まさか自分が歳を取るなんて! ~テリー伊藤さん
ファッションデザイナー:コシノジュンコが、それぞれのジャンルのトップランナーをゲストに迎え、人と人の繋がりや、出会いと共感を発見する番組。
テリー伊藤さん
1949年、東京都築地生まれ。日本大学経済学部卒業後、TVマンとしてキャリアをスタートし、ディレクター/プロデューサーとして『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』『ねるとん紅鯨団』『浅草橋ヤング洋品店』など数々の人気番組を世に送り出しました。またタレントとしてテレビやラジオにも出演するなど、幅広く活動しています。
出水:テリーさんといえば、ご実家は皆さんご存じのように卵焼き屋さんです。
JK:この間ドカーンと卵焼きを持ってきてくださって。おいしいのよ! 暮れになったら毎年買いに行きます。でも築地が遠くなっちゃったでしょ?
伊藤:でも両方あるんです、築地にも、豊洲にも。築地がまたすごいんですよ、インバウンドの人たちで大盛況してる!
出水:みなさん串に刺した卵焼きを歩いて食べてますよね。
伊藤:昔は箸で食べてたでしょ? 今は卵焼きを串にさすんです。片手でスマホを持つから! 昔は行儀悪いって言われてたけど、アメリカンドッグを食べるみたいに食べ歩き。うちなんかも8割は串にさした方です。最初は嘆いてたんだけど、こっちのほうが売れるしなぁ~って(笑)時代は変わりましたね。外国人が写真撮って広めてくれるから、また来てくれる。商売方向転換ですよ!
JK:私も築地で卵焼き買ったことあるけど、串にさしたのは知らな~い!
出水:テリーさんが小さいころの築地はどんな町だったんですか?
伊藤:町の雰囲気は『Always三丁目の夕日』。まさに銭湯があって、そこに通って・・・今もあるけど少なくなりましたよね。子どものころは紙芝居があって・・・
JK:そのまんま!
伊藤:でも遊ぶのは小学校の時から銀座なんですよ。銀座のデパートのエレベーターで屋上まで行ったり、あの辺をぐるぐるしたり、回転ドアで遊んだり。銀座が遊び場だった。銀座の不二家でショートケーキを食べるのが楽しみだった。あんまり公園の遊具とか知らないんですよ。あんまりなかった。あとは佃に行ってもんじゃを食べるとか。素朴な下町でしたよね。
JK:庶民のかっこよさですね。TVとの接点はいつぐらいから?
伊藤:「夜のヒットスタジオ」とかあったでしょう? アイドルがいっぱい出てて、楽しいなぁ、あそこに行くと楽しいことがあるのかなぁって、意外と不純な動機でTVの世界に行きました(^^)
出水:小さいころ家にTVはあったんですか?
伊藤:それがね、近所でうちが一番早かったんですよ!
JK:じゃあ近所がみんな見に来るわけね! チャンネルも2つか3つぐらいしかなくて。
伊藤:そう、TBSとNHKぐらい。だから今まで俺をいじめてたガキ大将が、TVが着た瞬間優しくなるの(笑)「お前のところに行っていいか」って。おふくろもお金がないのにお菓子を出したりして、大人気だった! そんな『三丁目の夕日』にあるような、よくある家でしたね。
出水:みんなでよく見たのはプロレスとか?
伊藤:そうですね。高校生になるとしゃれっ気が出てきて、みんなが野球とか見てるときに「これからはヨットだろう!」とか「冬はアイスホッケーだろう!」とか言ったり。高校1年の時にアイスホッケー部を立ち上げたり、ヨット部を作ったりと、早すぎた新人類だったんです(^^) 大学行ってからは自分たちでコンサートを開いたり・・・当時としてはブッ飛んでたんですよ。このセンスを活かそうと思って、TVに行きました。
出水:TVでもすぐ目だったんですか?
伊藤:入った時にひとつ決めてたことがあって、仕事は「ナメてかかって真面目にやろう」。
JK:???
