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暴言で受けた脳ダメージはリカバリーできる! 傷ついた子どもに親ができること&すべきこと

サカイク

「暴言で脳が委縮する」というのは事実です。前編では、東北大学教授の瀧靖之教授に暴言や暴力が子どもに与える影響を脳科学の観点からお話いただきました。

練習や試合中に聞こえるコーチからの暴言が気になるだけでなく、自宅でもついついそれに近い叱り方をしてしまって親として反省することはありませんか。

そこで今回は、知らず知らずのうちに子どもにストレスを与えないために保護者である私たちができることを伺いました。
(取材・文:小林博子)

 

 

<<前編:暴言で子どもの脳が萎縮する? サッカーにも学力にも悪影響しかない理由

 

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■指導者の暴言で凹んで帰ってきたら、家では褒めて!

子どもが練習や試合で、指導者からの暴言などを受けて帰ってきたら、その場合は、家庭でそのストレスをリリースさせてあげましょう。その方法は「たくさん褒めること」だと伺った前回。

まずはその理由から瀧先生に解説していただきました。

「脳の中で、記憶の司令塔的な役割をする『海馬』と、感情を司る『扁桃体』が密接なつながりがあることを前回は解説しました。ストレスを受けて海馬が萎縮すると、扁桃体の働きを制御できなくなり、不安やイライラが増大します。自分に自信がなくなり自己肯定感が低くなっている状態とも言えるでしょう。それを回復させるのが褒めることなんです。外で受けたダメージは家で修復してあげてください」と、瀧先生。

  

■海馬は日頃の生活によって復活する可能性も

 

人間の脳の細胞は、生まれてから増えることはないというのが今の脳科学の主流ですが、実は海馬だけは例外で、神経細胞の一部が日々生まれ変わっていると言われています。

そのため、たとえ慢性的なストレスで海馬が萎縮してしまったとしても、日頃の生活習慣によっては「回復」する可能性があるのです。

だからこそ、家庭での声がけに意味があります。親子の会話でストレスそのものを癒しながら、海馬の回復につながるコミュニケーションを意識してみてください。

 

■「褒める」と「叱る」の両立が子どもの自己肯定感を育む

 

ただし、やみくもに褒めればいいというわけではありません。指導者から叱られた内容によっては、「あなたが悪かった」と伝えることも大切です。例えば遅刻や嘘、社会的なルールを破った時などです。

厳しく育てなくてはという意識と、褒めて認めてあげる優しさのバランスは難しいものですが、「叱るべきところではしっかり叱る」「褒めるべきところでは思いっきり褒める」を両立することが最適解だと瀧先生は言います。

子どもにとって最も辛いのは暴言ではなく「無関心」。褒めるだけではなく、適切な場面ではちゃんと叱ることで「自分のことを見てくれている、構ってもらえている、大切に育ててもらっている」、つまり愛情をかけてくれていると感じられることは、褒めるだけの育児よりも自己肯定感を伸ばすことだと脳科学的にも言われているそうです。

家に帰れば共感してくれる家族がいる。自宅がそんな安心できる安全地帯であれば、学校やチームでどんなストレスを受けようと自己肯定感が損なわれず、いつでも自分らしくいられます。

「あんなこともしてみたい」といった積極性もそこから生まれますし、いわゆる「非認知能力」も高まります。それは幸福感につながり、よりよく生きる土台になることでしょう。

 

■海馬の隣にある「扁桃体」にも影響が

脳の中で海馬がある部分の隣には、「扁桃体」という部分もあります。海馬と密接な関係があり、海馬の萎縮により扁桃体が過活動してしまうという相関性があります。

そうなると、不安が高まる傾向にあることがわかっています。

本来であれば扁桃体が得た不安を海馬が沈めてくれる関係性でもあるのですが、海馬が萎縮して働きが鈍くなるとそれができなくなることが原因です。

不安は誰しもが持つ感情ですが、鎮めるものがないとどんどん膨らんでいく傾向にあるため、海馬の役割は大切なのです。

 

■大人が大切にするべきなのは「一貫性」だけど...... 

 

褒めると叱るのベストバランスに大切なのは、親のスタンスがブレないこと。

「前回はこれをしても叱られなかったのに、今回は猛烈に怒っている(そして暴言とも取れることを言われる......)」ということが起こったら、子どもは困惑し、信頼関係が揺らぐことにも繋がりかねないのが怖いところです。

とはいえ、私たち保護者も1人の人間ですし、悩みやストレスもたくさん。時には思わず子どもに八つ当たりするような言葉を使ってしまったり、余計なことまで入ってしまったりということもあるはずです。

親の海馬もストレスや加齢によって萎縮して、感情コントロールが難しくなっている可能性だってあり得ます。

子どもの海馬の大きさを心配するなら、自分の海馬もキープしなくてはならないことに気づきませんか。

 

■ストレスには有酸素運動と、人との会話

「慢性的なストレスを受けない」ことが海馬の萎縮を回避する方法であることはもちろんですが、それ以外にも海馬の萎縮を予防する日常生活のポイントは多数あります。

・運動をする(有酸素運動がベスト)
・睡眠時間を確保する
・アルコールの過剰摂取を避ける
・日頃から会話をする
・趣味を持つ

中でも瀧先生がおすすめするのは「運動」と「会話」です。運動をすると気持ちがすっきりするのは、海馬と密接な関係にある「扁桃体」の過活動が抑えられて不安が消滅するからであり、それは海馬が与える影響と同じものです。鬱状態にある人に運動が効くのも全く同じ原理です。

そのため、日頃から適度な運動をしている人の海馬は萎縮しにくく、感情コントロールもしやすくなるとか。

「まとまった時間が取れないなら、日常の移動を早歩きにするだけでも変わります」とのことでした。

また、会話は最も効果的なストレスリリース法とも言えます。気持ちを言葉にして整理できること、大切な人と理解し合えることによる効果は脳科学的にも実証されているからだそうです。

 

■親もストレスを抱えすぎないことが、朗らかな日々を過ごすカギ

子どもの心を暴言やハラスメントから守るための具体的なアドバイスを多数いただきました。脳科学的な観点からの対策は説得力があります。

そして、はからずして親が子どもにストレスを与えすぎないためにも、子どもだけでなく親の「海馬」への意識が必要なこともわかりました。

どれも今日からすぐにできそうなことばかり。ぜひ意識してみてください。

 

 

瀧 靖之(たき やすゆき)教授
東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長および加齢医学研究所 臨床加齢医学研究分野 教授。医師。医学博士。東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳のMRI画像は、これまでに16万人に上る。10万部を超えたベストセラー『生涯健康脳』(ソレイユ出版)、『回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣』(青春出版社)など著書多数。

東北大学スマート・エイジング・カレッジ
https://www.sairct.idac.tohoku.ac.jp/prof-yasuyuki-taki/

 

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