ロイヤル・バレエ、スカーレット版『白鳥の湖』はヤスミン・ナグディとマシュー・ボールが魅せる、当代最高レベルのパフォーマンス~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24
英国はロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)で上演された、ロイヤル・オペラ、ロイヤル・バレエ団による世界最高峰のオペラとバレエを、特別映像を交えてスクリーンで体験できる人気シリーズ「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」。今シーズンは、全8作品<バレエ4作品/オペラ4作品>でお届けする超豪華選りすぐりのラインナップ。ライブでの観劇の魅力とは一味違う、映画館の大スクリーンと迫力ある音響で、日本にいながらにして最高峰のオペラとバレエの公演を堪能できる。そして、2024年6月14日(金)からは、ロイヤル・バレエによるスカーレット版『白鳥の湖』が、TOHOシネマズ 日本橋ほか全国で1週間限定公開される。そこで本作の見どころを、舞踊評論家・森菜穂美氏の解説とともに紹介する。
【動画】The Royal Ballet: Swan Lake cinema trailer
クラシック・バレエの代名詞となり、日本でも最も多く上演されているバレエ作品『白鳥の湖』。英国ロイヤル・バレエは、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』など多数の名作を生み出したバレエ振付氏、マリウス・プティパの生誕100周年を記念し、これまで上演されていたアンソニー・ダウエル版に代わり、30年ぶりに新しい『白鳥の湖』が製作されることとなった。その際、若き天才で弱冠31歳のリアム・スカーレットの手掛けた新しい振付による『白鳥の湖』が初演され、本上演はそのスカーレット版の再演となる。
2024年4月24日に収録された今回のシネマでは、ロイヤル・バレエの新時代トッププリンシパルの二人、ヤスミン・ナグディとマシュー・ボールが主演。昨シーズンの『眠れる森の美女』や、2019年の『ロミオとジュリエット』など、シネマでこの二人の主演が上演される機会も多く、「自然な演技とぴったりと息が合ったサポートが見事で、当代最高レベルのパフォーマンスで酔わせてくれる」と森氏が解説するように、数々の共演を重ねて築いてきた、二人の至高のパートナーシップにも注目だ。
凛と気高く悲劇的な白鳥の王女オデット、自信に満ちて魅惑的な黒鳥オディールという全く違った二つのキャラクターを好演しているナグディは、「長い手脚による繊細でたおやかな表現、磨き抜かれ安定した高度な技巧にドラマティックさも備えた知性派」だと森氏が説明するように、3幕クライマックスの32回転のグラン・フェッテは3回転も入れて強靭かつエレガントで音楽性にも優れた踊りで観客を魅了する。腕の動きで呪われた運命を語るマイムの美しさも特筆ものだ。
また優雅な身のこなしと端正な容姿の英国貴公子・ボールは、愁いを秘めた表情が絵になり、高い跳躍や高速回転など超絶技巧を披露して王子の情熱も見せている。最終幕で愛し合いながらも結ばれない運命を嘆き慟哭するパ・ド・ドゥ(デュエット)は、「二人の卓越した表現力を昇華させた痛切なドラマ性が胸を打ち、涙せずにはいられない」と本作最大の見どころのひとつとして森氏は注目する。
共演には、ジークフリート王子の親友ベンノ役を、軽やかで高い跳躍と美しいプロポーションの韓国出身の注目若手ダンサー、ジョンヒョク・ジュンが演じているほか、日本出身のダンサーの前田紗江、桂千理が花嫁候補である王女たちを魅力的に演じるなど随所で活躍を見せている。
また今回、『アスフォデルの花畑』『スイート・ヴァイオレット』そして『フランケンシュタイン』でもスカーレットとコラボレーションしているジョン・マクファーレンが手掛けた美術のこだわりについて「ジョン・マクファーレンによる黒とゴールドを多用し、重厚にして絢爛たる舞台美術もこの版の大きな魅力である」と森氏は説明している。荘重な大階段、黄金に輝く壁や玉座が象徴的な3幕の舞踏会の華麗な舞台美術には思わず息を呑むほど。
古典作品を現代的にアップデートし、英国バレエ伝統の演劇性を強調した演出の『白鳥の湖』は、あまたある『白鳥の湖』のなかでも傑作の誉れ高く、世界最高のバレエ団である英国ロイヤル・バレエが総力を結集しているスカーレット版を、現地ロンドンに行かなくても観られる臨場感あふれる映画館の大画面で、ぜひご堪能いただきたい。
※森菜穂美氏(舞踊評論家)による『白鳥の湖』解説全文は下記URLにて閲覧可能です