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世界中のヤング・ジェネレーションが注目!世代を超えたジャパニーズ・フュージョンの魅力

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2025年05月21日 ジャパニーズ・フュージョンオムニバス「CROSSOVER CITY -Asayake-」発売日

今こそ聴くべきジャパニーズ・フュージョン


ジャパニーズ・フュージョンの膨大なカタログの中から、“今こそ聴くべき楽曲” を集めたコンピレーション・アルバム『CROSSOVER CITY』シリーズ。レコード会社5社共同企画、5タイトルのCDが同時リリースというこの企画を紹介しよう。

そもそも “フュージョンって何?” という方もいることだろう。教科書的に説明するならば、 “ジャズの進化の過程で、ロック、ポップス、ソウル、ラテンなどと融合した音楽” である。主にジャズ畑のミュージシャンが多いため、プログレと並ぶテクニカルな音楽の象徴でもある。ただ、テクニック重視の部分だけが取りざたされたり、逆にBGM的で退屈と揶揄されたり、ネガティヴな印象を持つ音楽ファンも少なくない。

しかし、そんなジャパニーズ・フュージョンが、昨今国内外の若いリスナーから注目を浴びている。80sリバイバル、シティポップ・ブームなど様々なきっかけがあってのことだが、いずれにしても日本の音楽が世界中のヤング・ジェネレーションに再評価されることは喜ばしい。ここでは5タイトルの『CROSSOVER CITY』シリーズの聴きどころを、1枚ずつ解説していきたいと思う。

ニューヨークのミュージシャンを集めて録音した深町純「On The Move」


まずはソニー・ミュージックからのリリースとなる『CROSSOVER CITY -Asayake-』。オープニングは深町純の「On The Move」で、同名タイトルのアルバムからのピックアップだ。ジェット音から疾走感あふれる演奏が繰り広げられ、とにかく爽快な演奏を堪能できる。深町純はもともとシンガーソングライターとしてデビューしたが、ピアノやシンセサイザーを使った様々なスタイルとジャンルの作品を残している。その代表的な作品のひとつが、ニューヨークのミュージシャンを集めて録音した1978年発表の本作である。スティーヴ・ガッド、ウィル・リー、ブレッカー・ブラザーズといった錚々たるメンツがまぶしいが、ここでは華麗なピアノ・プレイを聴かせるリチャード・ティーと深町のシンセ使いの対比を楽しんでいただきたい。

カシオペアの代表曲「Asayake」


深町純はアルファレコードからのリリースだったが、アルファは多数のフュージョンの傑作を生みだした重要レーベルのひとつといえる。なかでも、代表的なのがカシオペアだ。ギタリストの野呂一生を中心にしたインストグループは、1980年代のフュージョンブームを牽引した存在と言っていいだろう。1982年に発表したライブアルバム『MINT JAMS』は驚愕のテクニックを楽しめる傑作だ。向谷実(キーボード)、櫻井哲夫(ベース)、神保彰(ドラムス)という黄金メンバーによる最高の演奏が記録されており、ポップでカラフルなアートワークの力もあって、昨今では国内外で最も人気の高いレコードのひとつと言っていいだろう。代表曲「Asayake」のバンドならではの躍動感が素晴らしい。

「Hank & Cliff」に感じる独特のグルーヴ


カシオペアと並ぶ1980年代フュージョンの人気グループが、THE SQUARE(現:T-SQUARE)だ。こちらはギタリストの安藤まさひろが中心となったグループで、サックス奏者の伊東たけしが吹くリリコン(管楽器型の電子楽器)の音色が独特のポップ感を生み出していた。ここで収録した「Hank & Cliff」は和泉宏隆が弾くピアノのフレーズが印象的で、独特のグルーヴを感じさせる1曲だ。この曲が収められた1983年のアルバム『うち水にRainbow』は、当時彼らが松任谷由実のツアーサポートを行っていた関係もあって、ユーミンがトータルコーディネーターとして参加。彼女が楽曲提供を行っていることも考えると、フュージョンとシティポップの親和性が伝わるのではないだろうか。

坂本龍一がレコーディングした「カクトウギのテーマ」


シティポップとの関連ということでいえば、坂本龍一がカクトウギセッション名義でレコーディングした1979年の企画作『サマー・ナーヴス』からセレクトした「カクトウギのテーマ」も特筆すべきだろう。高橋ユキヒロ、小原礼というサディスティック・ミカ・バンド(もしくはサディスティックス)のリズムセクションに、鈴木茂と松原正樹のツインギターという、まさにシティポップ黄金人脈と言えるミュージシャンが大挙参加。ディスコ風のアンサンブルを披露している。坂本龍一は、この当時はYMOでの活躍はもちろん、大貫妙子、南佳孝、加藤和彦、サーカスといったアーティストのアレンジやレコーディングに関わっていたことを考えると、実に多岐に渡った活動を行っていたのかがよくわかる。

菊池ひみこ、「A Seagull & Clouds」の流麗でメロウな演奏


昨今の海外におけるジャパニーズ・フュージョンブームの流れで無視できない作品が、菊池ひみこの『Flying Beagle』(1987年)である。某動画サイトにアップロードされたアンオフィシャルな音源が、なんと800万回以上もの再生数を叩き出していることに驚かされる。菊池ひみこはもともと海外のミュージシャンとの共演も多いキーボード奏者ではあるが、カシオペアやTHE SQUAREなどと比べると、メジャーな存在とは言えない。それにもかかわらずこれだけ海外で聴かれているというのは不思議としか言いようがないが、動画サイトのコメント欄に絶賛する外国語が溢れている状況を見れば、熱狂的なジャパニーズ・フュージョンファンがいることを実感するだろう。実際、ここでセレクトした「A Seagull & Clouds」の流麗でメロウな演奏を聴けば、多くの人の心に響いているのは当然だろうと思ってしまう。

プログラミングと生演奏が同居した異色作「Silver Drape」


海外からの視点という意味では、鳥山雄司も今注目されているひとりだ。フュージョンギタリストとしてデビューしたが、徐々にサウンドプロデューサーとしての評価を高めていった。彼の初期作品は再評価が著しく、エアロビクス用に作ったという企画物のアルバムがヨーロッパで再発されるなど不思議な現象が起きている。ここで選んだ「Silver Drape」が収められたアルバム『TRANSFUSION』(1988年)は、1980年代後半という時代もあってプログラミングと生演奏が同居した異色作である。演奏技術だけでなく、レコーディングのテクノロジーも音楽性に関係していたという記録でもあり、その絶妙なバランス感は今聴くと非常に新鮮なのだ。

じっくりと味わいたいジャパニーズ・フュージョンの面白さ


他にも、アニメ『ルパン三世』のサウンドトラックでおなじみの大野雄二、関西のフュージョンシーンを牽引してきたNANIWA EXPRESS、フュージョンからニューエイジ・ミュージックやワールド・ミュージックへと幅を広げていった村松健、ジャズ界の重鎮トランペット奏者の日野皓正、フュージョン界のスーパーギタリストといわれる渡辺香津美のリー・リトナーとの共演作、ジャズ / フュージョンだけでなく歌謡曲からサントラまで幅広い活躍を見せた佐藤允彦、ヴェイパーウェイヴ周辺でカルトな人気を得ている堀井勝美プロジェクト、鈴木宏昌が名うてのミュージシャンを集めて結成したTHE PLAYERSと、多数の楽曲が『CROSSOVER CITY -Asayake-』に収められている。この当時のジャパニーズ・フュージョンの面白さを、じっくりと味わっていただきたい。

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