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子どもを伸ばす「ほめ方」の効果とは? 「自己肯定感」がほめるだけでは育たない理由〔心理学博士が解説〕

コクリコ

「子どもを伸ばすほめ方」とは? やみくもにほめても「自己肯定感」は育たない。子どもを伸ばして育てるためには「ほめ方のポイント」を押さえておく必要が!教育心理学を専門とする心理学博士・榎本博明先生が研究・調査の結果をもとに解説。

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1990年代に日本で急速に広まった「ほめる子育て」の育児・教育論。「子どもは𠮟らず、ほめて育てよう」という考え方は、保護者や保育者・教育者の間で、今や当たり前になりつつあります。

しかし、やみくもにほめればいいわけではありません。「ほめて育てる」ことの効果を得るためには、ほめ方のポイントを押さえておく必要が!

では、「良いほめ方」のポイントとは?

教育心理学を専門とする心理学博士・榎本博明先生に伺いました。

ほめるだけでは「自己肯定感」は育たない

「子どもはほめて育てよう」という意識は、日本における子育てや教育の現場で浸透しています。

自信がつき、そのことで自己肯定感が高くなり、何事にもポジティブになれて、人間関係が円滑になったり、さまざまなことにチャレンジできるようになったりして、結果的に、より良い人生になる──。

これが、ほめて育てることの効果とされています。誰でも、我が子にはそんな人生を送ってほしいと願うはず。その願いから、「ほめて育てる」を実践している人は多いのではないでしょうか。

「もし、ほめさえすれば自己肯定感が高まるのであれば、ほめる子育てや教育が日本中に広まった1990年代以降の子どもたちは、それ以前の子どもたちに比べると、当然、自己肯定感が高くなっているはずです」「ところが実際は、さまざまな調査結果を見てみると、ほめて育てることが自己肯定感を高めるどころか、自己肯定感の低さに悩む人を増やしていることがわかります」

こう言うのは、『自己肯定感という呪縛』『ほめると子どもはダメになる』などの著者で、心理学博士の榎本博明先生です。

ちなみに、「自己肯定感」という言葉は、2000年代になってから、榎本先生たちのグループが最初に使った言葉。それ以前は、心理学の世界では、「自尊感情」が同じ意味で用いられていたといいます。

▲ほめるだけでは「自己肯定感」は育たない、意識調査で明らかになった結果とは?(写真:アフロ)

「例えば、日本青少年研究所による、日本・アメリカ・韓国・中国の高校生の意識調査では、『自分はダメな人間だ』という項目に『よく当てはまる』と答えた日本の高校生は、“ほめて育てる”以前の1980年には12.9%でしたが、“ほめて育てる”が主流になってきた2014年には25.5%と約2倍になっているのです」

「『まあそう思う』を含めれば、2014年は、日本の高校生の72.5%が『自分はダメな人間だと思う』と答えていることになります。これが自己肯定感の高低をあらわす項目だとするなら、“ほめて育てる”を実践したところで、自己肯定感は高まっておらず、むしろ、大きく低下していると言わざるを得ません」

ほめて育てても自己肯定感は高まらないどころか、むしろ低下する。そうであるならば、自己肯定感を高め、子どもたちによりよい人生を送らせてあげるために、親として、できることは何なのでしょうか。

「子どもが学校を出てから厳しい社会を乗り越えていけるように、ときに厳しくしてでも、子どもの心を鍛えて社会性を身につけさせてあげることが大事です」「日本人は〝間柄の文化〟で生きていますから、周囲に溶け込み、周囲から認められることが、自己肯定感の向上につながります。ですから、わがままな子にならないように、社会にちゃんと適応できるように、育てること。それには、ほめるだけの育児や教育ではなく、叱ることが重要になってくるんですね(※)」

