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「まじまじ」「むくむく」…M音のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】

NHK出版デジタルマガジン

「まじまじ」「むくむく」…M音のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】

「M音」で始まるオノマトペのイメージとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!

前回まではP(ぱらぱら)、B(ばきばき)、Z(ざあざあ)などの「阻害音」を扱ってきた当連載。

今回からは「共鳴音」(M、N、R、Y、W音)について考えていきます。

2024年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。

様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。

今回は『NHK俳句』テキスト2025年3月号から、「M音」のオノマトペに宿るイメージについての解説をお届けします。

共鳴音 M音で始まるオノマトペ

――――
 右上の二つの図形のうち、一方は「マルマ」、もう一方は「タケテ」という名前がついています。どちらがどちらだと思いますか?
 これはケーラーというドイツの心理学者が、1920年頃に大西洋のテネリフェ島で行った有名な実験です。ほとんどの人が、丸っこいほうが「マルマ」で、尖ったほうが「タケテ」だと答えます。なぜでしょう?
――――

 前回までは阻害音、つまりP、T、K、S、H、B、D、G、Zという硬い響きのする子音を見てきました。今回からは、M、N、R、Y、Wという、子音の中でも柔らかい響きを持つ「共鳴音」です。マルマ・タケテ実験が示すのは、まさにこの対立。「タケテ」のTとKは阻害音、「マルマ」のMとRは共鳴音です。ゆえに、「タケテ」は硬くて尖った印象、「マルマ」は柔らかくて丸い印象を持つのです。

 この印象は日本語のオノマトペにも共通しています。今回注目するM音(マ行)始まりのオノマトペは、特に柔、鈍、遅、重といったイメージを持ちます。たとえば、M音で始まる「むくむく」とB音で始まる「ぶくぶく」を比べてみましょう。体の膨れ方が甚だしく見苦しい「ぶくぶく」と比べ、「むくむく」には梟の羽の膨らみや柔らかさ、可愛らしさや落ち着きが感じられます。

 「まじまじ」は動物園の七面鳥の視線を表しますが、それは鋭い眼光ではなく、時間をかけた重みのある眼差しです。夜桜の「みしみし」には、B音始まりの「びしびし」が写すほどの激しさはなく、強風に耐え凌ぐ中で生じる静かで鈍い軋みが感じられます。冷たく暗い冬の闇は、まるで手を伸ばし作者を「むんず」と力強く摑んでいるかのようです。千葉の田螺の「もそろ」も、重々しくゆっくりとした動きを表します。

 同じイメージは、俳人が独自に編み出したオノマトペにも見て取れます。飯田線の句では、傍に猫じゃらしが茂った線路を、電車が「めろめろ」と走り抜けます。JR飯田線は、愛知県豊橋市と長野県上伊那郡を結ぶ鉄道で、長閑(のどか)な山あいを最高速度85キロでゆっくりと進むため、眠くなるようなM音のイメージにぴったりです。

『NHK俳句』テキストでは、M音が柔、鈍、遅、重という印象を持つ音声学的な理由について明らかにしていきます。

講師

秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です

◆『NHK俳句』2025年3月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:Köhler, W. (1947 [1929]). Gestalt Psychology: An Introduction to New Concepts in Modern Psychology. New York: Liveright. /『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『擬音語・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社学術文庫)

◆トップ写真:IBUKi/イメージマート(テキストへの掲載はありません)

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