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​【文芸誌「漣」12号】 山本恵一郎さん、最後の「小川国夫論」

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静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は奥付記載が2025年1月20日発行の文芸誌「漣」12号を題材に。書き手は井石誠一さん(静岡市)、田中芳子さん(同)、河原治夫さん(同)らで、表紙・カットは画家松井正之さん(同)。

編集後記によると、長く作家小川国夫(1927~2008年、藤枝市出身)について書いてきた山本恵一郎さん(静岡市)が、今号の小説「墓参」を最後に「小川さんから離れ」るという。半世紀以上小川国夫を主題にし、小川研究の基礎資料となる評伝を書き続けた山本さんの決断は、それ自体大きなニュースではないか。

「墓参」は2023年12月末に小川国夫の妻綏子(やすこ)さんが亡くなったの機に、山本さんが詩人武士俣勝司さん(藤枝市)を誘って小川家の墓がある島田市の敬信寺を訪ねる様子がつづられる。

あくまで小説なので虚実の境目を見極めようとする無粋は慎みたいが、武士俣さんとの対話を通じて、現時点での山本さんの小川に対する気持ちが率直に語られている。かつての評伝でも書いた「カミソリの刃のうえをあるくようなこと」だった小川との関係が生々しく伝わってくる。

1976年の「評伝小川国夫・第一部・東海のほとり」は小川の母まきさんへの取材に基づくものだったが、作家本人にとっては、不本意な内容だった。以後、小川は山本さんの講演や読書会に姿を現したり、内容を録音するようになったという。

「墓参」で山本さんは「ぼくが講座などでその〈母語り評伝〉の話をくりかえさないように用心しないようにしたのでしょう」と書いている。それでも山本さんはその後も小川について書き続けた。小川もそれを阻止することはなかったし、出版社から年譜の依頼があると山本さんを紹介した。

「信頼」という簡単な言葉では片付けられない間柄だ。ピーンとはった、緊張感をはらんだ糸の端と端に両者がいる。そんな絵が浮かんだ。

(は)

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