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38歳右代啓祐、再起の理由|『チーム啓祐』が世界のアスリートの教科書になる日

Sports

数多くのオリンピック・パラリンピック出場アスリートをサポートしてきた味の素株式会社の『ビクトリープロジェクト®』。陸上競技で最も過酷とされる十種競技の日本記録保持者・右代啓祐選手のサポートでは、栄養面だけでなく、“走り”の技術への科学的アプローチに関しても『ビクトリープロジェクト®』メンバーとともに取り組んできました。
味の素社の従来の専門分野である食事、栄養だけでなく、「選手のパフォーマンス向上」を真剣に考えた結果のチーム作り。そこに対する強い“想い”を、右代選手のサポートをする『チーム啓祐』のリーダー、栗原秀文さん(以下、栗原)を中心に、チームメンバーにお話を伺いました。

味の素『ビクトリープロジェクト®︎』のはじまり

2003年、味の素社は『アミノバイタル®︎』のマーケティングの一環としてアスリートのサポート活動『ビクトリープロジェクト®』をスタートさせました。「マーケティングの重要なアクションの1つだった」と栗原さんが話すそのプロジェクトは、その後、各種競技連盟のパートナー、オリンピック・パラリンピックのスポンサー、大会現地での栄養サポートなどに発展し、日本のトップアスリートの輝かしい結果を支えてきたプロジェクトと言っても過言ではないものへと進化してきました。

こうしたアスリートへの栄養サポートの知見は、一般の方にも『勝ち飯®』として広まっています。しかし、そんな『ビクトリープロジェクト®︎』もコロナ禍により改めてその価値を考える機会が訪れます。

栗原)東京2020大会が1年延期になり、このプロジェクトがどうあるべきかということをよく考えた結果「パフォーマンスに貢献できるサポートをしたい」と改めて感じました。パフォーマンスが上がるための3要素は、“運動・栄養・休養”であり、私たちの専門領域である“栄養”のことだけを考えているようでは、パフォーマンスに貢献ができているとは言い切れません。

どういうプロセスで選手のパフォーマンスが向上するのかというイメージを持ちながらサポートしないといけないですし、運動・休養の取り方によっても必要とされる栄養の組み立ては変わってきます。『ビクトリープロジェクト®︎』のアウトプットの価値を高めていくために、「栄養でサポートする」だけでなく私たち自身が成長し、領域・視野を広げていくことが必要だと思いました。

右代選手とともにトレーニングをする栗原秀文さん(写真右)

こうした自分の専門領域以外との関わり方は、味の素社の社風に通ずるところがあると栗原さんは言います。

栗原)味の素社は、自社製品を売るためだけではなく、お客さんのため、世の中のためになることをずっとやってきました。
この『ビクトリープロジェクト®』も、目的達成のためのすべての関係性を視野に入れながら、自分たちの特徴、スペシャリティを出していく必要があります。そして、ちゃんとアスリートをサポートするチーム全体に対して手を伸ばし、いつでもコミュニケーションが取れるようにしておくようなスタイルでやっていきたいと思うようになりました。

右代選手の“走り”という課題感にボブスレー元日本代表監督の石井和男さんを加えたのも、これまで別の選手のサポートで一緒にやってきたトレーナーの三富陽輔さんや、工学博士の柿木克之さんらを『ビクトリープロジェクト®』のアドバイザーとして迎えたのもこのような理由からです。

集まった最高の“チーム”

栄養だけでなく、すべての面からアスリートをサポートする。

そうしたプロジェクトの代表例となるのが、2022年からスタートした『チーム啓祐』。十種競技の右代啓祐選手(以下、右代)を支えるチームは、ボブスレー元日本代表監督で走りの専門家である石井和男さん(以下、石井)、トレーナーとして数多くのアスリートに接し、栗原さんとのパートナーシップも強固な三富陽輔さん(以下、三富)、科学的な知見を持ってアスリートの動作解析・改善を行う柿木克之さん(以下、柿木)、そして広報やマネジメントの担当から成り立ちます。

それぞれ、“チーム啓祐”としてチームに加わった際のお話を伺いました。

石井)最初に右代選手と取り組み初めてわかったのは、彼の体は一級品なのですが、出力に左右差があったり、技術はチグハグでバラバラな状態であること。それは、日本記録を出した一番いいときから、徐々に時間をかけて崩れていってしまったのだなということもわかりました。単なる技術的な改善だけでなく、思考の変化も含めてじっくり付き合ってサポートしていかなければならないと感じていました。

石井和男さん

三富)右代選手とは同年代で、リオオリンピックの旗手をされていたイメージや、しっかりした方なんだろうなというイメージは持っていたのですが、実際にお会いしたことはありませんでした。
ですが、初めて会ってお話を聞いたり体を触らせていただく中で、「こんなトップアスリートでもまだまだ未開拓な部分があるんだな」と思いました。

