赤ちゃんに多い事故 「おぼれる」「体を打つ」「喉につまらせる」の対処法を小児科専門医が解説
家のなかでおきた赤ちゃんの「溺水」「打撲」「誤飲」について小児科医・岡本光宏先生に取材。体調不良時の対応やチェックすべきポイントや受診の目安など。「0~1歳児の赤ちゃんのホームケア」シリーズ(全11回の9回目)。
赤ちゃんが家のなかで「溺水」「打撲」「誤飲」したときの対処法を小児科専門医が解説赤ちゃんのホームケア連載。9回目の今回は、家のなかで事故が起きたときの対処法についてです。赤ちゃんの「溺水」「打撲」「誤飲」の対応方法や受診の目安を「おかもと小児科・アレルギー科」院長・岡本光宏先生にお聞きしました。
兵庫県三田市にある「おかもと小児科・アレルギー科」院長・岡本光宏先生。日本小児科学会小児科専門医、認定小児科指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。新生児から思春期の心の疾患まで、幅広く診察している。
おぼれたときの受診目安
前回の「事故を防ぐための対策」と同様に、受診の目安やケアの方法も押さえておきたいポイントの一つです。ケース別に紹介します。まずは、おぼれたときの受診の目安から。
〈小児科を受診〉
・おぼれたのは一瞬で、意識も正常。元気そうにしている
〈時間外でも急いで受診を〉
・せきや37.5℃以上の熱が出た
・顔色が悪い
・機嫌が悪い
・いつもと様子が違う
〈すぐに救急車を呼ぼう〉
・意識や呼吸が戻らない
・心音がしない
・水を大量に飲んだ
・意識がもうろうとしている
「子どもは静かにおぼれるので、「おぼれたら音で気づくだろう」という思い込みは危険です。おぼれた直後に症状がなくても後から悪くなるケースもあるので、元気そうにしていても、必ずかかりつけ医を受診しましょう」(岡本先生)
おぼれたときの対処方法
次に、おぼれたときの対処方法を紹介します。もしものときのために、覚えておくと安心です。
【すぐに行うこと】
・名前を呼びながら肩をたたいたり、足の裏を刺激したりして意識を確認する
・意識・呼吸がない場合…救急車を呼び、到着するまで心肺蘇生を行う
・意識・呼吸がある場合…赤ちゃんを横向きに寝かせ、気道を確保する「回復体位」を取らせて安静にさせる
イラスト/オヨネ
〈赤ちゃんの心肺蘇生の方法〉
①赤ちゃんの胸が上下しているかを見て、10秒以内に呼吸を確認する
②呼吸をしていなければ、心臓マッサージと人工呼吸を行う。「心臓マッサージ30回、人工呼吸2回」を1サイクルとし、救急車が到着するまで続ける。
心臓マッサージのやり方…左右の乳首の間を結ぶ線の真ん中から指1本分下の部分を中指と薬指で強めに圧迫する。目安は胸の厚みの3分の1が沈むくらい。早くリズミカルに行う。
人工呼吸のやり方…片手を額に当て、もう片方の人差し指と中指であご先に当て、頭を後ろにのけぞらせる(気道の確保)。自分の口で赤ちゃんの鼻と口をおおう。赤ちゃんの胸がふくらむのを確認しながら、静かに2回息を吹き込む。
〈回復体位の方法〉
①横向きに寝かせる
②寝返りを防ぐために上側のひざを軽く曲げ、下側の腕を体の前に置く
③頭を少し後ろにそらせて気道を確保する。
「腹部を押すなどして、無理に水を吐かせるのは絶対にNGです。吐いた水が肺に入ったり、気管に入ったりして、肺炎や窒息を引き起こす可能性があるので、覚えておきましょう」(岡本先生)
椅子や階段から落ちたり転んだあとに機嫌が悪い場合は受診が必要!
体を打ったときのケアと受診の目安
次は、椅子や階段などから落ちたり転んだりして、体を打ったときの対応方法です。
【すぐに行うこと】
・赤ちゃんを引き上げて、名前を呼びながら肩をたたいたり、足の裏を刺激したりして意識を確認する
・意識がない場合は、気道を確保して人工呼吸を行う
・全身を見て、けがしている場所や状態をチェックする
・けがをしている場合は、状態に応じた処置を行う
〈小児科を受診〉
・機嫌が悪い
・打った場所を動かすと痛がる
〈時間外でも急いで受診を〉
・打った場所を動かすことができない
・打った場所がだらんとしている(骨折、脱臼の可能性がある)
・打った場所が変な曲がり方をしている
・意識はあるが、反応が鈍い、ボーッとしている
〈すぐに救急車を呼ぼう〉
・意識がない
・けいれんを起こした
・繰り返し吐く
・出血が止まらない、大量に出血している
「頭を打ったとき、直後は元気でも2日程度は注意深く観察するようにしましょう。ボーッとしている、歩き方がおかしいなど、なにか気になることがある場合はすぐに受診を。また、頭を打った場合、何科を受診したらいいか迷う方もいらっしゃいますが、子どもの場合なら相談先は小児科で大丈夫です」(岡本先生)
のどに異物をつまらせたら、すぐに救急車を
イラスト/オヨネ
0歳児で多い事故は「転落・転倒」に続き、異物をのどにつまらせる「誤飲・誤嚥」です(※1)。気を付けていても、日常起こりやすい「誤飲・誤嚥」は、以下の対処法と受診の目安を覚えておくようにしましょう。
【すぐに行うこと】
・のどにものをつまらせ、呼吸が苦しそうなときは、すぐに救急車を呼ぶ
・口の中を確認し、異物が見えるなら指でかき出す
・「誤嚥・誤飲したもの」「量」「飲んだタイミング」を思い出し、同じものや類似のものなどがあれば確保しておく
・緊急性はない場合、医療機関などに相談をする
相談先…かかりつけ医、「中毒110番」、「#8000」
(※1 国民生活センター発達をみながら注意したい0・1・2歳児の事故)
〈注意したいポイント〉
・のどにつまった異物を掃除機で吸わない(舌を吸いこむ、異物を押しこんでしまうなどの恐れがある)
・何も飲ませない(水や牛乳などを飲ませると吐いてしまい、症状が悪化する可能性がある)
・飲んだものを吐かせない
〈小児科を受診〉
・異物を飲み込んだものの、とくに異変が見られない
・口の中のものを取り除き、症状はなくなったが心配
〈時間外でも急いで受診を〉
・何度も繰り返し吐く
・せきが止まらない
・ひどく痛がる
・ひどく機嫌が悪い
〈すぐに救急車を呼ぼう〉
・呼吸をしていない
・呼吸困難になった
・ひきつけやけいれんを起こしている
・顔色が悪い
・薬やタバコなどの毒性の強いものを飲んだ
「コイン電池は食道に引っかかって穿孔するためとくに危険です。中でも直径20mmサイズのコイン電池は要注意。子どものおもちゃに使われていることもあるので、兄や姉がいる家庭はより気をつけましょう」(岡本先生)
────◆────◆────
家の中には、赤ちゃんにとって危ない場所や危ないものが存在します。対策を講じていても、事故やケガが起きてしまうこともあるでしょう。
正しいケアの方法や受診の目安を把握しておくことは、いざというときにパニックになりすぎずに冷静に対応できるようにするためのママパパのお守りのような役割もしてくれるはずです。
赤ちゃんのホームケア、次回10回目は、「切り傷・すり傷」についてお届けします。
取材・文/畑菜穂子