知れば絶対飲みたくなる! ひと味違うプレミアム・カバの実力 / カバ発祥の地スペイン・カタルーニャを訪ねて【vol.2】
「カバにはいろんな種類があるけど、どれもカジュアルで飲みやすい」、間違いではない。カバを造るワイナリーは300近くあり、それぞれに特徴がある。カタルーニャを訪れ、土地とブドウの個性を最大限に生かし、人の知恵が加わった「お、これはスゴい」と唸るカバに多く出合った。カバのイメージを翻す、カジュアルでフレンドリーなだけではない生産者を紹介。
カバのイメージを刷新する、オンリーワンの風貌と品質
【セジェール・クリプタ Celler Kripta 】(旧アグスティ・トレジョ・マタ)
瓶内熟成中の丸底のクリプタのボトル。ボトルない中に滓が舞う。
“置けないボトル”が代名詞、一度見たら忘れないカバ「クリプタ」。卵型の形状のボトルで知られ、古木のマカベオ、チャレッロ、パレリャーダの3品種を長期熟成させたアイコンワインで、数々のワインアワードで受賞歴をもつ逸品である。セジェール・クリプタ(旧アグスティ・トレジョ・マタ)のカバのポートフォリオは、クリプタ以外もすべてが最低3年熟成のレゼルバ以上。ブドウの圧搾から醸造までを一貫して行う生産者「エラボラドール・インテグラル」に認定されているプレミアム・カバハウスで、自社では150もの区画の畑を所有する。
ボトルネックに滓が集まり、滓引きを待つクリプタ。
カバ生産の中心地サン・サドゥルニ・ダノイア出身のアグスティ・トレジョ・マタがこの地に創業し、500本のカバを製造したのは1955年。2代目のアレックスとジェマからさらに次世代の継承に向け、クリプタを柱に邁進する決意を込めてワイナリー名を変更。カバに国際品種を用いる生産者も多い中、ここではマカベオ、チャレッロ、パレリャーダの固有3品種のみを扱う。マカベオは豊かな香り、チャレッロはストラクチャー、パレリャーダはエレガントさをそれぞれ与え、ブレンドして複数のアイテムを作り分ける。中でも得意とするのは石灰質土壌に植えたマカベオ。すべてのカバはマカベオを主体に造られ、単一で仕込むアイテムもある。ロゼにのみ固有品種のトレパットを使用する。
ボトルを置けないため、専用のラックが必要。
スペイン語で地下の礼拝堂を意味する「クリプタ」は1978年が初リリース。創業者のアウグスティが、芳醇な香りとフレッシュな果実味と表現と、長熟による複雑さを併せ持つ傑出したカバを目指して生まれたもの。50%がマカベオ、残り半々がチャレッロとパレリャーダという比率でいずれも樹齢50年を超える古木。単年ヴィンテージで無補糖、王冠でなく天然コルクで打栓した状態で8年間もの瓶内熟成を経る。丸底のボトルは古代ローマへのオマージュとしてアンフォラを模したもので、オールハンドメイドの吹きガラス製。エチケットに地中海とブドウ樹とオリーブの木が描かれ、カタルーニャの産物であることを物語る。
左から
クリプタ 2016(グラン・レゼルバ) Kripta 2016
マカベオ 50% チャレッロ 25% パレリャーダ 25%、瓶内熟成8年。
濃いゴールド色の液体から緻密な泡。クリーミーなテクスチャー、さまざまな要素が溶け合った味わい。
アイコニック 2017(グラン・レゼルバ) Iconic 2017
パレリャーダ 50% マカベオ 36% チャレッロ 14%、瓶内熟成6年。
無補糖のブルット・ナトゥーレ。芳醇で華やかな香り。
バリッカ 2019(グラン・レゼルバ) Barrica 2019
マカベオ 100%、土着酵母を使用し6カ月かけて樽発酵・熟成、瓶内熟成4年。
これも無補糖。マカベオを樽発酵させた珍しいカバ
トレパット 2021(レゼルバ)Trepat 2021
トレパット100%、2024年9月に滓抜き。
山岳地帯に植栽するトレパットを使った、わずかに甘みも感じさせるロゼ。
セジェール・クリプタ
http://www.cellerkripta.com
※日本国内では旧ワイナリー名で上記商品が見つかる場合があります。
緻密な泡と繊細な味わい、もの静かな佇まいが醸し出す上質感
【ジロ・リボ Giró Ribot 】
