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愛らしい姿で福を招く「猫神様」の誕生ストーリー【趣味どきっ!】

NHK出版デジタルマガジン

愛らしい姿で福を招く「猫神様」の誕生ストーリー【趣味どきっ!】

縁起物とは、それを飾ることで「よいこと」が起こると信じられてきた物のこと。招き猫、きつねとたぬき、熊手、七福神、絵馬などいろいろありますが、それらはどのようにして私たちの暮らしに根付いたのでしょうか。
『NHK趣味どきっ! 開運! 神秘のちから 縁起物』(島村恭則・関西学院大学教授)から、愛らしい姿が魅力の招き猫の誕生ストーリーと、招き猫ゆかりの地・豪徳寺をご紹介します。
※デジタルマガジン用に記事を再構成しています。

◆島村恭則の縁起物講座

【招き猫】

 お店によく置いてある招き猫。片手を上げて手招きをしています。このポーズで、お客さんを招き寄せたり、福を呼び寄せたりしているのだと言われています。しかし、そもそも猫の像に、なぜそのような効力があると思われているのでしょうか。

 猫は、犬とともに、人間にもっとも親しい動物と言ってよいでしょう。とはいえ、突然、ふらっといなくなり、しばらくして戻ってきたりすることもあります。また、近所の猫同士で集まって、集会のようなことをしたりもしています。

 そのため、猫には猫たちだけの世界があるように思われてきました。人間に近い存在でありながら、別の世界にも通じる、不思議な生き物だとされてきたのです。

根子岳(標高1433m)は、尾根の形が猫に似ていることからその名がついたとされる。阿蘇郡高森町(たかもりまち)のシンボルで、威風堂々とした佇まいで町を見守っている。画像/高森町役場

 熊本県阿蘇郡(あそぐん)にある、阿蘇五岳(あそごがく)の1つに、根子岳(ねこだけ。猫岳とも書く)という山があります。この山には、各地から猫が集まってきて集団生活をしており、その中には、支配者である「王」もいるという伝説が、熊本県を中心とした九州各地などで広く語られてきました。飼い猫がいなくなり、しばらくして帰ってきたりすると、「根子岳に修行に行っていたのだろう」などという言い方もされてきました。人間のあずかり知らないところに、「異界(いかい)」としての猫の世界があるという考え方をよく表した伝承だと言えます。

 また、日本のあちこちの農村で、盛んに養蚕(ようさん)が行われていた時代がありました。蚕(かいこ)を飼ってその繭(まゆ)から生糸(きいと)<絹>をつくる仕事ですが、その大敵はネズミで、大事に育ててきた蚕を食べてしまうからです。「ネズミを退治してくれるのは猫」というわけで、養蚕農家にとって、猫は欠かせない動物となったのです。

 ネズミを捕ってくれる猫への期待は、やがて猫神様(ねこがみさま)を生み出しました。実物の猫に加え、猫神様の力によってネズミを撃退しようとしたのです。猫が神様になれたのは、人間界に暮らすとともに、「異界」の存在でもある猫には、ネズミ退治の霊力も備わっているに違いないと考えられたからでしょう。

 岩手県や福島県には、養蚕の守り神としての猫を祀(まつ)った神社があります。また、猫神という文字や猫の絵を描いた石碑を立てて猫神を祀っているところもたくさんあります。猫は、霊力を発揮する神にもなりうる存在だったのです。

 こうなると、招き猫の秘密も解けてきます。猫には霊力が備わっているらしい。ならば、その姿をかたどった像にも霊力があるだろう。こう思って人々は、招き猫の力を信じたのです。仏の姿をかたどった仏像を信じるのと同じです。

宮城県伊具郡(いぐぐん)丸森町(まるもりまち)には、数多くの猫神様が祀られている。こちらは町内の由縄坂(よなさか)にある福一満虚空蔵堂(ふくいちまんこくうぞうどう)の石碑。天保(てんぽう)6年(1835)の文字と設置したと思われる人の名前が。画像/丸森町教育委員会

