「佐藤健は“座長”として引っ張っていく力がある人」大内貴仁アクション監督が明かす『はたらく細胞』制作秘話!
人間の体内で働く細胞たちを擬人化した人気漫画『はたらく細胞』が、永野芽郁さん&佐藤健さんのダブル主演で実写映画化! 12月13日(金)より全国公開中だ。
本作では、原作のコメディ要素や、細胞の活躍を学べる魅力はそのままに、実写ならではのアクション面が大幅強化されている。「細胞たちの超絶アクション」という前代未聞の難題に挑戦したのが、本作のアクション監督を務める大内貴仁さんだ。
大内さんは、『るろうに剣心』(2012年)、『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編』(2014年)にスタントコーディネーターとして携わり、アクション監督・谷垣健治さんのもとで佐藤健さんと新時代の時代劇アクションを作り上げた。そして今作では、そんな佐藤健さんの「『るろ剣』以上のものを」という想いがあり、大内さんがアクション監督に就任。
ある意味では、体内で働く細胞たちも、それぞれが外敵から体を守る「ヒーロー」たちだ。そんなヒーローたちそれぞれの個性を、アクションでどう表現したのか?『はたらく細胞』アクションの、制作秘話に迫る!
「佐藤健は主役として、座長として引っ張っていく力がある人」
―『はたらく細胞』のアクションの方向性は、どのように構想したのでしょうか?
大内貴仁(以下、大内):原作を読んで、体の中でこんなことが起こっているんだって、自然に学べた部分があったんですよね。それがすごく面白いなって思ったのと、同時にすごくエンタメ的だなって印象も持ったんです。
この作品のアクションをやるなら、できるだけ「地に足がつきすぎたアクションにしない」というか、しっかりとエンタメ性やファンタジー性を持たせよう、というところは意識しましたね。
―原作ではアクション要素の比重がそこまで大きくないと思うのですが、そういった作品でアクションを演出する際に意識する点は?
大内:原作の中で戦いの描写があまり描かれていないということは、逆に言えば、どういう方向性でもいけるということじゃないですか。僕は漫画原作の作品を結構やっているんですが、漫画では「そのシーンの描写はされているけれど、戦い自体はしっかり見せていない」ということは多いんですよ。だから、そこはもう「こういう戦いにしたら面白いな」と自分の中でイメージしてやるわけですが、その時に一番大事なのは「キャラクターを知る」ということです。たとえば白血球(好中球)だったら、明らかに「るろうに剣心」の剣心とは違う魅力があるわけで、そういったキャラクターごとの魅力をまず意識しますね。
―佐藤健さん演じる白血球(好中球)が使用する武器はナイフですが、 リーチの短い刃物を使ったアクションはいかがでしたか?
大内:ナイフアクションと刀(ソード)アクションは似ているように感じるんですが、全然ちがうものなんです。ちょっとマニアックな話になりますが、ナイフはスナップをきかせて斬るので、振り方も刀と全然ちがいます。一番のちがいは、距離です。刀や剣というのは、ひと振りひと振りが大きいので、見栄えがしやすいんですね。
ナイフアクションが難しいのは、振った時に人の体に隠れたりして、画の中で見えなくなってしまうことです。ナイフのアクションを見せるためにカメラがどんどん中に入っていくんです、そうすると長回しのショットが撮りづらくなったりといった難しさがあります。だから、刀に比べてフィジカルの動きをもっと見せたり、ナイフの大きさや見た目にもこだわったり、そういった部分は突き詰めましたね。
―今回、佐藤健さんからのご指名もあったとのことですが、『るろうに剣心』シリーズでもご一緒している佐藤さんとのお仕事はいかがでしたか?
大内:佐藤健くんとは、『るろうに剣心』『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編』と、その後に『亜人』(2017年)もやっていますが、毎回何か新しいことをやりたい、今までよりもっとすごいものを作り上げたいという想いが、接するたびに伝わるんです。
僕は一番最初に、彼がやりたいイメージを聞くんですが、作品を愛していて、お客さんに“こう届けたいんだ”という想いが強いんです。だから、シンプルにすごい役者さんであること以上に、主役として、座長として引っ張っていく力がある人。もちろんアクションも表現力も素晴らしいんですが、作り手としての目線で客観視もできる、そういったところがすごいなと思います。
―すごく広い視野で作品を見ている部分があるんですね。
大内:そうですね。でも、そうなっちゃうと、役者の練習とか“ちょっとしんどいな”ってなるじゃないですか。でも彼は、演じる時はしっかりとレッスンを重ねて作り上げている。アクションがすごい苦労をして作られているということを彼は理解しているので、その部分で自分の努力も怠らないところがすごいですね。
「山本耕史さんは、いつも面白い味付けをしてくれる」
―本作にはバラエティ豊かなキャラクターが登場し、使用する武器も個性的です。それぞれのアクションのスタイルは、どのように作り上げていったのでしょうか?
