貴重な壷を子供が割った! 弁償したい父親に博物館が見せた対応は?
ニュースキャスターの長野智子がパーソナリティを務める「長野智子アップデート」(文化放送・月曜日~金曜日15時30分~17時)、今週は長野智子がお休み。9月11日(水)は小倉孝保(毎日新聞論説委員)、鈴木敏夫(文化放送解説委員)のコンビで、イスラエルの博物館で起きた、貴重な壷と家族をめぐる出来事について語った。
鈴木敏夫「イスラエルのハイファにある、ヘフト博物館。そこに展示された、たいへんな貴重な青銅器時代の壷を、なんと4歳の男の子が誤って割ってしまったと。なんで壷を割ってしまったんですか?」
小倉孝保「男の子は家族と一緒に博物館に来ていたんです。イスラエルの北のほう、ナハリヤという街から来た家族でした。ナハリヤは、レバノンを拠点にしたイスラム教シーア派組織ヒズボラからのロケット弾攻撃を毎日のように受けているところなんです」
鈴木「国境の近くで」
小倉「国境から数キロ離れたところらしいです。ハイファはもう少し南です。夏休みということもあって家族でイスラエルにある博物館、美術館をめぐりながら戦争とは違う落ち着いた空気を味わおうとしていたんですよ。親にしてみれば、日々ロケット弾の音がする、飛んでくるから逃げなさい、そういう状況から子供を落ち着いた空気のところで助けたかったと思うんです」
鈴木「我々はどうしてもイスラエル政権側から見る機会が少ない。ガザが大変だ、ネタニヤフがとんでもないやつだ、という目で見てしまいますけど、イスラエルに住んでいる国民からすれば逆に、ヒズボラ側からロケットが飛んでくるという恐怖を抱えている人たちが、特に国境沿いにたくさんいらっしゃるということですね」
小倉「そういう街の家族だったわけです。ハイファの博物館でゆっくりと展示物を見ていたんですけど、そこに青銅器時代の壷、B.C.(紀元前)2200年から1500年の間につくられたんじゃないか、とされている、ほぼ完全な形の壷があるんです」
鈴木「少し生成色(きなりいろ)というか薄褐色で、土で固めたような。2つ取っ手がついた、まさに壷です」
小倉「この博物館の特徴は、できるだけ、見にくる人と展示品の距離を近づけようということで、ガラスケースとかに入れていないんです。怖いと思うでしょう? 僕も思います。でもここはずっとそのやり方で。触ってもいい。だから4歳の子は、お父さんやお母さんが少し離れているところで壷を見ていたと。ガチャン、という音がしたからお父さん、お母さんが振り返ったら、この子の足元に壷が落ちて粉々になっていた。ドキッとしますね」
鈴木「ドキッどころじゃありません。卒倒しますね」
小倉「紀元前のほぼ完全な形の壷なんですよ。すごく珍しいようで。聞いてみると男の子は壷の中に何が入っているんだろう、と覗き込もうとしたら落としてしまったらしい」
鈴木「この記事、ニュースで見ていましたが、割った部分の話しか読んでいなかったんですよ。ナハリヤという、本当にミサイルが飛んでくるかもしれないところから来た男の子だと聞くと、受ける印象も変わってきますね」
小倉「お父さんはすぐ『息子が割ったみたいです。弁償したい』と提示している。博物館としては『検討しますので一度お帰り下さい』と。その日の晩か後日に博物館からお父さんに電話が入って、『監視カメラをチェックした』。この子がわざと割ったのではない、ということが明らかになりました。保険もかかっているらしい。弁償といったことにはならないです、と。お父さんはホッとするけど、ここからが僕『へえ~っ!』と思った」
鈴木「はい」
小倉「博物館はお父さんに『1週間後、もう一度博物館に来ませんか』。『なんで?』となりますよね。『壷の修理をします。その風景を見たり、作業の様子をご覧になったりしませんか』と。お子さんに見せることが、より考古学に興味を持たせたり、壷はこうして直すと学ぶ機会になったりしますよ、と言って。呼んで実際に作業を手伝うなどしたんです」