。フォロンは身の回りにある気になるものを見つけてはカメラにおさめてイメージの源泉にしましたが、会場にはフォロンが撮影した矢印の道路標識の写真も多数紹介されています。

人々に進む方向を示す矢印ですが、フォロンの作品では曲がりくねっていたり、同時にいくつもの方向を示していたりと、その指示は謎めいています。


第1章「あっち・こっち・どっち?」


フォロンの作品では、都市をテーマにしたものも目にとまります。父親の勧めで最初は建築を学んでいたフォロンでしたが、時代錯誤で退屈な建築の授業には興味を持てず、その反発心からか、フォロンが描く都市は無機質で時間が止まっているようにも感じられます。


第1章「あっち・こっち・どっち?」


フォロンは環境問題や社会問題に強い関心を抱いており、それらをテーマにした作品も数多く描いています。

戦争を題材にした作品では、米ソが金魚に餌やりをするように核ミサイルを増やしたり、星条旗の帽子をかぶった男の歯は核ミサイルになっていたり。一見すると暖かい色調で温和な印象ですが、その主張は辛辣かつストレートです。


第2章「なにが聴こえる?」


1948年、当時の国連総会を構成していた58加盟国が世界人権宣言を採択。その宣言から40周年を迎えた1988年に、国際的なNGO組織であるアムネスティ・インターナショナルは世界人権宣言を書籍にすることを決めると、フォロンは各条文にあわせた挿絵を担当しました。

日本でもフォロンの挿絵と谷川俊太郎らによる翻訳が掲載された「人権パスポート」が発行されています。


第3章「なにを話そう?」


フォロンは1968年からフランスのビュルシーにアトリエを構え、その景色に刺激されたかのように地平線を描くようになりました。

1985年からはモナコにも新しいアトリエをつくり、水平線と船からもインスピレーションを受けたと語ります。

日本にも1970年に個展のために初来日。1985年と1995年にも個展を開催し、ともに来日を果たしています。


エピローグ「つぎはどこへ行こう?」


展覧会のタイトルは、フォロンが生前に使用していた名刺の肩書である「AGENCE DE VOYAGES IMAGINAIRES」(空想旅行代理店)から。フォロンを案内人として、その作品世界に連れて行ってもらうという趣旨から、素敵なタイトルになりました。

展覧会は巡回展で、東京から始まって次は名古屋へ。万博の時期に大阪のあべのハルカス美術館で開催されます。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年7月12日 ]

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