社員の士気を下げるオフィス移転とは? 生産性向上目的の移転効果は、3年で効果減少 民間調査
オープンワーク(東京都渋谷区)は9月12日、オフィス移転と従業員満足度の関係に関する共同研究の結果を発表した。共同研究には、国立大学法人筑波大学(茨城県つくば市)、ニッセイ基礎研究所(東京都千代田区)、三幸エステート(東京都中央区)も参加している。
研究では、移転の動機が従業員満足度にどのように影響するかを分析し、コミュニケーション促進を目的とした移転では満足度が向上する一方、在宅勤務推進を目的とした移転ではマイナスの影響が確認された。
アフターコロナのオフィス移転、在宅勤務推進とコミュニケーション促進が増加
共同研究では、企業のプレスリリースを分析し、本社移転の主要な動機を分類している。コロナ禍前は「コスト削減・業務効率化」が最も多い動機で、全体の53.6%を占めた。次いで「事業拡大」(43.6%)や「オフィスの集約」(33.7%)が主な理由となっていた。
しかし、コロナ禍以降は、従来のコスト削減・業務効率化の割合が45.2%に減少する一方で、「在宅勤務推進」を目的とした移転が急増し、1.1%から23.7%へと大幅に増加している。また、「生産性向上」や「コミュニケーション促進」といった動機も増え、オフィスの役割が従業員同士の交流や企業文化の育成に重点を置くものへと変化していることが示唆されている。
データ出所三幸エステート、国税庁法人番号公表サイト、各社HP、プレスリリースサイト対象エリア東京23区対象期間
・コロナ禍前:2015年10月~2020年2月(移転数:181)
・コロナ禍以降:2020年3月~2023年11月(移転数:177)
対象企業東京証券取引所プライム・スタンダード市場の上場企業分析手法共起ネットワーク
「在宅勤務推進」目的のオフィス移転は社員の士気を下げる
一方、移転の動機によって従業員満足度に異なる影響を与えることが、OpenWorkの会社評価スコアと社員クチコミのデータ分析から明らかになった。まず、単に本社を移転するだけでは従業員満足度に大きな変化は見られなかった。
しかし、動機別に分析を行うと、コミュニケーション促進を目的とした移転では「風通しの良さ」や「社員の士気」「相互尊重」など、複数の評価項目で満足度が向上する傾向が確認された。特に風通しの良さに関しては、コミュニケーションエリアの設置など、オフィス環境の改善が直接的に寄与していると考えられる。
一方で、「在宅勤務推進」を目的としたオフィス移転では、社員の士気に対してマイナスの影響が見られた。この背景には、オフィススペースの縮小や対面でのコミュニケーション機会の減少が関連していると推測される。
データ出所オープンワーク、三幸エステート、国税庁法人番号公表サイト、各社HP、プレスリリースサイト対象エリア東京23区対象期間2015年10月~2003年11月(移転数:234)対象企業東京証券取引所プライム・スタンダード市場の上場企業被説明変数総合評価、社員の士気、風通しの良さ、社員の相互尊重、20代成長環境、人材の長期育成コントロール変数総資産や売上高成長率、ROAなどの企業属性変数、在籍年数や性別、年収などの投稿者属性変数分析手法傾向スコアマッチング、Staggered DID
また、同研究では、生産性向上や働き方改革を目的とした移転の効果が現れるまでには時間を要し、移転後3年程度でその効果が徐々に減少する傾向も確認されている。これは、企業と従業員が新しい働き方に適応していく過程で、影響が緩和されることが原因だと分析されている。
同研究は、2024年7月にAsRES(アジア不動産学会)とGCREC(世界華人不動産学会)、AREUEA(全米不動産都市経済学会)が台湾で共催した「The 2024 AsRES-GCREC & AREUEA International Real Estate Joint Conference」で発表された。
発表の詳細は同社公式プレスリリースで、研究の詳細はオンラインレポジトリSSRNで確認できる。