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【追悼:いしだあゆみ】竹久夢二の美人画から出てきたような大女優の魅力

Re:minder

1981年11月21日 いしだあゆみのアルバム「いしだあゆみ」発売日

「北の国から」第1シーズンのキーパーソン・令子


フジテレビ系名作ドラマ『北の国から』の第1シーズン(1981年10月〜1982年3月放送)。物語のキーパーソンとなるのが、黒板五郎(田中邦衛)と別れることになる妻、令子(いしだあゆみ)だ。そもそも五郎、純(吉岡秀隆)、蛍(中嶋朋子)が北海道の富良野に移住することになったのは、令子の不倫がきっかけ。私たち視聴者は、五郎の回想シーンでそのことを知る。

令子が経営していた美容室へ、蛍と一緒に令子を迎えに行った五郎。だが、そこで令子の密会を目撃してしまう。情事の後らしい、煙草をくゆらす下着姿の令子。そこに流れるハイ・ファイ・セットの名曲「フィーリング」。蛍が母のことを一切口にせず、会っても口をきかなくなっていた理由がここでわかる。

その後、令子は激痛を伴う病で入退院を繰り返し、その合間に富良野にやって来る。ラベンダー畑を歩く、ブルーのワンピース姿のいしだあゆみの美しさ。まるでラベンダーの妖精、今にも消えてしまいそうだった。さらに、この後待ち構えているのが『北の国から』第1シーズン屈指の名場面だ。母が乗っている列車を川の向こうから走って追いかける蛍。列車の窓を開けて、髪の乱れも気にせず、大きく手を振る令子。

ⓒ フジテレビ


幼い娘に密会現場を目撃される母親なんて、ろくでもない。でも、自分が病気になったことを “罰が当たったのね” なんて言うし、五郎と教育方針は合わなかったものの純と蛍を思う気持ちは本物なことがわかるしで、こちらもなんとも複雑な気持ちになった。凛としていながらも儚げだったり、聖母にも悪女にも見えたり。この役は、いしだあゆみ以外考えられない、と当時思ったものだ。

「阿修羅のごとく」で演じた堅物の三女・滝子


2023年12月、水曜深夜1時、​​BAYFMで放送しているラジオ番組『Wave Re:minder』に出演し、1970年代〜1980年代のドラマについて語ったことがある。名脚本家が書いた5本のドラマを紹介したのだが、そのうち3本がいしだあゆみ出演作だった。1本は先述の『北の国から』。残り2本は、NHKドラマ『阿修羅のごとく』(1979年1月放送)と、TBS系ドラマ『金曜日の妻たちへⅢ・恋におちて』(1985年8月〜12月放送)。

『阿修羅のごとく』は最近Netflix版が話題となり、三女・滝子役の蒼井優もよかったものの、やはり堅物で潔癖症な滝子役はいしだあゆみをどうしても贔屓してしまう。恋や性への興味を秘めながらも、殻に閉じ込めて押し殺しているあの感じ。この頃、実生活ではショーケンと愛し合っていたわけで、堅物なわけないのに。そんな硬いつぼみのような滝子が、勝又(宇崎竜童)から想いを寄せられたことで、緩やかに花開いていく。その緩やかさが絶妙だった。

ⓒ NHK


『金曜日の妻たちへⅢ・恋におちて』の桐子も忘れ難い。映画会社で翻訳字幕の仕事をする、いわゆるバリキャリ。クールに見えながらも、その中にあまりにも厄介な熱情を秘めていて、それがあることをきっかけにほとばしるのだ。

お気に入りだったというパールのピアス


歌手として芸能界デビューしたいしだあゆみ。芸歴を見ると、映画『日本沈没』(1973年)での演技が評価されたことで、歌手より女優が主軸になっていったとある。いかにもな力が入った演技ではなく、演じた人物の内に秘めたるものを感じさせるというのだろうか。そのさりげなさが魅力的だった。

すごい美女というわけでもないのに、ものすごく絵になる人だったとも思う。デビュー当時は目がぱっちりとした中原淳一の少女画のよう。大人の女性となってからは、竹久夢二が描いた美人画から出てきた人みたいとずっと思っていた。

訃報を知ったとき、ふと思い出したのが、お気に入りだったというパールのピアスをつけた彼女の横顔。冠婚葬祭のイメージが強いパールを、あんな風におしゃれかつこなれた感じでつけていた人を他に知らない。ピアスの穴というのは、耳たぶの中心よりすこし下、垂直にあけるのが基本ルール。だが、いしだは “耳たぶの端に斜めにあけられてしまった” と、たしか80年代の『anan』で語っていた。あのピアス、計算してああなったわけではないのだ。

耳たぶの端っこ、こぼれ落ちそうな一粒パールが、彼女が持つエレガントさや繊細さを際立たせていた。あのパールのピアスが、女優としてのいしだあゆみを象徴していたように思うのだ。

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