Yahoo! JAPAN

経営とコミュニケーション~組織の未来を形作る対話の力~

Frontier

経営とコミュニケーション~組織の未来を形作る対話の力~

経営の成否は、戦略や戦略を実現するためのリソースだけでなく、組織内外での「コミュニケーション」に大きく依存している。意思決定の質や組織文化の醸成、エンゲージメントの向上など、企業の競争力を左右する要因は、効果的な対話と情報共有によって築かれる。本稿では、組織の持続的成長を支える経営の視点からなる「コミュニケーション」について考察する。

1.経営における「コミュニケーション」の役割

コミュニケーションが大事、コミュニケーションが組織を活性化する、双方向のコミュニケーション、などビジネスにおいて「コミュニケーション」を切り口としたテーマは無数にある。もはや身近すぎる「コミュニケーション」であるが、この言葉の深さと重要性の高さから今でも多方面で取り扱われているテーマだと考える。

当社は企業再生を生業として祖業したコンサルティング会社であり、企業の価値創造や組織変革に向けた伴走型の経営執行支援を強みとしている。当社のそれら支援を担うコンサルタントが、多くの経営の現場で見られる「経営とコミュニケーション」について考察する。

2.経営における「コミュニケーション」と必要性

経営の舞台で議論されるコミュニケーションをここでは大きく2つに分類する。一つは「経営から社内に向けてのコミュニケーション」、そして「経営陣内のコミュニケーション」である。

経営から社内に向けてのコミュニケーション

2000年代から広がり、今や当たり前になっているMVVやパーパス経営に代表される、組織を同じ方向に向かわせるためのコミュニケーションが、いわゆる「経営から社内に向けてのコミュニケーション」の手段の一つである。昨今はSNSや書籍を中心に組織変革のための組織コーチングが広く知られるところだ。コーチングもやはり経営手段としてのコミュニケーションの一種であるととらえている。

経営者として率いる組織に対し、いかに正しくありたい姿を伝え、組織を同じ方向に動かすことができるのか、は、もはや経営に携わる方々において避けられないテーマであり、常に立ちはだかる壁である。

学生時代、部活動に参加していた方であれば共感いただけるかもしれないが、当時は伝統的にあのライバル校には負けられない、地区優勝や全国大会出場・優勝、等の具体的であり特定の目標に向かって努力していた。目標を達成するために各自が弱点を補う練習を積極的かつ主体的に考え、実行していた。

また、試合に出られない後輩や仲間達も自らがチームにどうやって貢献できることを考え、探し、実行することで組織に貢献をしていた。そんな過程を経て、試合や大会に挑み、一人では成し遂げない成果や達成感を得た方も多いのではないだろうか。

そんな私たちが大人になり会社に所属した今はどうだろうか。会社の目標は何となく聞いたことがある、といった程度で、その背景と本質を捉え、目標に向かって自らが努力をし、組織への貢献を本気で自分事として考えている方はどれくらいいるだろうか。裏を返せば、経営者は本気で目標やありたい姿を伝えているだろうか。

筆者は幸いにも経営する側に立たせていただき、初めてこの矛盾と課題の難しさを身に染みる思いで体験できたと感じている。尊敬する経営者からこんなことを言われた。「この会社にもう30年いて、社長を15年やっている自分でも社員へ伝えたいことの5%も伝わらない。経営に関与したばかりの君の言うことなんて2%も伝わっていないと認識しなさい」。あらゆる手を打ち、挑戦されてきた先輩方には足元にも及ばない。自分ができることと言えば、何度も同じ言葉で同じことを言い続けること。これも「言わされて」いれば伝わらない。自ら腹落ちし、納得しきった言葉でなければ続かない。この伝えることの難しさには正面から向き合う必要があり、筆者にとって挑戦しつづけなければいけない人生の課題であると自負している。

経営陣内のコミュニケーション

これはどんな組織、会社においても起こりうることではないか。経営陣の仲が悪い、会話がない、お互いを理解していない、という要因で方向性が合わず組織運営において非効率が生じているケースである。組織内のリソースの効率最大化は、労働人口の減少が前提となった現代社会において、言うまでもなく当たり前の取組みである。仮に組織の長の個人的な感情や理由による妨害や非効率は許されない。

ここでいう経営陣とは、社長と役員はもちろんのこと、執行役員や事業部長、部長などの階層を含んでいる。

各組織の責任者や部門の長がその状態であると、当然その組織に属するメンバーは無用な忖度、根回し、更にはちゃぶ台返しで多大な非効率による犠牲を払うこととなる。うちって昔からそうだから、どこの会社もそんなもん、と既に諦めている方々が多い印象である(そのような環境だからこそ調整役として活躍する方々もいる)。

これを回避するためには経営陣がどのような状態であればよいのか。それはシンプルに「仲が良い」状態である。または、「互いに信頼し、積極的にサポートしあえる状態」、が理想である。経営陣が「仲が良い」状態を実現するためにはどうしたらよいか。そう、結局はコミュニケーションである。

いわゆる“ミス”コミュニケーションは互いの根本や考え方の原則が理解し合えていないことから始まる。そのため、生い立ちから数々の失敗、趣味・嗜好も全てをさらけ出したうえで互いを理解することで信頼関係の構築が始まるものだと考えている。つまり、お互いを信頼するためには、まずは徹底的な自己開示から始まる人間関係の構築が必要である。

長年のキャリアと実績をもち、自らの成功の型を有するのが、経営者である。そのような方々が経営陣内のコミュニケーション課題を認識し、その解決のため、自ら徹底的な自己開示をし、信頼関係を構築するプロセスを意図的に実施することは、一般的には困難である。

