【ミリオンヒッツ1994】CHAGE and ASKA キャリア3番目の大ヒット「めぐり逢い」
リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.25
めぐり逢い / CHAGE and ASKA
▶ 発売:1994年11月16日
▶ 売上枚数:125.2万枚
チャゲアス3番目に大きなセールスを得た「めぐり逢い」
1990年代にミリオンヒットを連発していたCHAGE and ASKAは、この時代のシンボリックな存在であり、この時期のヒット曲を語る際に、絶対に欠かせないアーティストである。彼らの最大セールスは1991年7月24日に発売された「SAY YES」で、次が1993年3月3日発売の「YAH YAH YAH / 夢の番人」。両作品ともダブルミリオンを記録している。
では、彼らの3番目に大きなセールスを得た作品は? となると、それは1994年11月16日に発売された「めぐり逢い」なのだ。36作目のシングルで、前作の「HEART」から3ヶ月のインターバルで発売され、CHAGE and ASKAにとっては通算5作目のミリオン作品、オリコンチャートで8作目となる首位獲得曲である。
「SAY YES」の成功あっての月9ドラマ主題歌起用
上位2作品と同様に、この曲もドラマ主題歌で、フジテレビ系月9ドラマ『妹よ』の主題歌となったが、同ドラマはプロデューサーに大多亮、演出に永山耕三、劇伴を手掛けたのが日向敏文と、月9の大ヒット作を生み出したスタッフ陣で、CHAGE and ASKAも『101回目のプロポーズ』の主題歌、「SAY YES」の成功あっての起用である。
主演は和久井映見で、地味な会社員だった和久井が、唐沢寿明演じる大企業の御曹司と恋に落ち、そこに、和久井の実の兄(岸谷五朗)とその恋人(鶴田真由)のラブストーリーが絡むお話。身分違いの恋という、洋邦問わず古今東西、ラブロマンスの鉄板ストーリーなのだ。最終回で最高視聴率30.7%を記録、フジテレビの月9全盛時代を象徴する1作である。
だが、この曲が彼らの3番目のセールスだったと聞くと、意外な気もする。もちろん「SAY YES」「YAH YAH YAH」の2作が爆発的なヒットだったこともあるが、楽曲の持つインパクトの差も大きいのではないだろうか。「SAY YES」は、スケールの大きなラブバラードで、特にサビ部分では渾身のメロディーラインが構築されている。この部分が後半、何度も繰り返されることで聴くものに強く刷り込まれていく絶大な効果があった。
逆に「YAH YAH YAH」はファンク系のサウンドに加え、イントロからBメロ部分、そしてサビに至るまで、パートごとにインパクトの強いメロディーラインだけで組み立てられている。言葉の力強さ、声質の異なる2人のボーカリストが繰り出す、音域の広い楽曲という特性も加わり、前者は女性ファンに、後者は男性ファンに強く訴えかけるものがあった。実際、当時カラオケで「YAH YAH YAH」を歌う男性諸氏の、実に多かったことか。
ギターサウンドを基調にした流れるように美しいメロディーライン
その点を考えると「めぐり逢い」は、ゆったりとしたミディアムテンポの、アメリカンロック風バンドサウンドで、フックになるような強烈なフレーズや曲調はないものの、詞と曲と全体のサウンドが完璧に融合し、流れるように美しいメロディーラインを持っている。その点が前述の2作を含む、この時期のCHAGE and ASKAの作品とはかなり異なっているのだ。
デビュー当初は、「ひとり咲き」「万里の河」などのヒット作を聴いてもわかることだが、フォーク的な作風が中心であった。それが1984年のアルバム5作目『INSIDE』あたりから、シンセサイザーの打ち込みサウンドを導入した音作りへと変化し、かなり凝ったコード進行のポップス、ロック系の作品が中心となっていく。「SAY YES」の頃には、完全にキーボード主体のロマンティックでスケールの大きな作品を歌い上げるバンドという印象が強かった。
そう考えると「めぐり逢い」はギターサウンドを基調にした、それまでとかなり作風の違うナンバーである。アコースティックギターのストローク、そこにエレキのボトルネック奏法が加わり、重層的な音作りではあるが、アメリカンロックテイスト、特に1970年代の西海岸サウンドやカントリーロックの香りがするのだ。
リズムパターンも至ってシンプル。循環コードを基本に作られており、途中まではシンプルな曲調だが、中盤にセブンスコードを用いた転調が入り、さらにCHAGEのボーカルがメインに出てくる部分では、意表を突くさらなる転調があり、実際歌ってみるとメチャクチャ難しい楽曲なのである。だが、曲の流れに強引さやクセの強さは感じられない。一聴すると、まるで初期のフォーク系作品の時代に回帰したかのような印象すら受けるのだ。
肩の力を抜いた自然体の2人がそこにいる
作曲者のASKAによると、1957年のアメリカ映画『めぐり逢い』の内容、タイトルにインスパイアされて生まれた曲とのことだが、やや哲学的な歌詞の内容は、結末が読めない王道のラブロマンスのテーマ曲ならではのものだろう。
思えば、『101回目のプロポーズ』の主題歌「SAY YES」も、『振り返れば奴がいる』の主題歌「YAH YAH YAH」も、楽曲単体のパワーだけでも凄まじいものがあった。同時に、どちらのドラマもかなりパンチの効いた設定と、熱量の高い演技と演出を感じさせるものだったので、まるでドラマと主題歌が互いに激しく主張しぶつかり合うことで相乗効果を生んでいたように思える。
ところが、「めぐり逢い」は、ドラマに自然と融合し、染み込むように美しいメロディーと穏やかなサウンドで作られている。ヨーロッパ映画の主題歌・主題曲のような印象が残るのだ。実は “キャリア3番目の大ヒット” と言われると一瞬、意外な気がするのは、このナチュラルな作風のせいだろう。カリスマ的存在から、少し肩の力を抜いた自然体の2人がそこにいる、といった楽曲の佇まいなのだ。
作家としてもノリに乗っている時期のASKAだけに、ミリオン連発で音楽シーンの頂点に立った後の、どこか憑き物が落ちたかのようにシンプルな作風でも、これほどの美しいメロディーを生み出せるのは圧巻である。「めぐり逢い」はここからまた新たなCHAGE and ASKAの世界が広がっていく、その契機となった1作と呼んでいい。