他の魚の「ウロコ」を食べる<鱗食魚>とは 不思議な食性は生き延びる知恵?
魚はプランクトンを食べたり、海藻を食べたり、自分より小さい魚を食べたり……と、様々な食性をもっています。
その中でも変わった食性をもつのが、他の魚の鱗を食べる魚です。これらを総称して「鱗食魚(りんしょくぎょ)」と呼びます。
「鱗食魚」とはどのような魚なのか見てみましょう。
他の魚を剥ぎ取って食べる奇妙な食性
鱗を食べる魚たちの多くは、エサが少ない環境に生息しています。彼らは厳しい環境の中で生き残るため、エサとしてライバルが少ない魚の鱗を選んだのです。
しかし、いくら食べ物として狙うライバルが少ないとはいえ、他の魚の鱗を食べて栄養にするのは簡単ではありません。タンパク質やリン酸カルシウムを豊富に含む鱗を消化できるように、鱗を食べる魚たちは胃袋を進化させました。
そして、より効率的に狙った獲物から鱗をはぎとれるように、口や捕食行動を発達させたのです。
無害な魚に擬態!? 工夫を凝らした擬態
鱗を食べる魚は淡水・海水を問わずに生息しており、日本で見られる種類として有名なのはクロスジギンポです。
大型魚の寄生虫などを食べる“掃除屋”として、他の魚から信頼を得ているホンソメワケベラに擬態しています。
ホンソメワケベラのフリをして警戒されないように他の魚に近づいたあと、牙で鱗や皮膚をはぎとるのです。
魚の掃除をするホンソメワケベラの口はおちょぼ口のように丸くなっていますが、クロスジギンポの口は真ん中より少し下側についていることで見分けられます。
他にもアジやナマズの仲間など、様々なグループで鱗を食べる魚が見られます。
生き物の「利き」の研究に役立つ注目の魚
鱗を食べる魚の中でも注目されているのが、アフリカのタンガニーカ湖に生息する、ペリソダス・ミクロレピスという魚です。
ペリソダス・ミクロレピスは魚から鱗を剥ぎ取るときに“左利き”と“右利き”があり、“利き”に合わせて獲物の魚へ攻撃する方向が変わります。
これは生まれつき持っている性質ではありません。成長と共にこの魚の「右利き」「左利き」が会得されていき、口が右に向かって大きく開く「左利き」と、逆の「左利き」の特徴が現れるのです。
魚は人間に比べて寿命が短く、“利き”を会得していく過程を観測しやすいため、利きの仕組みを解明するための研究が進められています。
研究が進めば、人や動物の“左右の利き”のメカニズムを解明することができるでしょう。
日本で展示している水族館
ペリソダス・ミクロレピスは、「世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ」(岐阜県各務原市)が2022年から世界初の常設展示を行なっています。
ペリソダス・ミクロレピスの生息地であるタンガニーカ湖をテーマとした水槽で飼育されているので、訪れた際には生きた姿を観察してみてください。運がよければ、捕食行動も見られるかもしれません。
鱗を食べるという興味深い生態だけでなく、“左右の利き”の研究にも役立つ鱗食魚。それらの特徴は、厳しい環境でエサを確保し、いかに効率よく捕食をするかという進化の過程で得られたものです。生命のたくましい力を感じる魚ですね。
(サカナトライター:秋津)