だが、本当に自らの会社の更なる発展や従業員への還元・成長を考えている経営者であるからこそ、互いに無関心、表面上の迎合、足の引っ張りではなく、同じ船に乗る仲間と本物のコミュニケーションをとる必要性があることを理解できるのではないか。

3.経営のための「コミュニケーション」の始め時

当社の経営執行支援業務を提供する上で、上記の「経営から社内に向けてのコミュニケーション」および「経営陣内のコミュニケーション」に接する機会が多くある。それは特に以下の企業の変革期に当社が多く関わっているからだと考えられる。

・M&A後の全社メッセージと幹部間コミュニケーション摩擦解消・融合
・創業者からの事業承継期(後継者との関係再構築)
・パーパス経営の推進にあたっての幹部間の共通理解づくり
・経営陣の多様化(価値観の違いの統合)

近年増加の一途を辿るM&Aであるが、M&Aの実行後に開始されるのがPMI(Post Merger Integration)である。経営執行支援の一環として当社はPMI支援を多く手掛けており、PMIの重要論点とされている「M&A後の全社メッセージと幹部間コミュニケーション」の重要性を紹介したい。

M&Aによって生じる買収側と被買収側という構図があり、その両側の経営陣が「買われた」社員に対して発する全社メッセージとコミュニケーションの取り方の重要性は言うまでもない。

被買収側の社員は給与・手当はどうなるのか、人員リストラがあるのではないか、拠点の閉鎖・移動はないのか、そもそも会社の運営がどう変わるのか、などなど多くの不安を抱いて買収完了日を迎えることとなる。不安を解消するため、買収完了前から両経営陣ですり合わせのうえ、コミュニケーションプランを作成するのが一般的である。具体的には、新たなトップから会社の目的と目指す姿、新しい会社になり、何がいつ変わるのか、または変わらないのかを伝えなければならない。

だが、実務面では難しさがある。コミュニケーションの取り方といっても、全員を1箇所に集めるのか、オンライン配信で伝えるのか、メール等で一斉配信するのか等、の複数選択肢があり、これは従業員数や国内・海外含めた拠点数や子会社数、日常の情報共有ツール等によって最適な方法は異なる。また、伝える相手として大多数となる一般社員も意識する必要があるが、どのような言葉を使うのか、会社の社風や文化がどのようなものか、過去の情報共有での伝わり方等も総合的に勘案し最適解を導き出す必要がある。しかし、M&Aの特性上限られた社員にしか情報共有はできず、一般社員も含めた十分な議論もできない中での対応となるため、実務面では難しい。最初のコミュニケーションでエラーがあると、その後の会社運営に思いがけない負担が生じることになりうる。

最後に、幹部間コミュニケーションであるが、被買収側の経営陣には一般的に買収側の主要メンバーが参画することとなるため、一般社員のみならず、幹部間においても自分達の管轄領域がどう変わるのか、スムーズな連携ができるのか、そもそも信頼できる相手なのか、といったコミュニケーション上の不安を解消しなければならない。

足元の課題解決に追われている日常の中から、いるかわからない誰かが課題を提起し、いつ起こるかわからない内部からの自発的なコミュニケーションの見直し機会を待つままでよいのか。然るべき方がコミュニケーションの課題と重要性を認識し、重要な経営課題として向き合わなければならない。または、M&Aを含めた外部からの要因によって、見直さざるを得ない場合もあるだろう。

内部的でも外部的でも何らかの要因によって、経営におけるコミュケーションが見直される機会が生まれることはポジティブなことであると考える。当社はこの課題に対して真摯に挑み、組織の持続的成長を実現せんとする経営に常に寄り添えるコンサルタントでありたい。

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 仁平 洋亮

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 嚴島神社だけじゃない!エコツアーで知られざる宮島の姿を学ぶ。広島から足を延ばして、船でぐるっと、七浦めぐりへ!

    さんたつ by 散歩の達人
  2. 『ガチアクタ』エンジンの情報まとめ|窮地の際に助けてくれる“アクタ”の頼れるリーダー。人器の能力や“掃除屋”メンバーとの関係などを紹介!

    アニメイトタイムズ
  3. 豊岡に初出店!城崎温泉街に『ダイコクドラッグ 城崎温泉一の湯前店』がオープン 豊岡市

    Kiss PRESS
  4. 【クマ目撃情報】三条市曲谷で国道290号を横断する姿

    にいがた経済新聞
  5. 庭で遊んでいたはずの犬が…『何してんの?』目を疑う"衝撃の行動"が111万再生「ハムかな?」「メロンパンw」「ナチュラルハンモックで草」

    わんちゃんホンポ
  6. 高橋真麻、自宅の庭に設置したプールを公開「楽しんでくれると良いなぁ」

    Ameba News
  7. 川崎希、初めて全員揃った家族写真を公開「退院することになりました」

    Ameba News
  8. 【オクラとみょうがを使ったさっぱり系おかず】「これなら3日連続食べても飽きない!」夏の冷蔵庫に常備すべき作り置きレシピ

    BuzzFeed Japan
  9. <お前やめて>昔ヤンキーだった人は大人になってもガラが悪いまま?「この人、元ヤンだ」と感じる瞬間

    ママスタセレクト
  10. 【7月5日プロ野球公示】日本ハム 細野晴希、 楽天・柴田大地を登録 楽天・早川隆久が抹消

    SPAIA