【ユニークポイント「Come on with the rain」】 ベトナムのホテルでの会話劇。 数秒後、数分後が気になり見入ってしまう
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回はユニークポイントの新作演劇「Come on with the rain」を題材に。藤枝市に開設した新劇場「ひつじノ劇場」のこけら落とし公演。2月11日の公演を鑑賞。
白子ノ劇場での最終公演から約1年。県内の多くの演劇ファンが気にかけていただろうユニークポイントの新劇場が、ついにオープンした。千秋楽は満員札止め。前日までの4公演も同じ状態だったようだ。
約40席というキャパシティーは、会話劇を旨とするこの劇団の魅力を受け取る上で極めて適切なサイズである。需給関係で言えば「小さすぎる」とも言えるが、さまざまな困難を乗り越え、さまざまな幸運な出会いを経てこのスペースがあることを、劇団関係者のみならず観客もみな承知している。肩を寄せ合うように舞台を見つめる客席には、終始温かい空気が流れていた。
会場に入ると、ベトナムのホテルのロビーを模したセットがしつらえてあり、そこにはフロントに座るベトナム人のオーナー役の古市裕貴さん、スマホで何やら調べ物をしている日本人客役のナギケイスケさんがいる。脚本・演出の山田裕幸さんの口上があり、客電が落ちる。ナギさんの第一声「ダメだ、こりゃ」で演劇が始まる。台風の影響で帰国便が遅れ、時間を持て余している日本人が集まってきて、あれこれしゃべる。
それだけといえばそれだけ。ただ、ユニークポイントの演劇はいつもそうだが、「人と人の距離」が近づいたり遠ざかったりするさまが伝わってくるのが楽しい。親近感というか親密さというか。ちょっとした口調やしぐさで、登場人物Aと登場人物Bの精神的な距離感が伸び縮みする。スリリングであり、数秒後、数分後の関係性が気になって見入ってしまう。そうこうしているうちに話が終わる。
不必要なクライマックスを設けないから、つじつま合わせがない。見ていて「消化がいい」。今作も同様だった。旅行客の一人が静岡市出身という設定だったり、昨年夏に藤枝市郷土博物館・文学館で企画展が開かれていた詩人金子みすゞの詩が引用されていたりして、この地で創作された作品であることがちょうどいい「湯加減」で伝わってきた。
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