広島の鹿を、日本の可能性に。「安芸高田鹿」ブランド仕掛け人|Premium DEER 安芸高田鹿 株式会社cica 代表 金沢 大基
人口よりも多い害獣をブランドに
「Premium DEER 安芸高田鹿」は、広島県安芸高田市の豊かな自然の中で育った鹿の鹿肉ブランドです。私たちが追求しているのは、従来のジビエの概念を覆す、新しい食文化の創造です。一般的なジビエは「硬い」「臭い」「獣臭が強い」というイメージですが、安芸高田鹿は、その対極にあります。豊かな自然の中で、森の天然の植物を食べて育った鹿本来の味わいのよさに加え、猟師、解体職人、料理人、それぞれの確かな技術が重なり合うことで生まれる柔らかさ、香りのよさ、そして深い味わい。これらの特徴は、実際に召し上がった方々から高い評価をいただいています。
このブランドは、鹿との偶然の出会いから始まりました。2018年の秋、私は運営しているWebメディアの取材で安芸高田市を訪れました。ここで鹿のおいしさに魅せられると同時に、農作物被害や交通事故など、鹿が増えることで起こるさまざまな問題について知ることに。安芸高田市に生息する鹿の数は想像をはるかに超えていて、人口26,000人よりも多い数がいます。この地域では年間約2,300〜3,000頭の鹿が捕獲されていますが、そのうち食肉として加工されているのはほんのわずかにすぎません。「自分にも何かできるかもしれない」。そう考えた私は、試しに鹿肉を東京に持ち帰り、知り合いの料理人に調理してもらいました。「この鹿肉はおいしい」と太鼓判をもらい、これはブランドにして広げていく価値がある食材だ、と思いました。フランス料理では高級食材として扱われる鹿肉が、日本では害獣として扱われているというギャップ。そこに、大きなビジネスチャンスを感じました。そんな思いから、「Premium DEER 安芸高田鹿」というブランドを立ち上げることを決意したんです。
当初、行政からは「鹿はブランドにはならないと思います」と言われました。しかし、それが逆に私の心に火をつけることになりました。東京の飲食店に精力的に売り込みに行った日々は、周りの方から「取りつかれているようだ」と言われるほど。ただ、それくらいの情熱があったからこそ、今の「Premium DEER 安芸高田鹿」があるのだと思います。
鹿を起点にした新たな価値の創造
「Premium DEER 安芸高田鹿」は現在、関東の飲食店を中心に70店舗ほどで取り扱っていただいています。広島でも6店舗に導入され、若手シェフを中心にメニューに取り入れるお店が少しずつ増えてきました。当初は東京を拠点に展開していましたが、私は2022年に安芸高田市の古民家をリフォームして「DEER LABO 安芸高田」をオープン。そして2024年、広島での事業拡大を目指して新会社を設立し、地域のハンターや加工業者と密接に関わりたいという思いから、広島への移住も決断しました。
広島では、2つの重要な活動を始めています。ひとつは県内外からゲストシェフを招き、少人数で鹿のコース料理を楽しんでいただく「シェフズテーブル」。もうひとつは、「こどもの森のレストラン」という食育イベントで、毎回満席になる人気イベントに成長しました。料理を通じて鹿肉の可能性を伝えるだけでなく、鹿が住む森をイメージした装飾で空間も演出しています。
さらに、学食への鹿肉メニュー提供や、サンフレッチェユースの寮食への導入など、教育機関との連携も進めています。先日、広島大学の学食で提供した「鹿たまラー油丼」は、わずか2時間で150食が完売しました。「もっと臭みがあると思ったが、全然なくておいしかった」という学生たちの反応を聞くと、少しずつですが確実に理解が広がっていることを実感します。
これらの活動を通じて目指しているのは、広島の人々が日常的に鹿肉を食べる文化の創造です。そんな未来をつくるため、需要拡大に向けた取り組みを進めています。需要が増えれば、ハンターや加工業者の雇用も生まれ、地域経済の活性化にもつながると確信しています。
ひろしま未来区民として
鹿には本当に大きな可能性がある。私が確信している理由は、第一に鹿肉がとにかくおいしいから。このおいしさは確実に広がっていくと思っていますし、鹿を起点に、山の魅力、そこに関わる人々、町の可能性を引き出していくことだってできると思っています。そんな新しい価値の創造に、今、挑戦しています。
そのための具体的な取り組みのひとつが、教育機関との連携です。私は、大人だけの視点では、鹿肉が日常的な食材として広がっていかないと考えています。だからこそ、未来を担う学生たちに、自分たちの意志と考えで鹿に関するプロジェクトを動かしてもらいたい。現在、広島の教育機関と連携して、鹿を軸にした食育と地域課題を考えるプログラムを展開し、学生たちが主体となって鹿のおいしさと社会課題について考える探求学習に取り組んでいます。
また、「鹿DX」として鹿の生息地をデータ化し、季節や天気に基づいた効率的な捕獲活動を目指しています。さらに、売り手と買い手をマッチングするプラットフォームの構築も計画中です。鹿の生態系研究についても、大学と協力して進めていく予定です。
私が大切にしているのは
広島に多く生息している鹿なので、まずは広島の方々に鹿をたくさん召し上がってほしい。「安芸高田の鹿ってすごくおいしい」と感じていただきたい。その感覚が当たり前になれば、鹿を日常的に食べる食文化が自然と根付いていくはずです。
学生時代からバックパッカーとして海外をめぐり、さまざまな世界に触れてきた経験から、私は「自分が動くことで人を巻き込み、変化を起こせる」ということを学びました。いまも自ら前に出て活動することで、共感の輪を広げています。今後その輪の中心になるのは若い世代の方々です。これからの未来を担う学生たちと一緒に未来をつくっていく。それが私の描くひろしまの未来図です。
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プロフィール
金沢 大基さん
1979年生まれ/
神奈川県藤沢市出身
Premium DEER 安芸高田鹿 株式会社cica 代表
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