◆招き猫に会いに行こう

豪徳寺(東京都世田谷区)

猫に招かれた井伊(いい)家の殿様が、招き猫伝説を生み出した

右手を上げた「招福猫児」が迎えてくれる招福殿。この奥に多くの参詣者が奉納した大小さまざまな招福猫児があり、圧巻。

 招き猫ファンにはすっかりおなじみの豪徳寺。幕末の大老・井伊直弼<彦根藩(ひこねはん)の13代藩主>の墓所として知られていますが、招き猫ブームの火付け役とも言える、招き猫の伝説を生み出したのは、彦根藩2代藩主の直考(なおたか)です。現在は、寺域(じいき)も広く堂宇(どうう)も立派ですが、かつては小さな貧しい寺<弘徳院(こうとくいん)といい、豪徳寺の前身>でした。

 当時の和尚が、かわいがって育てていた猫に、「おまえがこの恩を感じているならば何か果報を招きなさい」と言い聞かせました。それからしばらく経った夏の昼下がり、武士たちが鷹狩の帰りに通りかかり、「我らがこの寺の前を通過しようとしたところ、門前に猫が1匹うずくまり、しきりに手招きする。不思議なので入って来た。しばらく休息させてもらいたい」と言うのです。

 和尚は、彼らを招き入れ、お茶を出してもてなしていたところ、突然に雷雨が発生。和尚が心静かに説法をしていると、やがて雨が止みました。すると、その中の1人が「彦根城主、井伊直孝である」と名乗ったのです。猫に招き入れられ、雨をしのいだ上に、和尚のありがたい話も聞くことができたことを喜んだ直孝は、のちの支援を惜しみませんでした。

 その後、多くの田畑が寄進されて大きな寺となり、豪徳寺と改称。猫が恩に報いて福を招いたということから、豪徳寺は「猫寺」とも呼ばれるようになります。この猫が死んだあと、和尚は猫の墓を建てて冥福を祈るとともに、猫の像をつくって「招福猫児(まねきねこ)」と称えました。

招福猫児観音像が安置されている三重塔。表にも十二支のほか、数体の猫が飾られている。
(左)「招福猫児」はさまざまなサイズがあり、好みで選ぶ。持ち帰って祀ってもいいし、願掛けをして奉納してもよい。写真は奉納された「招福猫児」たち。(右)絵馬のほか、お守り、お札など、「招福猫児」に関する楽しい授与品が豊富。
(左)「招福猫児」はさまざまなサイズがあり、好みで選ぶ。持ち帰って祀ってもいいし、願掛けをして奉納してもよい。写真は奉納された「招福猫児」たち。(右)絵馬のほか、お守り、お札など、「招福猫児」に関する楽しい授与品が豊富。

データ

豪徳寺
東京都世田谷区豪徳寺2-24-7
拝観は6時~17時(寺務所受付は8時~15時)
東急世田谷線宮の坂駅より、徒歩約5分
https://gotokuji.jp

講師:島村恭則(しまむら・たかのり)

関西学院大学社会学部長・教授、世界民俗学研究センター長、文学博士。専門は現代民俗学。1967年東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科で日本民俗学を専攻。高校2年生のときに民俗学の研究を開始し、以来40年間、日本各地を歩きまわってきた。沖縄の民間信仰、韓国の都市伝説、日本の現代民俗、民俗学理論などの研究で知られる。主な著書に、『みんなの民俗学』(平凡社新書)、『民俗学を生きる』(晃洋書房)、『日本より怖い韓国の怪談』(河出書房新社)、『現代民俗学入門』(編著、創元社)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(近刊、辰巳出版)などがある。

■『NHK趣味どきっ! 開運! 神秘のちから 縁起物』
■撮影 岡田ナツ子

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