「技術を王とする」自動車メーカーBYDを飛躍させた戦略とは?
2025年4月、中国の自動車メーカーであるBYDが第一四半期の決算を発表。売上高は1703.6億元(3兆4000万円超/前年比36.35%増)、純利益は91.5億元(1830億円前後/前年比100.38%増)と、驚異的な成長を示しました。単純計算すると、90日間で毎日約1億元の純利益を稼ぎ出したことになります。
この成長を支えているのは、単なる販売拡大ではありません。創業者であり現CEOの王 伝福さんが掲げる「技術を王とする、革新を本とする」という揺るぎない経営哲学こそが、今日のBYDの強さの源泉です。
本記事では、BYDの成長戦略をひもときながら、その未来に迫ります。
【解説する人】
ワイズイノベーション株式会社 代表
中国テックトレンドニュース配信
吉川真人さん(@mako_63)
吉川國際貿易咨询創業。iU客員教員。深センのサプライチェーンを生かした商品開発ODM貿易を手掛けながら、最近はAIガジェットや自販機を開発。中国深圳から届ける中国最新テック情報を好評配信中
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目次
「技術を王とする」精神の原点人材と技術への惜しみない投資IT分野への進出と精密製造の強化電子製造業における新たなポジショニング大胆な自動車産業参入と電動化戦略止まらない革新の波
「技術を王とする」精神の原点
王 伝福さんは大学時代から電池技術に魅せられ、大学院では二次電池の研究に専念しました。卒業後、有色金属研究総院で研究に携わり、特にニッケル電池の効率向上に貢献。そこで培った技術を社会に還元したいという思いが、後の起業の原動力となりました。
1993年に活気溢れる深圳へ移った王さんは、急速に拡大する電子通信市場にチャンスを見出します。当時、携帯電話用の充電池は高価で、供給不足が続いていました。豊富な技術知識を持つ王さんは、ここに自らの未来を賭けることを決意したのです。
人材と技術への惜しみない投資
創業期のBYDには、資金的な余裕がありませんでした。そんな中、王さんは人材と技術への投資を最優先します。13人の修士と6人の博士を採用し、当時の総スタッフの半数を高度人材で固めるという異例の体制を整えました。
また、工場やオフィスには極力お金をかけず、得た収益は全て研究開発に投入。半自動化ラインと熟練労働者を組み合わせた独自の生産体制を築き、高品質な二次電池を低コストで量産することに成功しました。この「低コスト+高技術」モデルこそが、後のBYDの爆発的成長を支える基盤となったのです。
IT分野への進出と精密製造の強化
2002年の香港上場により資金調達に成功したBYDは、次の成長分野としてIT産業への進出を決断します。当時、中国国内で携帯電話外装部品を本格的に製造する企業はほとんどなかったため、BYDはこの未開拓市場に着目したのです。
自社内に新たにIT部門を立ち上げ、国内大手スマホメーカー向けに精密部品供給を開始。さらに、上流・下流の垂直統合を進め、技術力とコスト競争力を武器に、数年で世界大手スマホメーカーの主要サプライヤーに成長しました。
電子製造業における新たなポジショニング
BYDは単なる電子機器の受託生産(OEM)にとどまらず、研究開発、設計、部品製造まで内製化することで、製品提案力の高い「トータルソリューション企業」として進化しました。
2022年には、BYDエレクトロニクスが世界EMS企業ランキングの上位に食い込むなど、単なる下請け企業ではない独自ポジションを築いています。
王氏は「汗だけでなく知恵も込める」ものづくりを重視し、BYDを伝統的なOEMから一段進化させた存在へと押し上げました。
大胆な自動車産業参入と電動化戦略
BYDは、主に小型車の「フライヤー」を製造し、経営難に陥っていた秦川自動車を2003年に買収。これにより、自動車製造のライセンスと既存の生産設備を獲得し、自動車産業へ本格参入しました。秦川自動車の買収は、BYDがバッテリーメーカーから総合的な自動車メーカーへと飛躍する重要な転換点となります。
当時、電動車市場はまだ黎明期であり、多くの専門家が懐疑的でした。しかし王さんは、燃料消費を抑え、将来性の高い電動化技術への移行をいち早く見越していたのです。
「可油可電」(ガソリンも電気も使える)というコンセプトのもと、2008年には世界初の市販プラグインハイブリッド車を発表。その後も一貫して電動化に邁進し、2022年には燃料車の生産を完全終了、全モデル電動化を実現しています。
この揺るぎない「新エネルギー路線」が、現在のBYDの地位を築いた最大の要因といえるでしょう。
止まらない革新の波
2025年に入ってからも、BYDは次々と新技術を発表しています。
クラウド制御型シャシーシステム「雲輦」、統合車両アーキテクチャ「璇\u742a架構」、新世代電動プラットフォーム「スーパーeプラットフォーム」など、モビリティーの未来を見据えた基盤技術を次々に投入。単なる自動車メーカーではなく、持続可能なモビリティソリューションプロバイダーとして、都市と社会そのものを変革する存在へと進化しつつあります。
BYDは、日々1億元以上を稼ぎ出す超成長企業となった今でも、「技術を王とする、革新を本とする」という創業理念を貫いています。王さんが掲げたこの哲学は、電子から自動車、そして次世代モビリティに至るまで、全ての挑戦に息づいているのです。
中国市場、そして世界市場における次なる成長機会を捉えるためにも、BYDの動向は引き続き注視すべき存在であるといえるでしょう。
※本記事は解説者・吉川真人さんのnote「中国テックトレンドニュース」より一部編集し、転載しています。
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