「目先のことだけ見るのではなく、20年後の我が子のことを考えれば、親として、今、やるべきことがわかるはずです」

逆効果になる「NGのほめ方」

ほめられれば誰でも嬉しいし、ほめられたことで自信がついたりします。そう考えると、「子どもはとにかくほめておこう」と思う親の気持ちもわからなくはありません。でも……。

「育児や教育雑誌の特集などを見ていると、ほめ言葉をたくさん身につけよう、とか、スキルを学んでほめ上手になろう、というような記事が目につきますが、どうも勘違いがあるような気がしてなりません。何でもかんでもほめればいいわけではないのです」

教育心理学の領域では、「ほめる」ことは「言語的報酬を与える」ことだと考えられています。その言語的報酬がモチベーションに与える影響はさまざま研究されていて、言語的報酬の与え方(ほめ方)によっては、逆効果になることも証明されています。

「例えば、易しい課題をクリアしたときにほめると、子どもは“この程度でいいんだ”と努力をしなくなったりします。また、“自分は大目に見てもらわないといけないくらい実力がないのか”と思ったり、“どうせ期待されていないんだ”といった感覚が生まれたりして、かえって自信がなくなる可能性もあるのです」

モチベーションを高めるという意味では、明確な根拠なしにほめたり、「あなたは本当にすごい!」などと、過度に一般化しすぎたほめ方をしたりするのも、逆効果だと榎本先生は指摘します。

「さらに、“100点満点取ったあなたはえらい。ご褒美に○○を買ってあげる”というようなほめ方もNGです」「このようなほめ方をすると、子どもはほめてほしくて、また、ご褒美がほしくて頑張るようになったとしても、心のどこかで“やらされている感”を持つようになって、モチベーションが下がることが、実験でもわかっています」

「結果」ではなく「努力した過程」をほめる

勉強にしろ、スポーツにしろ、何にしろ、我が子がいい結果を出せば、親としてもうれしいし、子どもをほめてあげたくなります。

しかし、榎本先生によれば、「“結果”をほめると、だいたい子どもによくない影響を与えてしまうことが、実験で証明されている」とのこと。

「テストでいい点を取ったり、何かで1等賞を取ったりしたとき、その結果をほめられたとしたら、“次もまた結果を出さなければならない”と、子どもはプレッシャーを感じてしまいます。そうすると、守りの姿勢に入って、冒険ができない子どもになってしまう」「実験でも、結果をほめられた子どもは、次には易しい課題を選びました。つまり、結果をほめられると、そこで子どもの成長が止まってしまうのです」

そこで着目したいのが「プロセス」。

「結果がどうであれ、“よく頑張ったね”などと子どもが努力した過程をほめるのです」「実験でも、結果ではなく、頑張ったという過程をほめられた子どもは、次にチャレンジしがいのある難しい課題を選んでいます」

「努力した過程をほめられれば、たとえ今回は失敗に終わったとしても、子どもは“次もまた頑張りたい”と思えるのです。子どもの長い人生を考えれば、やはり、努力して頑張ることができる大人に成長してほしいですよね」

正しい「ほめる」は「認める」こと

「ほめて育てる」が主流になっている昨今、子育ての雑誌やサイトなどでは、「こんなときには、こんな言葉をかけよう」などと、具体的なほめ言葉が紹介されていることも珍しくありません。

「でも、私は、いちいち“素敵!”とか“素晴らしい!”などと言う必要はないと思っています。“ほめる”というのは、そういうことではない、というのが私の考えです」「私が考える“ほめる”とは、“認める”こと。“プロセスをほめる”ことにもつながりますが、“よく頑張ったね”は、いわゆる“ほめ言葉”ではないかもしれませんが、子どもの努力を認めているということです」

結果はどうであれ、子どもが一生懸命努力したなら、その頑張りを評価する。子どもが、前はできなかったことができるようになったとしたら、「できるようになるまで頑張ったね」などと声がけをする。例えば、これもまた、子どもを「認める」ということです。