三富陽輔さん

柿木)私自身は、工学博士としてスポーツの世界を研究し、現場に知識としてフィードバックする活動をしていました。自転車競技を中心に行ってきたので、陸上競技における複雑な体の動きというのはまだまだ難しい部分も多く、不安もありながらわくわくする気持ちを持ってチームに入りました。正直、そもそも100m走がこんなにも細かな技術の積み重ねが必要だということも初めて知りましたし、私自身も勉強しながら取り組んでいました。

柿木克之さん

右代啓祐という“十種競技の教科書”を作り替える

右代選手は日本の混成競技におけるパイオニアであり、文字通り“第一人者”。恵まれた体格とたぐいまれな身体能力を持ち、努力を重ねることで強くなってきた選手に対して、論理的に強化するための「思考と習慣」を変えていくことが必要な状況でした。選手・チームそれぞれにとって難しい作業となりますが、そこを専門的にアプローチしていくのが『チーム啓祐』です。

栗原)野球に例えると、素振りの正しい方法も知らずにホームランを打ててしまうような才能を持つ右代選手ですが、その真面目な性格もあってさまざまな情報を収集して、思考の幅が逆に“広がりすぎている”状態になっていました。また、何事も全力を出さないと納得がいかない性格でもあるので、すべてに全力で頭もパンパンな状態で、“力み”があることが大きな課題でした。走るときに力んでしまうことで、上腕がどんどん太くなってしまうほどです。ここに対しては本当に何十通り、何百通りのアプローチをしてきました。

石井)こちらで持っている知識というものは、研究熱心な右代選手にとってはすでに知っているものであることも多かったです。ただ、それをどこまで落とし込んだのか、どのような組み合わせで取り組んできたのかという実用的な使い方ができていなかったり、基礎的な部分がおろそかになっていた部分もありました。こちらも自分の持つ引き出しをフルに活用して、いかに正しいことを落とし込みやすくするのかという組み合わせやアプローチを考えながら緊張感を持って取り組んできました。

三富)一度右代選手が膝を痛めたことがあったのですが、それまでにも増して「なぜ痛めるのか」ということに向き合って治していきました。これまである程度“気合と根性”で乗り越えてきた右代選手ですが、こちらからのメニューやアドバイスを素直に受け入れるだけでなく、すごく嬉しそうにやってくれるところはとても印象的でした。とくにコンディショニングの部分は、年齢も重ねてきているので、改めて一緒に作っていきました。

それぞれが“右代啓祐”という現状を捉え、改善に向けて技術だけでなく思考・習慣に対してもアプローチしてきたチーム啓祐。工学エンジニアとして、選手の動作を解析し改善に活かす柿木さんも、人間の動きという三次元のものを測定する難しさもありながら、自身の知識もアップデートさせながら向き合いました。

柿木)工学的な研究方法の前提条件として、データを取り続けて傾向として捉え、長期的にどう変化したかを観測しなければなりません。
私の専門とする自転車競技は、自転車に機械を装着できるのでデータとして計測がしやすい競技なのですが、陸上競技におけるそうした測定方法はまだ確立されていません。右代選手とのプロジェクトは、どのように既存のセンサーを使って“計測”ができるのかという点を仮説を立てながら実践し、フィードバックできる機会にもなりました。石井さんと右代選手が数値を見ながら話している内容も、私にとっては貴重な経験になっています。

栗原)こうしてチームの皆さんのそれぞれの知見を合わせながら、さまざまなことに取り組んでいます。これ以外にも、岡山大学の津田先生のリズムトレーニングも取り入れてみたり、私たちもチャレンジしながら取り組んでいる状況です。
もちろん右代選手を強くしたいという想いもありますが、今後この『チーム啓祐』で得たものをどのように“教科書”にしていくかという点も大切なことだと捉えています。「この取り組みをどう残すか?」ということにチームとして取り組んでいるというところも、またこのチームのおもしろさでもあります。

編集後記

レジェンド・右代啓祐選手を支えた『ビクトリープロジェクト®』。4名ともが、高い熱量を持ってこのプロジェクトに取り組んでいることが取材を通してひしひしと伝わってきました。

右代選手のプロジェクトでありながら、メンバー全員がそれぞれの成長に繋げている、そんな素晴らしいそのチームの形に感動すら覚えます。次回の記事では、そのチームにおける“コミュニケーション”の部分に迫ります。それぞれの専門家がどのようにコミュニケーションを取り、共通の目的達成のために進んでいったのか、是非そちらもご覧ください。

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