河合奈保子【秋うたベスト5】1980年代 実力派トップアイドルの高い歌唱力を確認して!
みなさんは河合奈保子といえばどの季節をイメージするだろう? ―― 思うに、彼女は夏のイメージがとても強い。「スマイル・フォー・ミー」「夏のヒロイン」「エスカレーション」「デビュー 〜Fly Me To Love〜」など、代表的なヒット曲はどれも夏にリリースされているし、明るく元気に歌う彼女の姿が一番印象に残っていることも大きい。
しかし、彼女の魅力はそれだけではない。そう、高い歌唱力である。そんな彼女の歌声を堪能していただきたく、これからの季節に聴きたい河合奈保子の秋うたを集めてみた。定番曲からアルバムの片隅の曲まで、表現力に溢れるその歌唱をぜひ味わっていただきたい。
“西風” を “あき” と読ませる「UNバランス」1983年9月14日リリース
この曲はこんなフレーズから始まる。
うなじに触れた西風(あき)の切なさ
前シングルの「エスカレーション」同様、挑発的なフレーズが飛び出すものの、メロディ、アレンジ、そしてボーカルも、パワーで押すのではなく大人びて研ぎ澄まされた印象。ラストのサビ前、一瞬失速するように静かになったところで出てくるフレーズからは、この恋を更に加速させようとする深い情熱が感じられる。
おとなしい子じゃいられないほど
あなたが好きよ…
それにしても、“西風” を “あき” と読ませる作詞家は、さすがの売野雅勇先生。
秋の夕方にまったり聴きたい「マーマレード・イヴニング」1983年10月21日リリース
小田裕一郎作曲によるミディアムテンポのAORサウンドが心地よい。そのタイトルから秋の日の夕方の情景が目に浮かんでくる。そんな時にまったりと聴きたい曲。大谷和夫によるアレンジは、コーラスグループEVEによるぶ厚いコーラスも相まって、とてもゴージャスな雰囲気だ。ファルセットによる河合奈保子のスキャットも美しい。アルバムジャケットの写真も優しくまどろんでいる雰囲気が素敵。アルバム『HALF SHADOW』収録曲。
一番秋を感じる曲は「ラヴェンダー・リップス」1985年10月5日リリース
河合奈保子の全シングル曲の中で、一番秋を感じることができる曲。デビューからここまでのシングルは、ほぼ3月・6月・9月・12月にリリースされていたので、秋ど真ん中である10月に発表されたのは初めてのことだった。林哲司の織り成すメロディはきめ細やかで柔らかく、河合奈保子のやさしいイメージとも合致して安心して聴くことができる。全体的に地味なイメージのミディアムバラードではあるが、途中に入る変拍子が良いアクセントになっている。“キスして” ではなく「♪steal my lips」(唇を盗んで)という表現が上品な印象。こちらの作詞も売野雅勇。
秋らしい愁いのある切ない曲「砂の舟、草の舟」1987年6月24日リリース
河合奈保子自身の作曲によるナンバー。幻想的でスローなイントロから一転、テンポよく進むマイナー調のメロディに乗せて歌われるのは失くした恋の儚さ。吉元由美による歌詞には「♪女郎花(オミナエシ) 藤袴(フジバカマ)」といった秋の七草が織り交ぜられており、全体的に美しい響きの言葉が綴られている。この曲が収録されているアルバム『JAPAN as waterscapes』は “日本の美" をテーマに作られており、ジャケットのアートワークからも徹底したこだわりが感じられる。
温かいボーカルに癒やされる「悲しい人」1988年3月1日リリース
こちらも河合奈保子自身の作曲によるナンバー。アルバム『Members Only』からの先行シングルに決まった理由は、レコード会社の女性スタッフなどにアンケートを採った結果だという。夏の日の過ぎ去った恋、おそろいのTシャツを買うほど仲良く楽しかったのに、今はもう戻ることはない…。それが分かっているから、もう振り返らない…。そんなシチュエーションが女性の共感を得たのかもしれない。切ない歌のはずなのだが、河合奈保子の温かいボーカルとイントロの柔らかいピアノの音に癒やされる。シングル曲であるにもかかわらず、その存在があまり知られていないのがもったいない隠れた名曲。
以上、秋に聴きたい河合奈保子の楽曲をリリース順に紹介してみた。明るい笑顔のイメージが強い彼女だが、秋らしい愁いのある切ない曲を表現力豊かに歌えるのは、やはり安定した歌唱力があるから。どの曲もSpotifyなどのストリーミングサービスで楽しめるので、ぜひ聴いてみていただきたい。みなさんが知らなかった、新たな河合奈保子の魅力に気づいてもらえるはずだ。