敗戦後の北海道で死に物狂いに夢に生きた“昭和の男”猛夫の破天荒な人生劇場!桜木紫乃著「人生劇場」がアツい!
運命に抗う猛夫の破天荒な「人生劇場」とは?
サウナ野郎パンダ・リーです。きょうは、好き勝手に生きてきた野郎どもにこそ読んでほしい!北海道在住の直木賞作家・桜木紫乃先生が挑んだ、昭和の男・猛夫の破天荒な一代記『人生劇場』を、ネタバレしない程度にご紹介します。
貧困、暴力、愛欲、そして飽くなき野望ー。戦中戦後の混乱渦巻く昭和の北海道で、親の愛情に恵まれぬ不遇な境遇と闘いながら自分の居場所を求めて力強く生きた男の破天荒すぎる生涯を描いた小説が話題です。タイトルは「人生劇場」。
書いたのは家族のあり方を軸に人間の業に向き合い続ける、北海道釧路出身の直木賞作家桜木紫乃さん。
創刊1946年、元祖実話系男性週刊誌の金字塔「アサヒ芸能」(アサ芸)に連載され好評のうちに終了した異色の痛快長編小説は、桜木ワ―ルドに縁がなかったという男たちにこそ読んでいただきたい!これまで描かれてこなかった戦後直後からバブル期までの昭和の北海道の庶民の暮らしぶりを体感できる近現代史としても読み応えがあります。
貧困に喘ぐ親のネグレクトと無法者の兄による熾烈なイジメ...。悲惨な幼年期を過ごしながらも、勝ち気な性格と憎めない性分で運命に抗う猛夫。支えたのは母性本能豊かな女性たち。彼女たちを巻き込みながら猛烈に働き「己の城」を求めて好き勝手に夢だけに生きる―。昭和の時代にはどこにでもいたであろう市井(しせい)の人の、されど令和の時代ではありえない無責任男の強烈な一代記!
読後感を急いで言えば...戦後の混乱の中で運命に抗いながら本能むき出しで生きる若者たちを描いた任侠映画『仁義なき戦い』にも通ずるあの時代感、あの破天荒さにヒリヒリしました!
桜木紫乃『人生劇場』(公式ウェブサイトから)
『ラブレス』『ホテルローヤル』等、家族の光と闇を描き続ける直木賞作家・桜木紫乃のルーツ!
夢に生き、夢に死ね――
昭和の北海道。
己の城を求め、男は見果てぬ夢を追う。
著者コメント
書きながら改めて、生きることは滑稽だと感じました。滑稽でいいと思うところまで、書けた気がします。やせ我慢人生を歩いてきたすべての先人に、愛を込めて――人生劇場。
あらすじ
何もかもが赤く染まった鉄鉱の町・室蘭。
四人兄弟の次男に生まれた猛夫は、兄にいじめられ、母には冷たくあしらわれながら日々を過ごしていた。心のよりどころは食堂と旅館を営む伯母のカツ。やがて猛夫はカツのもとで育てられることになる。
中学卒業後、理容師を目指し札幌に出た猛夫だが、挫折して室蘭に帰る。
常に劣等感を抱えるようになった猛夫は、いつか大きくなって皆を見返してやりたいと思うように。理容師として独立、ラブホテル経営と、届かぬ夢だけを追い続けた男の行く末は。
自身の父親をモデルに、直木賞作家・桜木紫乃が北の大地で生きる家族の光と闇を描く。
【目次】
一章 鉄の町
二章 修業
三章 別れ
四章 長男
五章 夫婦
六章 闘い
七章 新天地
八章 落城
桜木紫乃『人生劇場』トーク&サイン会
『人生劇場』読後の興奮が冷めやらぬ3月末、作者の桜木紫乃先生が札幌の大型複合店コーチャンフォー新川通り店でサイン会を開催。居ても立っても居られず帯広から車で3時間。お邪魔してきました。桜木紫乃先生自身による『人生劇場』に込めた想いの一部を特別にシェアいたします。
(協力:徳間書店、桜木紫乃事務所、コ―チャンフォー新川通り店 聞き手:大津洋子さん)
ー 主人公「猛夫」はお父さんがモデル。
桜木:『人生劇場』を書いてみて良かったと思ったのは「職人」時代。父は腕を磨くために泣きながら覚えたことしか身につかないって言う“技術屋”だったんで。その頃のことを書くのが一番ワクワクしました。父の人生を6歳の頃から追っかけてみたんですが、父はあまり室蘭時代のことを話したがらないんですね。大概の話は「点」しか知らない。点を結ぶ「線」は私が考えて書きました。父の人生にも、こんな風に彼をわかってくれる人がいたらいいなぁなんて思いながら。
ー なぜお父さんをモデルに?
桜木:デビューのころから言われてきたのは「桜木さんの書く男は情けなくてだらしない」。私にとってはこのくらいが普通なんです。こういう人達を書いてて、情けないともだらしないとも思ったことがないんですよ。
「家紋」とか「家柄」とか。「お墓」とか「本家」だの「分家」って北海道にはあまりないですよね。核家族から始まった土地の、100年の歴史だから。「己一つを荷物にしていく男」を書く。何かやらないと立つ瀬がない男たちっていうのは北海道によくいると思うんです。何か一つやらないとと思っている人は世の中で「山師」と呼ばれていることを父を通して知ったんですけど(笑) 山っ気があるとかね。何かにならなけきゃいけないっていう呪縛は、本人にとっては家紋より重いんじゃないかな。
うちの父は元々床屋で職人だったんです。1億円の借金をして「ホテル ローヤル」を作って。映画の中のヤスケンさんは、とてもよく似ていました。その人たちの生き方を私は否定して生きてこなかったんだなぁということが、『人生劇場』を書いてあらためてわかりました。
私が見てきた親とか親の周りにいた人たちって大概むくわれない野心を抱えた人が多かったんです。女の人たちは苦労に耐えながらしたたかにお金を貯めるという。そんな人ばっかりで、そんな人しか出て来ないんですけど。だらしくなくて情けない男を書いていると言われてきましたが。…それでいいんじゃないかなって思ってるの。正直。キラキラしてるんだもん。そういうことをやっているときの彼らは。そういう人を支えているときの女の人もやっぱりキラキラしていたんですよ。
どの時代を書いてもなんとなく「昭和っぽさ」が漂うのは。私がそういう世界が嫌いじゃないということなんだなぁって今は思います。
今年は昭和100年。激動の昭和を愚直に生きた男の骨太でヒリヒリする生き様を熱く描いた小説、桜木紫乃著『人生劇場』(徳間書店 2100円税別)はコーチャンフォーなど全国の有名書店で絶賛発売中です。ぜひっ!