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山崎まさよし 主演映画「月とキャベツ」と 主題歌「One more time, One more chance」

Re:minder

1996年12月21日 映画「月とキャベツ」劇場公開日

ひと夏に起こった出会いと別れを寓話的に描いたラブストーリー「月とキャベツ」


今年の夏も、日本各地で夏の夜空を彩る花火大会が開催された。どの大会も、打ちあがった花火が大きく尾を引いて流れ落ちてゆく “冠菊(かむろぎく)” という尺玉でフィナーレを飾るのが定番のようだ。日本三大花火大会のひとつ『長岡まつり大花火大会』では、なんと正三尺玉という直径650mにも及ぶ大輪の花を夜空に咲かせてくれる。紺碧の空いっぱいに広がった星(火花)がゆっくりと消えてゆく様子は美しさと切なさの余情。日本に生まれてよかったなぁと思う風情のひとつである。

さて今回のコラムは、一世を風靡したバンドを解散後、高原でキャベツを育てながら隠居生活を送るミュージシャン “花火”(山崎まさよし)と、ダンサー志望の少女 “ヒバナ”(真田麻垂美)の、ひと夏に起こった出会いと別れを寓話的に描いたラブストーリー『月とキャベツ』(1996年公開)について語ってみる。合わせて物語の核となる劇中歌「One more time One more chance」についても。

役者としての山崎まさよしは、痛恨のミスから始まった


1991年、レコード会社のキティレコードと間違えて、映画制作会社であるキティフィルム主催のアクター・オーディションを受けた山崎まさよし。痛恨のミスだったが、なんと1000人以上応募があったにも拘らず審査員特別賞を受賞。これがキティレコードの音楽プロデューサーの目に留まり、1993年にミュージシャンとして正式に契約を交わすことになる。そう、キティレコードは “歌える役者” を探していたのだ。

何はともあれ念願がかなった山崎まさよし… だが、キティレコードの経営悪化など、取り巻く状況の変化もあり、時を経た1995年9月、ようやくデビューシングル「月明かりに照らされて」のリリースにこぎ着けた。その翌年、映画『月とキャベツ』の出演オファーがあった辺りから、彼の人生がぐんぐん加速してゆくことになる。

主役に選ばれた山崎まさよしだが、当時はまだ新人ミュージシャンであり演技も未経験。この『月とキャベツ』でメガホンをとった篠原哲雄監督は、主人公がミュージシャンという設定を考慮して、直々に山崎のライブを観に行き出演オファーを決めたという。異例の抜擢をした篠原監督は、山崎まさよしのことをこう評している。

「『月とキャベツ』はミュージシャンの初芝居ということで、演技は未知数でした。ただ、他の候補がいる中で、この人は一枚絵にできる人だと思いましたし、ライブを見に行った時、お客さんの巻き込み方などに、惹きつけるものがあり、彼はエンターテイナーだと感じました。きっとお芝居もやれるという直感がありましたね。」

「cine reflet シネルフレ・篠原哲雄監督インタビューより引用」

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そう、篠原監督は山崎まさよしの役者としての才能も見逃さなかったのだ。

曲が書けないミュージシャンと不思議な少女との出会い


『月とキャベツ』は、主役2人の他にカメラマンの理人(鶴見慎吾)が絡むだけで、脇役が数人しかいないというシンプルな映画である。そして、今どきの映画やドラマにありがちな ”説明セリフ” がほとんどない映画でもある。それゆえ、主人公の花火がなぜバンドを解散したのか? なぜ高原でキャベツの世話をしているのか? そういった主人公の骨格を作る情報は映像から想像するしかない。映画好きにとっては堪らない演出だろう。

山崎まさよしの演技は素のままの印象だ。柔らかい表情、陰のある表情、素材が良いと言ってしまえばそれまでだけど、実に自然体で映画に向き合っている。ヒロインを演じる真田麻垂美は不思議な存在感を持った少女である。白いワンピース姿の無垢であどけない佇まいだが、時として妖精のような雰囲気を醸し出す魅力がある。

