週2回のホームヘルプで叶えられた自閉症息子の願い。居宅介護と移動支援、わが家の利用方法
監修:渡部伸
行政書士/親なきあと相談室主宰/社会保険労務士
きっとまたいなくなる…あきらめた末に提案された居宅介護
ホームヘルパーさんに来てもらうことになったのは今から3年前、息子が中学2年生の頃でした。特別支援学校に進学したものの、登校は数日しかできず、やっとのことで見つけた放課後等デイサービスにもフリースクールにも行けず、八方塞がりだった時に知り合った福祉施設の方から「計画相談支援を入れましょう!計画相談支援とは一生の付き合いになりますから!」と言われ、計画相談支援を受けることになりました。
計画相談支援とは、ものすごく簡単に説明するとケアマネージャーさんのようなもので、障害福祉サービスの利用に関する相談や利用施設との調整をしてくださいます。サービスを受けるには、まず役所の福祉課に行き、「計画相談支援を受けたい」とお伝えします。そして、どの計画相談事業所を選ぶかを決めるのですが、それには役所で紹介してもらう方法と、自分で探す方法の2つの方法がありました。
役所の方には「個人の特性や事情等に配慮はなく、リストにある事業所に順番に連絡していくので、息子くんのケースだとご自身で探されたほうが良いのでは」と言われてしまいました。困り果てた私は再び福祉施設の方に相談したところ、お知り合いの方を当たってくださり、息子のことを担当していただけることになりました。そしてその相談支援員さんから、「居宅介護(ホームヘルプ)」を提案されました。
1.障害福祉サービス等の利用計画の作成(計画相談支援・障害児相談支援)
サービス等利用計画についての相談及び作成などの支援が必要と認められる場合に、障害者(児)の自立した生活を支え、障害者(児)の抱える課題の解決や適切なサービス利用に向けて、ケアマネジメントによりきめ細かく支援するものです。引用:障害のある人に対する相談支援について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/soudan_shien.html
居宅介護
居宅において、入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助を行います。引用:障害福祉サービスについて|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/naiyou.html
その頃の私は、かなり頑なであきらめてしまっている状況でした。学校の先生は定期的に家庭訪問に来てくださるものの、一度「学校の先生」に対する信頼を底の底までなくしてしまった息子にとっては、現状の打開には難しく、また学校のシステム上、年度を超えて関わることは困難で、担当者が変わるたびに全てを1から説明しなければならない段取りに疲れてもいました。誰かを頼ってもどうせまたすぐにいなくなるのだという思いは、息子だけでなく私の中にもあり、それならば、誰にも頼らずに自分たちだけで生きていくしかないのだという決意すら固めていました。
ホームヘルパーさんが来ても、きっと何も変わらないのではないか、むしろ来たことでさらに荒れるかもしれないという懸念はありましたが、息子は意外にも了承してくれました。「今の生活を変えたい」という思いは確実に息子にもあったのです。私は居宅介護のために必要な受給者証を取得するために、役所の福祉課へ向かいました。
障害福祉サービス受給者証
障害福祉サービス受給者証は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスを利用する際に必要となる受給者証です。障害福祉サービスには大きく分けて、介護に関する「介護給付」と自立や就職に関する「訓練等給付」があります。
介護給付には子どもが対象のサービスとして、居宅介護や行動援護、短期入所などがあります。居宅介護は利用者の自宅にスタッフが訪問し、入浴、排せつ、食事などの介護を提供するサービスです。行動援護は、行動上著しい困難があり、常時介護が必要な障害のある方に外出中のサポートを行います。
短期入所は普段自宅で介護を担当している方が、病気などの理由で介護が困難な場合に、短期間施設に入所してスタッフが介護や見守りを行うサービスです。利用者が子どもの場合は児童福祉施設などで行われます。https://h-navi.jp/column/article/35030260
ホームヘルパーさんとの出会い
受給者証を無事に取得したことを相談支援員さんに報告し、同時進行で探してくださっていたホームヘルパーさんも見つかったので、いよいよ初訪問の日がやってきました。当日は相談支援員さん、担当していただくホームヘルパーさん、そしてその事業所の施設長さんの3名でお越しくださいました。息子は警戒心が特に強すぎるタイプで、相談支援員さんが家にモニタリングに来られてもいつも塩対応。果たして大丈夫なのかな……と思っていましたら、意外にもホームヘルパーさんとは好相性!始まって30分もしないうちに意気投合。偶然にも好きなゲームと好きなシリーズが完全に一致し、残り時間もずーーーっとゲームの話をしていました。