ひとつひとつの調度品がシックでセンスに溢れるテイスティングルーム。
スパークリングワインの産地の中で珍しく沿岸部、しかも温暖な地中海に近いカバは、陰陽でいうと“陽”の明るいイメージをもつ人は少なくないはずだ。だがここのカバはどちらかというと“陰”の雰囲気がある。二極のイメージのそれ自体が良し悪しを決定づけるわけではないが、陰のニュアンスとともに、上質なワインがもつ控えめなアタックとその先にある奥行きをここのカバには感じる。試飲したワインはいずれも日本で入手可能なもので、小売価格が約3,000円〜4,000円という手軽さに驚く。
エノロゴとともにカバ造りを行う3代目当主のエドゥアルド・ジロ。大学では経済を専攻したという。
ジロ・リボはペネデスの中心部、サンタ・フェ・デル・ペデネスに居を構えるワイナリー。現当主、エドゥアルド・ジロは3代目に当たる。創業者である祖父はカバ造りのルーツをもつ家に生まれながら長男ではなかったため、マカベオ、チャレッロ、パレリャーダから造る原酒をベースにブランデーの蒸溜所を設立。大手コニャックハウスと共同で蒸留酒を製造する一方でカバの生産にも着手。今では自社ブランドのほかにコニャックハウスが所有していたカバのブランドも傘下となり、年間55万本を生産するカバのボデガとなった。土壌は粘土石灰質土壌が中心。47haの自社畑を含む100haで有機栽培を行い、主要3品種とともにシャルドネ、ピノ・ノワールを植栽する。
地下とは思えない天井の高さを誇る熟成庫。
ジロ・リボのカバの魅力はピュアなアロマと芯のあるストラクチャー、フレッシュなのに落ち着きのある熟成感。状態のいいブドウを長期熟成させているゆえだ。近年の干ばつで収穫量は激減しているがもともと1haあたりの収量はかなり抑えており、6,000kg〜5,000kg(※9カ月の熟成期間が求められるカバ・デ・グアルダの許容量は12,000kg/ha)という畑も。ブドウの搾汁率は50%にとどめ、質のよいフレッシュな果汁のみを抽出。一次発酵は低温でゆっくりと行い、香りを引き出す。圧巻なのは地下14mに広がるセラーで、高い天井の下で整然と熟成が並び、200万本の貯蔵能力を蓄える。ジロ・リボでは発注が入ってからの滓抜きを行うため、長期熟成させながら鮮度のよい状態での出荷が可能となる。ちなみに滓抜きは手作業だ。
長期熟成を経たカバは色濃いゴールド色を呈す。
特筆すべきは、固有品種と国際品種のブレンドの妙である。「マカベオ、チャレッロ、パレリャーダの3品種は瓶内熟成によって骨格が育つ。一方でシャルドネとピノ・ノワールは瓶内で長熟してなおフレッシュでフルーティな味わい、溌剌とした泡が残る」と語るエドゥアルド。個性を生かしたセパージュによるブレンドが実に巧みで、洗練されている。
左から
ウーマ クリエイティブ 2020 (グラン・レゼルバ)UMa Creative 2020
チャレッロ40% シャルドネ40% ピノノワール20%、40カ月瓶内熟成
Uma=おおぐま座(北斗七星)を描いたブルーの瓶がアイコニック。華やかな香りと凝縮した果実感。
アンプラグド 2019(グアルダ) Unplugged Excelsus 2019
ピノ・ノワール85% シャルドネ15%、15カ月瓶内熟成、発酵時に一部新樽使用。
美しいサーモンピンクのロゼ。はっきりしたストラクチャーをもち、きれいな酸とエレガントが果実味。
マーレ 2018 (グラン・レゼルバ)Mare 2018
チャレッロ 60% マカベオ 30% パレリャーダ 10%、36カ月瓶内熟成。
祖母へのオマージュとして固有3品種によるセパージュ、残糖1.5gのブルット・ナトゥーレ。熟成が進みリッチでナッティ。
アバン 2019 (レゼルバ) Avant 2019
チャレッロ 45% シャルドネ 45% マカベオ 10%、18カ月瓶内熟成、発酵時に一部新樽使用。
酸度の高いチャレッロとマロラクティック発酵させたシャルドネの競演。骨格があり複雑なフレーバーが絡み合う。
ジロ・リボ
https://giroribot.es/
日本での問い合わせ先:ミリオン商事