物語は淡々と進んでゆく。新しい曲が書けず悶々としていた花火は、土手の上で自由に踊る少女と出会った。その創作ダンスに興味を持った花火は、ブルースハープのアドリブで音を重ねる…。何かを予感させる出会いのシーンだ。“カバンを無くした…” という少女にお金を渡し、バスで帰るよう促して車で走り去った花火。もう会うことがないはずの少女だったが、翌る日の夜に、少女は花火が住む山裾の廃校に突然押しかけてきたのだ。そして、嫌がる花火を押し切って、一晩だけの約束で泊まることになった。少女は花火のファンだと言い、自分のことを “ヒバナ” と名乗った。

不思議な少女である。突然走り出してみたり、道端で自転車を拾ってみたり… そんなヒバナの無邪気で自由奔放な行動が、困惑していた花火の心をゆっくりと解かしていった。結局花火が折れて、ヒバナはその後も一緒に居ることを許される。2人のふざけ合う日々が始まったのだ。自由気ままな時間… キャベツの丸焼きをナイフとフォークで食事する幸せそうなやりとりが実に印象的だ。

そんな緩やかな時間が流れてゆくうちに、花火は今まで書けなかった新しい曲を書き始める。そこには “花火の曲で踊りたい” というヒバナの願いもあるのだろう。そう、ヒバナは花火の創作意欲に火をつけたのだ。そして、その曲こそが、この物語のファクターである「One more time One more chance」なのだ。

「One more time One more chance」とは、山崎まさよしの物語である


 これ以上何を失えば 心は許されるの
 どれ程の痛みならば もういちど君に会える
 One more time 季節よ うつろわないで
 One more time ふざけあった 時間よ

劇中で、悩みながらメロディが紡がれてゆき、物語が進むにつれ徐々に形になってゆく。すでにお気づきだろう… 曲の歌詞そのまま映画のストーリーなのだ。物語の終盤、ヒバナは花火の前からいなくなる。花火は、ヒバナが消えてゆくその瞬間まで “好き” と言うことはなかった。歌詞にある「♪言えなかった「好き」という言葉も」とは言わずもがな、そういうことだ。もはやこの映画は「One more time One more chance」に合わせた壮大なミュージックビデオと言っても過言ではないだろう。

さて、この物語の世界観を演出した「One more time One more chance」だが、この曲は驚くことに映画のための書き下ろしではない。実はこの歌詞、山崎自身がなかなかデビュー出来ずに悶々と過ごした時代を ''悲哀のラブソング'' として喩えたものなのだ。この映画は「One more time One more chance」を脚本に活かして、ひと夏に起こった出会いと別れを描いた作品である。ただ、この曲の歌詞に託された真意を鑑みれば、映画のそこかしこに山崎まさよし本人の悶々とした日々が見え隠れする。歌詞中の “君” とは “俺” であり、それは素直に音楽に打ち込む愛すべき自分のこと… なかなかデビューが決まらないことで、見失いつつあった無邪気で自由奔放な自分の姿なのだ。つまり『月とキャベツ』はひと夏の幻影という切ないラブストーリーであると同時に、山崎自身の心模様を描いた作品に思えてならない。

映画のラスト… 花火は完成した「One more time One more chance」を絶唱する。このシーン… 打ち上げ花火が夜空を輝かせ、キラキラと尾を引く星(火花)が静かに消えてゆくような演出だった。『月とキャベツ』… 夏の終わりにぜひ観てもらいたい映画である。

およそ26年ぶりの連ドラ主演!今年は役者としての山崎まさよしが大活躍


今年の5月17日に公開された映画『ハピネス』で、久しぶりに篠原監督とタッグを組んだ山崎まさよし。先月7月末から放送が始まったMBS系の深夜ドラマ『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』の主演としても活躍している。なんと地上波連続ドラマの主演はおよそ26年ぶりとのこと。ドラマオープニング主題歌も自身書き下ろしの新曲である。歌番組が少なくなったいま、なかなかテレビで観る機会が少ないけれど、今年の山崎まさよしは役者としても大車輪の活躍なのである。

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