相談支援員さんが紹介してくださったのは「年が近くて息子くんの好きなゲームの話ができる男性」でした。実際来られたホームヘルパーさんはとても若くて、私も第一印象は「大丈夫かな……」とつい心配してしまったのですが、とても優しく対応もきちんとされた方で、息子のケアもしっかりとしてくださいました。
その頃の息子の重要課題として、一番大きなものが「入浴と歯磨き」。入浴はできて2週間に1度、歯磨きもできそうな時に促して……という感じでした。私が声を掛けてもなかなか聞き入れてくれなかったのですが、ホームヘルパーさんの声掛けだと素直に行ってくれました。思春期の息子にとって、親からの言葉には反抗してしまうのかもしれませんが、他人からの言葉には素直に従えるのでしょう。歯磨きの声掛けは来るたびにやっていただいていると、ほんの少しずつですが息子が自主的に歯磨きをする日も出てきました。そして、入浴のほうも「明日はホームヘルパーさんの日だよ!」と声掛けすることで、入ってくれることが多くなりました。「家に定期的に他人が来る」というのは、こんなに良い変化をもたらすんだなと思いました。
やっと踏み出せた!移動支援で広がる世界
ホームヘルパーさんがいらして半年が経った頃。息子の希望ではありましたが、利用時間がほとんど息子の話し相手で終わってしまうため、ほかの利用者さんたちがどのような利用の仕方をしているのか伺いました。そこで移動支援の話をお聞きしました。
移動支援とは、移動が困難な人に対してガイドヘルパーが行う外出の支援サービスです。これは障害者総合支援法にもとづく地域生活支援事業サービスの一つであり、障害のある人の地域での自立した生活と社会参加を促すことが目的です。
屋外での移動に困難さがある場合、外出を控えがちになるかもしれません。そのために、社会生活上の必要な活動が制限されてしまうこともしばしばあります。移動支援では、移動が困難な人に対して社会生活上必要不可欠な外出や、社会参加のための外出支援がガイドヘルパーによって行われます。
https://h-navi.jp/column/article/35026013
息子は、学校へ行くことが難しかったため、本当は登校の付き添いを一番お願いしたかったのですが、私たちの住む自治体では通勤や通学に移動支援を利用することはできず、あくまで「余暇」のみでした。「ゲームセンターや映画館、回転寿司などの外出も付き添うことがありますよ」と教えていただきましたが、その頃の息子は外出自体が困難でずっと自宅に引きこもり状態でした。それでも「いいなぁ……僕も行ってみたいなぁ」と息子が言ってくれたので、ひとまず受給者証を取得することにしました。移動支援の受給者証は、居宅介護の受給者証と異なるのです。
移動支援では通学時にも付き添ってもらえるの?
子どもの通学の場合には、原則として保護者や介護者が移動の支援を行うことになっています。しかし、保護者や介護者が毎日の子どもの通学に付き添うことは現実的に困難です。
以下のような場合には、例外的に通学における移動支援のサービスの利用が認められることがあります。2020年度の調査によると、43.8%の事業所で、一定の要件を満たす場合に通学の利用が可能、という報告もあります。
出典:地域生活支援事業における移動支援事業の実態調査|厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000130375.pdfhttps://h-navi.jp/column/article/35026013
移動支援には、ガイドヘルパーという資格を持った方などのサポートが必要になります。ガイドヘルパーとは、一人で外出するのが困難な障害者の外出同行や移動を支援する専門職です。わが家に来ていただいてるホームヘルパーさんは、幸いガイドヘルパーの資格をお持ちとのことでした。受給者証が届いたあと、改めて「ヘルパーさんとどこか行ってみたいところはある?」と聞いてみると、すぐに答えは出ませんでしたが、数日後「コンビニに行ってみたい……」と言ってくれたので、次の利用日にヘルパーさんと私と息子の3人で行ってみることにしました。久しぶりのコンビニで、大好きなチキンとおにぎりを自分で選んだ息子の表情は満足げでした。ガイドヘルパーという「プロ」が付き添うことで、外出の不安が軽減されたのです。
ガイドヘルパーは、移動支援従業者とも呼ばれ、障害の種別に応じた養成研修を受講し修了することで、資格を取得できます。ただし移動支援事業に従事できる要件は、ガイドヘルパー資格に限定しているわけではなく、市町村によって定められています。
