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【上坂あゆ美さんの新刊「地球と書いて〈ほし〉って読むな」】 「読み方」を変調させる筆力

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は11月30日に発行(奥付)された歌人上坂あゆ美さん(沼津市出身)の新刊「地球と書いて〈ほし〉って読むな」(文藝春秋)を題材に。

2022年の第一歌集「老人ホームで死ぬほどモテたい」(書肆侃侃房)が、短歌界のみならず文芸の世界全体に衝撃を与えた筆者の初エッセー集。2022~24年に各誌に掲載したもの、インターネットコンテンツ「note」で発表したものなど、文章の出自はバラバラ。単行本化にあたり、上坂さんの半生を順に追っていくかのような構成に仕立ててある。

上坂さんは家族の中では“少数派”だった。

「顔とコミュ力だけで生きてきた」美容師の父は「浮気にギャンブルにとやりたい放題」で、「沼津の奴は大体友達、というくらい社交的で知り合いが多い」豪放磊落な母とけんかばかりしている。姉は「両親以上に目の前の人の機嫌を取るのが天才的に上手く、問題行動ばかり起こす一方でどこでも話題の中心」にいる。

上坂さんだけが「内向的」で「行動が遅く」「考えたことを言葉にする」のに時間がかかるタイプだった。細かいことで悩まない明るい性格の家族に囲まれ、内向的な性格に拍車がかかった。

両親は上坂さんが中学3年生の時に離婚した。父は母に暴力をふるっていた。最後には金を持ってフィリピンに逃げた。

各エッセーの発表媒体が異なるので、このような出自や家族の様子が「エッセー集」では繰り返し説明される。相当にストレスフルだったに違いない。離婚後は母子家庭だったため、経済的な苦しさもあっただろう。「貧困」という言葉がたびたび登場する。上坂さんは父や姉を許してはいないし、母の野放図な振る舞いや発言に今も辟易することもある。

それなのに、この本を読み終えた人は、上坂さんの父、母、姉、そして上坂さん本人がどうしようもなく好きになるだろう。むき出しの言葉や感情を交えたやりとりが、愛おしく感じられる。

エッセー集なのに、無意識に「物語」として読もうとしてしまう。気がつくと上坂家の食卓の風景に引きずり込まれている。上坂さんの言葉、文章には、本を開いた人の「読み方」を変調させる力がある。
(は)

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