大内:キャラクターや武器を理解した上で、その武器での戦いが面白くなるアイデアを考えていきます。武器の長さや形状にもこだわります。たとえばサーベルの長さでも、厳密に“何センチじゃないといけない”ということはないじゃないですか? 僕らは、5センチ変わるとアクションの動きが変わるんですよ。 中に入れるか、外から斬るか。短くすることによって打撃として使えたり、アクションの幅が広がったりするんです。
今作で言ったら、NK細胞(演:仲里依紗)が使っているサーベル。これは剣と同じと思いきや、使い方はまったく違うんです。サーベルは、トルクのように回転と重みを使って叩き斬るイメージ。あとは柄の部分に<護拳(ごけん)>と呼ばれるものが付いています。ここでガードができたり、パンチを打ったり、刀を弾いたり。僕らの中では、その武器のフォルムによってアクションでどんどん変えられるんです。
―山本耕史さん演じるキラーT細胞は、山本さん自身がノリノリでアクションを楽しんでいるように見えたのが魅力的でした。
大内:山本耕史さんとは今回初めてご一緒したのですが、毎回面白い提案をしてくれました。僕たちの演出意図やアクションを壊すようなことではなく、そこに味付けをしてくれる。本番の時に、ちょっと違う表情をつけたり、「こういうのはどうですか? こういうのって面白いですよね」と、作りながら盛り上がっていけるんです。だから映像を見た印象のまま、役に入ったら本当に楽しんでやられていて、そこがすごく魅力的で僕らも見ていて楽しかったですね。
山本さんが演じたキラーT細胞は、もう見た目でわかりやすくパワフルで、エネルギーで戦うイメージなんですが、その中でも僕が着目したのは「仲間との協力プレイ」です。他のキラーT細胞たちを束ねて戦うという印象が強かったので、そこをフィーチャーできたら面白いんじゃないかと。仲間を助けつつ、仲間を上手く使って戦う、そういう表現ができたら普通のパワーキャラクターとの違いが出せると思ったんです。
「仲里依紗さんは素晴らしいアクション俳優。松本若菜さんもすごく頑張り屋で魅力的」
―仲里依紗さんが演じるNK細胞も、アクション面で中核を成すキャラクターの一人ですが、こちらの演出はいかがでしたか?
大内:仲里依紗さんとも初めてお会いして、どう表現したらいいのかわからないんですが、“仲さんそのまんま”だったんですよ(笑)。Vコンテ(※ガイドになるアクションを撮影した映像コンテ)を見せたら、「私がこれを本当にやるんですか~?」なんて感じで、練習初日の時点では「本当にNK細胞になるのかな……?」と思っていたんです。でも本番通りのカメラの動きで「NK細胞のつもりでやってください」ってカメラを回した時に、表情もアクションもバッと変わって、鳥肌が立ちました。そしてカットがかかったら、「ちょっと失敗しちゃった~」って。そのギャップがすごくて。
アクションというのは、どんどん難しく複雑にしていけば良いかというと、そうじゃないと思うんです。僕は、誰でもできる手を誰よりもカッコよく見せられる人が素晴らしい役者であり、表現者だと思っているんですね。だから、僕がシンプルなアクションをつけても、表情と仕草でそれを超えてくるという点では、仲里依紗さんは素晴らしいアクション俳優だと思います。現場でも毎回すごく褒めていたんですが、褒めれば褒めるほど良くなるし、自信がつくとどんどん表現力を増していくといった感じで、すごいと思いましたね。
―個性的な武器、というと松本若菜さん演じるマクロファージの大剣を使ったアクションシーンも印象的でした。
大内:僕は、マクロファージが戦ってるところをもっと見たいな、という印象があったんです。でも、実際のマクロファージのシーンは結構短めに集中しているので、これは見せ方がすごく難しいなと感じました。可憐な女の人がいきなり大きな刀を振っている、というだけでも面白いとは思うんですが、僕の中ではもっと“登場感”が欲しいと思って、そこにはこだわりました。
そこで、一発で「すごいやつが来た!」となるような印象的な映像を見せるために、ちょっと漫画的な演出をしています。あのシーンはCGではなく、実際に松本若菜さんに大きな刀を持って練習してもらったので、すごく大変だったと思うんですよね。すごく頑張り屋さんで、魅力的な役者さんでした。
「Fukaseさん演じる“謎の敵”の戦い方は、僕から提案させてもらったんです」
―菌たちの触手攻撃など、“CG処理を想定した殺陣”も数多く取り入れられていますが、こういったCGを使ったアクションが本作で果たした役割はどのようなものでしょうか?