移動支援でできること
移動支援では、社会生活を送る上で欠かすことのできない外出や、余暇活動等の社会参加のための外出支援を受けることができます。
◇社会生活上、必要不可欠な外出の例
・金融機関における手続き ・市役所、区役所、警察署 ・日用品の買い物 ・家族の学校行事 など
◇社会参加のための外出の例
・美術館、映画館、コンサート ・体育館、トレーニングジム、プール ・動物園 ・ボランティア活動 などhttps://h-navi.jp/column/article/35026013
「困っています」と親が叫ぶことは子どもたちの未来のため
ホームヘルパーさんが来てくれるまで、息子と私の世界は閉じたままでした。ですが、思い切って利用してみたことで「もう少し福祉を頼ってみてもいいのでは?」という気持ちが生まれました。これまで同情を毛嫌いし、「息子は不登校で精神障害がありますけど、全然大丈夫!私元気ですよ!」という顔をしていたのを止め、素直に「だから大変なんです!困ってるんですよ〜!」ということを他人に伝えることができるようになりました。これは長い将来、支援を受けて生きていくであろう息子にも重要なことで、私が「困っている」と伝えることで息子の生きやすさに繋がると思いました。
また、息子と同じくASD(自閉スペクトラム症)の娘がいるのですが、娘の支援を考える時、迷わず放課後等デイサービスの利用やスクールカウンセリングを活用することができました。今も最大限使える支援を利用させていただいています。
相談支援員さん曰く「子どものホームヘルパー利用で一番重要なのはマッチングなんです」とのことで、私も実際このマッチングがうまくいかなかったら、再び支援と繋がろうという気持ちは起こらなかったと思います。ですが、実際うまくいくかいかないかはやってみなければ分かりません。ホームヘルパーさんの支援によって 、息子の表情は明らかに明るくなり、今はひとりで外に出ることもできるようになりました。もしわが家と同じような環境で、現状に行き詰まりを感じておられる方がいらっしゃいましたら、利用を検討してみてもいいかと思います。
助けを求める勇気を持ちたい
あんなに支援を拒絶していた私が、「居宅介護(ホームヘルプ)」の利用を決意したのは、もう一つ理由がありました。私が、服薬治療中だった病気で手術をする可能性があったからです。相談支援員さんが役所の福祉課の方に相談してくれましたが、本来そういった場合はグループホームでのショートステイが推奨されるようでした。しかし、当時の息子は、家から連れ出すことは不可能な状態でした。息子が入所を拒否して大暴れした場合、無理に入所させることはできず、置いていくことになってしまうかもしれないと説明を受けました。そこで、役所の方とも相談しながらホームヘルパーを通しての見守りはどうかと提案され、ほかに方法はなく受け入れた形でした。幸いにも手術は免れ、現在は経過観察となっていますが、もしまた私に何かあった時、息子が外の人を頼れるようにしておかなければなりません。居宅介護の利用はその第一歩でした。
家に他人を入れることに抵抗のある方もいると思います。私も最初のうちは部屋を完璧に片付けたりしていましたが、今はもう洗濯物を端に寄せたり、多少散らかっていても普通にお招きしています。ホームヘルパーさんも「全然お気になさらないでください!」とのことなので、気にしないようにしました!これも大切なことです。
他人に弱さを見せること、助けてもらうことは恥ずかしいことではないと言いたいです。こうして不登校サポートや障害児育児をしていると、どうしても謝る場面が人より多く、自らを恥じ入り、消えたくなってしまう日々ですが、全てを一人で抱え込むには無理がありますし、助けを求めてもいいんだと思います。最近は、不登校や発達障害に特化した居宅介護や訪問看護も増えているそうです。どうしても困ってしまったら、どうか「助けて」と言ってほしいです。私も「助けて」と伝え続けます。
執筆/花森はな
(監修:渡部先生より)
計画相談支援事業者は、必要な福祉サービスについて情報を提供し、アドバイスを行って、実際のサービス利用の道筋を作ってくれる、障害児・者にとってのキーパーソンです。息子さんの状況や特性を理解して、「プロ」のヘルパーさんをマッチングしてくれたとのことで、とても素晴らしい事業者さんと出会えましたね。こうやって一歩を踏み出せたのは、「助けて」と伝えることができたからです。成人期以後も、日中活動や暮らしの場面などで、さまざまな支援が必要になってくるかと思います。これからも、困ったときには躊躇せず相談をして、息子さんやご家族の安心につなげていってください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。