「子どもが、自分で自分の成長に目を向けられるようにしてあげるのが、親の役目ではないでしょうか。ほめるというよりは、親が子どもの努力を認めることで、子どもは、自分の成長に気がつき、“もっと頑張るぞ”とモチベーションが高まるのです」

「素晴らしい」とか「偉いぞ」など、いわゆる“ほめ言葉”をかけることが、「子どもをほめる」ということであれば、榎本先生は、自分の子どもを一度もほめたことがないとか。そしてまた、先生自身、親から一度もほめられた記憶がないとも。

▲正しい「ほめる」は子どもの頑張りを「認める」こと。頑張った過程を認められることで、子どもは自分で自分をほめる(=認める)力が身につく(写真:アフロ)

「私は自分の親から“この子は、親がほめなかったから、自分で自分をほめるようになった”と言われたことありますが(笑)、実はこれが大事です」「自分で自分をほめる(=認める)ことができるようになると、自分の中にいい循環が生まれます。自分で自分を奮い立たせるメカニズムができるんですね」

「逆に、自分で自分をほめる(=認める)術を知らないまま、親から一方的にほめられてばかりで育てられた子は、ほめられないとやる気が出ない場合が多い。モチベーションを他人に依存しているわけです。だから、ほめられるような成果を出せないときにはやる気を失う。まわりが自分に甘くしてくれないと、やる気が出ない。少し厳しくされると、心が挫けてしまう……」

「でも、他者から過度にほめられることなく、自分で自分をほめる(=認める)力が身についていれば、自分の中にドライブをかける動きが生じ、“よし、俺は頑張っているぞ”などと自分で思えるわけです。そうなったら、どこまででも頑張ることができるのです。これは強いですよ」

親が厳しいほど「やる気」アップ?

20歳前後の大学生と30~60代の人々を対象に、榎本先生は、ある調査を実施しています。

それによると、自分の父親は厳しかったという者は、30代以上は43%、大学生は32%、母親が厳しかったという者は、30代以上は51%、大学生は40%。

また、父親からよくほめられたという者は、30代以上は20%だったのに対して大学生は34%。母親からよくほめられたという者は、30代以上が36%だったのに対して大学生は61%。

「この調査結果からは、両親ともに厳しさが減少しつつあり、子どもをよくほめるようになっていることがわかります」「さらに、大学生に関して、両親の厳しさと本人の心理傾向との相関関係も調査しました。その結果、父親が厳しいほど『有能になりたいという思いは人一倍強いほうだ』『失敗から学ぼうという気持ちが強い』という自分の性質を肯定する傾向が見られました」

「そして、母親が厳しいほど『非常にやる気があるほうだ』『向上心が強いほうだ』『目標を達成したいという気持ちが強いほうだ』という自分の性質を肯定する傾向が見られ、『何事に対してもあまりやる気になれない』といった性質を否定する傾向が見られたのです」

「このような調査結果は、両親の厳しさが、子どものモチベーションの高さや粘り強さにつながっていることを示唆しています。この点からも、ほめるだけの子育てが、子どもを伸ばすことにはならないとわかるでしょう」「もちろん、だからと言って、子どもをほめるなとは言いません。大切なのは、“どんなときに”“どのようにほめるか”。そして、“ほめることと𠮟ることのバランスをどうするか”ということではないでしょうか」

【心理学博士の榎本博明先生に聞く〔「子どもを伸ばす」ほめ方・𠮟り方〕連載は全3回。〔“ほめるだけの子育て”がNGな理由・ストレス耐性を高める子育て〕について聞いた第1回に続き、この第2回では〔正しい「自己肯定感」の育て方〕をお聞きしました。次の第3回では〔日本の子育てに必要なこと〕を伺います】

◾️出典・参考
『自己肯定感という呪縛』榎本博明・著(青春出版社)
『ほめると子どもはダメになる 』榎本博明・著(新潮社)

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