https://milliontd.co.jp/product/giro-ribot/
選ばれた畑から生まれる、海のテロワールをもったトップカバ
【アルタ・アレーリャ Alta Alella】
バルセロナから10キロほど北上したエリアにあるセラ・デ・マールには、アルト・アレーリャを含め7つのワイナリーがある。
カバの最大の産地コムタッツ・デ・バルセロナの中には5つのサブゾーンがある。そのひとつが地中海沿いに畑が広がるセラ・デ・マール地区。国定公園に入り、緩やかな丘を上ると、海を臨むワイナリー、アルタ・アレーリャが見える。カバの格付けの最上位カバ・デ・パラヘ・カリフィカード(以下パラヘ・カリフィカード)の認証を受けた6ワイナリーのうちのひとつで、パラへ・カリフィカード10銘柄のうち2アイテムをもつという、プレステージ・カバの生産者である。
2代目当主として栽培と醸造を担うミレイア・プジョル。
プロセッコのマルティニで経験を積んだホセ・マリア・プジョルが1991年に設立し、現在は娘のミレイアが2代目を継承。55haの自社畑からカバとワインを生産し、今後80haまで圃場を増やす計画がある。海を見下ろす斜面の海抜90mから300mの位置に拓かれた畑は、年間を通して海風が谷間を吹き抜け、夜温も下がる。乾燥した環境で酸も保たれる。この地域特有のサウロと呼ばれる砂質土壌は、水はけのよい砂の下に粘土があり、ブドウ根が水を求めて深く粘土層まで伸びるため健全に生育するという。
海を見下ろすパンサ・ブランカの畑。葉のギザギザが粗いのが特徴。
ファミリーが大切にしているのは、この地域でパンサ・ブランカと呼ぶチャレッロ。酸が高く熟成ポテンシャルがあり、カバの骨格となるブドウである。パラヘ・カリフィカードの認定を受けているバルシレラの畑は1991年に植樹された区画。海抜90mの谷あいに位置し、0.3haにパンサ・ブランカ、0.8haにシャルドネを植える。パラヘ・カリフィカードは瓶内熟成期間36カ月以上のほか、単一ヴィンテージのみで最大生産量48hL/ha 、最大収穫量8,000kg/haといった規定がある。バルシレラの収量は1haあたり6,000kg以下に制限し、より高品質なカバを目指す。
アートなタンクが並ぶ醸造所。コンクリートエッグも所有する。
パラへ・カリフィカードの2アイテムはいずれも残糖分ゼロのブルット・ナトゥーレだが、ドライなだけでない複雑でエレガントなムードを醸し出す。セパージュも双方、パンサ・ブランカとシャルドネから成るが比率や造り、ヴィンテージを変えてそれぞれ違うキャラクターに仕上げた。
(右)ミルジン エクセオ バルシレラ 2017(パラへ・カリフィカード) Mirgin Exeo Vallcirera 2017
パンサ・ブランカ60% シャルドネ40%、樽にて2〜3年かけて発酵・熟成のあと、瓶内熟成70カ月。
ミネラル感とクリーミーさが溶け合う。
(左)ミルジン オプス バルシレラ 2019 (パラへ・カリフィカード) Mirgin Opus Vallcirera 2019(未輸入)
シャルドネ 60% パンサ・ブランカ40% ステンレスタンクと古樽で発酵・熟成、瓶内熟成36カ月。
デリケートでエレガントな味わい。
アルタ・アレーリャ
https://altaalella.wine/
日本での問い合わせ先:ラヴニール
https://lavenir-wine.com/alta-alella/
これらはいずれも、乾杯やアペリティフだけでなく、料理とも合わせて楽しめるワンランク上のカバ。ほとんどのものは、品質が高いのに価格が手頃なのも魅力だ。
vol.3では、個性あふれるユニークなワイナリーを紹介する。
※試飲アイテムとヴィンテージ、コメントは現地取材に基づいたものです。日本で入手できるアイテムの詳細とは異なる場合があります。
※日本で取り扱いがあるアイテムはビンテージが異なる場合があります。
スペイン生まれのスパークリングワイン「カバ」について知っておきたい3つのこと / カバ発祥の地スペイン・カタルーニャを訪ねて【vol.1】
写真・文:谷 宏美