大内:最初に言ったエンタメ性、ファンタジー性というところで、これがもしハリウッド作品だったらキャラクター自体が全部CGで、バンバン飛んでくるじゃないですか。でも、今作では特殊造形で行くという方向性があったので、じゃあこの枠の中でどう見せていくか、ということを考えるんです。
僕の中では、どれだけ役者の表現力があっても、パッと引いて見たらオープンで着ぐるみと戦っている“キャラクターショー”に見えてしまうことが一番怖かった。それを避けるために、まず一つは難易度の高いワイヤーアクションを間、間に入れて、大きいアクションシーン、面白いアクションシーンを作ること。そしてもう一つが、CGの表現ですよね。触手のCGの表現も、こちら側からできるだけ早い段階で提案させてもらって、Vコンテにもアクション部で簡易的にCGを入れて、密に作り上げていきました。
―大内さんが同じくアクション監督を務めたNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』(2023年)でも、CGと生身のアクションの融合が見事だと感じましたが、本作でもその路線が押し進められていますね。CGを使ったアクションを演出する上で意識している点はありますか?
大内:日本でもCGのクオリティはどんどん上がってきてるんですが、やっぱり何もない物を想像しながらアクションするのはすごく難しいんです。なので、できるだけ表情や緊迫感がリアルになるように、実際にガイドになる物を用意して、本番直前のリハーサルまでしっかりとタイミングなどを練習した上で、本番は何もなしで撮影する手法をとっています。そうやって段階を踏んでいくことで、CGを入れても嘘がないリアルな表情、躍動感に見えてくるんです。僕らにも『幽☆遊☆白書』をやった経験があって、そこで苦労した部分もあるので、その中でしっかりと段階を踏んで役者さんにアクションを伝えていくことが重要なんだと感じましたね。
―今回、Fukaseさんが演じる謎に包まれた最大の敵は、念力のような力を使って戦いますが、CGでなく人力で念力的な表現を見せますね。こちらのアクションについてはいかがですか?
大内:Fukaseさんが演じる謎の敵が、周りにある物をコントロールして、人体をロケットのようにぶつける、という戦い方は僕から提案させてもらったんですよ。武内(英樹)監督の方から、何かアイデアはないですか? というような話もあって。そこで、CG的な表現だけじゃなくて、もっと具体的に僕らでもコントロールできる表現として、自分の周りのものを武器のように扱うアクションが面白いんじゃないかと思ったんです。Fukaseさんは、やっぱり表現力が素晴らしかった。僕たちが「もっとこうしたい」と言ったら、そこにどんどん歩み寄ってくれる感じでしたね。
「全キャストに対して、全キャラクターが本当に当てはまった」
―そろそろ残り時間が少なくなってきたのですが、気になっていることがありまして、“肛門のシーン”についてお聞きしても良いでしょうか?
大内:はい(笑)。
―肛門の集団シーンは、『HiGH&LOW』シリーズ(2016年ほか)の集団戦のエッセンスも感じたのですが、あのシーンはアクションの範疇でしょうか? 本編の範疇でしょうか?
大内:そこは、難しいんですよね(笑)。僕は他のシーンの準備などもあって、立ち会ってないんですよ。他のアクションシーンは僕がモニターを見てオッケーを出すわけですが、あのシーンはアクション部のスタントマンとスタントコーディネーターの協力のもと、武内監督が演出しています。
やっぱり多人数のアクションの時は、エキストラさんもたくさんいるので、絶対にケガがないようにすることと、熱量を落とさないようにエネルギーを上げていくことが大事なので、このシーンではスタントコーディネーターがそこに気をつけて現場全体をサポートしてくれています。
―ありがとうございます! それでは最後に、大内さんの感じる『はたらく細胞』のアクション面での見どころを教えてください。
大内:今回は、体内で繰り広げられるウイルスと細胞のバトルという新しいテーマのアクションにチャレンジできたことで、子供から大人まで楽しめる、『はたらく働く細胞』ならではのエンターテイメント性のあるアクションが生まれたんじゃないかなと思っています。
武竹内監督が作り出すコメディや感動的な要素、そして魅力的なキャストが演じるアクションがうまくマッチした、素晴らしい作品になっていると思います。それぞれのキャラクターやシーンごとにアクションのテイストや演出にも変化をつけているので、そのあたりも楽しんでいただければ嬉しいです。
取材・文:タカハシヒョウリ
『はたらく細胞』は大ヒット上映中