Yahoo! JAPAN

真っ黒な空と灼熱の熱風 中丸在住・井上寛子さん(105)

タウンニュース

井上寛子さん(右)と娘の静子さん

東京都で生まれた井上さん。画家を志す中で、彫刻家の信道さんと結ばれ横浜へ。現在も暮らす中丸の自宅兼アトリエで79年前の5月29日、横浜大空襲を経験した。

普段は横浜の海が見えたという窓からの景色は、文字通り火の海に変わった。空襲の黒煙で、午前中の空は夜のように真っ暗。燃えるような熱風が自宅の周囲を吹き荒れた。

5発の焼夷弾

娘の静子さんをお腹に宿していた井上さん。娘の命を守ろうと、部屋の中でコートなどを何枚も重ね着して鉄兜をかぶって、戦禍を無事に生き延びた。

自宅には5発の焼夷弾が落ちた。そのうち一つは、信道さんが避難した自宅の庭の防空壕で燃え上がった。なんとか脱出した信道さんは出血と大火傷を負いながらも、庭の炎を絨毯で鎮火。自身は用水池に飛び込み火傷の応急処置を行ったという。「庭の木々の葉から水が吹き出る音も覚えている。植物もなんとか生き延びようとしていたんだと思う」と異様な光景は鮮明に記憶に残る。窓際に落ちた不発弾により天井には大きな穴が。現在もその痕跡は残り、戦争の恐ろしさを物語る。

終戦直後に疎開先の静岡で、静子さんを出産。すぐに自宅に戻ったが、戦後の暮らしは水や食糧不足も深刻だった。貴重な配給を受け取りに、二ツ谷町まで静子さんを抱えながら長い坂道を歩いた。「どうして私たちがこんな酷い目に遭うんだ」と辛さに耐えながら必死に生き抜いた。

次世代に伝えたい

「戦争はいつだって若者たちの命が奪われていく」と話す。自身の弟も出征が決まると、町内からは万歳の声で送り出された。最後まで「行かないで、行かないで」と願った弟とは結局それが今生の別れとなった。甥はシベリアに出兵。京都の舞鶴港に復員の船が来るたびに名簿を見たが、その名を見ることはなかった。

大切な人の命が奪われる戦争の悲惨さを「次の世代にも知ってもらいたい」と話す。静子さんの名前には「平穏で静かな時代」への願いが込められている。「二度と戦争を起こさない、平和な社会を作って行ってほしい」と希望を託す。

天井に残る焼夷弾の痕跡

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 『仲が悪い犬と猫』が一緒のソファに座った結果…まさかの『微笑ましい光景』に9万9000いいね「見てるだけで幸せ」「可愛すぎ」絶賛と悶絶の声

    わんちゃんホンポ
  2. 大人が楽しめる語りと音楽「この指とまる会」 30日に伊賀・開化寺

    伊賀タウン情報YOU
  3. 週2回のホームヘルプで叶えられた自閉症息子の願い。居宅介護と移動支援、わが家の利用方法

    LITALICO発達ナビ
  4. 宝島社オリジナル!書店で買える「2WAYショルダーバッグ」と「軽量キルティングバッグ」の2種類♪

    ウレぴあ総研
  5. ステレオサウンドストアで「2024 Autumn-Winter ザ・バーゲン」開催中!

    ワイン王国
  6. 高橋英樹、ベストドレッサー賞の“特別賞”を受賞したことを報告「おめでとうございます」「素敵なスーツ姿」の声

    Ameba News
  7. まさか自分が歳を取るなんて! ~テリー伊藤さん

    TBSラジオ
  8. 「桃彌カード」は「女性性」の象徴。バランスを見直すことが大事!?【指導霊さんオラクルカード】

    ラブすぽ
  9. スーパーでニンジン買ったら「思った以上につわものぞろい」 異形の軍団に21万人驚がく「叫びそう」「ご武運を」

    Jタウンネット
  10. 新年から星空の下で熟睡 バンドー神戸青少年科学館「熟睡プラ寝たリウム」 神戸市

    Kiss PRESS