伊藤:きっとTV業界の人たちは俺より普通の生活してるよな、でも俺は学生時代に面白いこといっぱいしてきたからセンスいいよな、ってナメてかかる。でも一生懸命やる。大谷もそうだと思いますよ、ガム噛みながら野球やってる連中に俺が負けるわけないじゃないか、俺の方が高校時代頑張ったんだから、って気持ちを持ちながら頑張ろうってね。僕も新しい業界に行くときは「ナメてかかって真面目にやる」。
JK:両極端ですね。でも思うことはまっすぐですね。
伊藤:基本的には真面目です。夜遊びとかもあんまりしない。
JK:夜じゃなくても、昼間いっぱい遊んでるから(笑)
伊藤:そ、そうですね(^^;)
出水:番組を立ち上げるときは、みんなで会議室に集まって話し合うじゃないですか。テリーさんなりにどうやってアイデアがポッとひらめくのか、聴きたいです。
伊藤:「早朝バズーカ」って知ってるかな? 「元気が出るテレビ」の企画なんだけど。夕刊紙に「早朝ソープランド」っていうのが出てたんです。風営法ができて、12時以降は風俗をやっちゃいけない。ということは、早朝からソープやれば風紀違反にならないんです。早朝ってどっちかっていうと爽やかなイメージだから、一番爽やかじゃないものは何かと考えた時に、だったらバズーカ砲だろう!バズーカ砲で起こしてやれ!って。
出水:(笑)
伊藤:あと深夜番組ってラテ欄に4文字しかもらえないんですよ。4文字でインパクトのある文字はないかな~と思って、「ミニスカ」ポリスとか、「給料明細」とかいう番組タイトルを考えたり。今もずっと考えてます。
JK:テリーさんのマサカは?
伊藤:歳をとったことですね。まさかテリー伊藤が歳を取るとは!! ものすごくそれが面白くて!
JK:山ほど経験が詰まってて、歳取る暇なんてないんじゃないですか?
伊藤:いやリアルな問題として、トイレが近くなった。でもそれが僕にとって面白いんですよ! 「2時間半の番組なんて無理だよ、紙おむつが必要だな、でも紙おむつって響きはよくないな、よし、これはペーパーブリーフにしよう!」とかね(笑) そういう風に、歳を取ることを面白がる。
JK:そこからアイデアが湧いてくるのね。
伊藤:そうなんですよ。この歳だからこそできる感性ってありますよね。若い時って桜を見るとキレイだなとか思うでしょ? うちにワンちゃんがいたんですけど、「あと何回ワンちゃんと桜を見られるかな」って思うのも、この歳だからできる感性。そういうのって大切だなって。僕にとって歳を取るのはマサカなんだけど、そこから生まれてくる、今しかできない感性を大切にしたいなって。死と拮抗すると、人間は文学の天才になれると思ってるんです。
出水:と言いますと?
伊藤:今まで考えつかないような言葉がどんどん出てくる。例えば、今まで僕は天国には雲しかないと思ってた。でもある時、「天国にはきっと海がある」と思ったんです。それってこの歳にならないと想像しなかったことだと思うんです。今までは雲しかないと漠然としか思ってなかったけど、今は天国に対してイメージが膨らむなぁって。サンタクロースがいるのと思うのと同じように、天国にも海があってもいいなぁって。勝手な想像ですけど、そういうのをしたためてます。
JK:他には? 天国は広い?
伊藤:広いですね。自由もあるけど、一応マナーもあるから、挨拶もしないと(笑)
JK:先輩がいっぱいいるからね(笑)
伊藤:お盆にご先祖が帰って来るって言うじゃないですか。でもお盆に帰れない人も天国にはきっといっぱいいますよね。帰って来ても誰もいないとか。そういう人はかわいそうだから、俺も残っててやろうかなぁ、とか。
JK:黒川紀章さんもそういう人よね。バーでいつも隅っこで1人で飲んでた。飛行機で会った時にはスカートみたいなのを履いてたの。独特な雰囲気の人よね。
伊藤:でもコシノさんもそうだよね! こないだも、ハイファッションから1万円強のコーディネートのショウをやるって話をしたら、「いいわね、そういうの」って。その時すごくナチュラルだなぁと思って・・・本当泣けてきますね!! 今年一番いい出会いだなぁ!!!!
JK:まぁうれしい! テリーさん、これからやってみたいことは? まだまだあるでしょ?
伊藤:普段は仕事終わった後に洋服屋さんに行ったりぶらぶらしてるんですけど、家に帰ると文章を書いたりするのが好きなんで、本を出していきないなって。いくつになっても本は出せるので、僕ら世代の人たちが「こんな生き方もあるんだ」って思えるような、楽天的な面白い本を出したいなと。
JK:「天国の遊び方」とかね(笑)天国も悪くないよ、とか。
伊藤:そうですね! あとは、生きてても嫌なことあるじゃないですか。嫌なことは言う! わがまま言ってもいいしね。今はいい人じゃないといられないみたいな雰囲気だけど、僕はそういうことを心がけてます。
(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)