【映画「温泉シャーク」】熱海発の抱腹絶倒「サメ映画」。今年の夏は「サメ映画」ブーム到来か
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは熱海市発の映画「温泉シャーク」。先生役は静岡新聞論説委員の橋爪充が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年8月21日放送)
県内上映は8月29日まで
(山田)熱海がモデルになったサメ映画だと聞いているんですが、全国で話題になっていますね。あれ…。何か聞こえてきました。いつもの「3時のドリル」とは違う感じですね。すごいね、この音楽…。
(橋爪)来ましたね。気をつけてください。これは1975年公開、スティーヴン・スピルバーグ 監督の「ジョーズ」のテーマ曲ですね。凶暴なサメが人々を襲う、という非常にシンプルなストーリーだったんですが、世界中で類似作品が生まれ、いつの間にか「サメ映画」という一大ジャンルが形作られました。
そして2024年、「ジョーズ」からほぼ半世紀。静岡発、熱海市がモデルの映画「温泉シャーク」が公開されまして、国内何度目かの「サメ映画」ブームでございます。
(山田)「温泉シャーク」。まだ見ていませんが、噂には聞いています。
(橋爪)7月5日に全国ロードショーが始まりました。 大手映画会社ではなく熱海市の制作会社「PLAN A」が作った、言ってみればインディペンデント映画なんですね。
スタートは全国30館、8月15日現在でトータル44館で上映されています。県内では清水町のシネプラザサントムーンで全国ロードショー開始時から上映されていて、わたしはここの初日を見に行きました。そして、今もまだ、県内でやっているんですよ。
(山田)まだやっているんですね!
(橋爪)静岡市葵区の静岡東宝会館で上映中です。先週、このラジオでしゃべりたいと思って電話で問い合わせたら8月22日まで、とのことでしたが、今週に入って確認したら29日までに延びました!来週までやっています。
(山田)インディペンデント映画の盛り上がりと言えば、「カメラを止めるな!」を思い出します。
(橋爪)そうですね。企画・原案・製作で「PLAN A」の代表を勤めるの永田雅之さんは「公開してから、口コミで多くの方に広がり、本当にありがたい。目標を大きく上回る方々に見てもらえて嬉しい」と話していました。
(山田)この夏公開のハリウッド系映画より話題になっているんじゃないかと。
めちゃくちゃな話だが納得感あり
(橋爪)さて、どういう話か。筋立てですが…。舞台はS県暑海(あつみ)市。
(山田)モロですね。
(橋爪)そのまんまです。筋立て、続けますね。市長が主導する複合型巨大観光施設の建設が進む中、温泉客が忽然と姿を消す失踪事件が多発していた。露天風呂で行方が分からなくなった客が、サメに襲われた遺体として海で見つかる。これはどうしたことだ。
ということで、警察や海洋生物学博士が調べるんですが、太古の昔からよみがえった獰猛なサメが熱海各地の温泉を自由に行き来し、人々を襲っているという驚愕の事実にたどり着くわけです。
(山田)あらすじだけ聞くと、そこまで面白い話じゃない(笑)。
(橋爪)そうですね。こう読むとめちゃくちゃな話に聞こえると思いますが、脚本や映画的作法はかなりきっちりしています。最後までストレスなく見られるんです。最大の謎は「なぜ温泉からサメが出るのか」ですが、これに対してのかなり強引な理屈づけも、この映画の中でなら「なるほど、それはありかもしれない」と納得させられます。
(山田)そうなんですね…。
(橋爪)映画の作り手が引いたリアリティーラインが、脚本や演出によってちゃんと観客に届くような構成になっているんです。映画としてちゃんとしている。
(山田)あらすじはめちゃくちゃでも、スッと入ってくるんですね。「この世界だったら」という納得感。
クラウドファンティングに1000万円超
(橋爪)監督は全国自主怪獣映画選手権2連覇の井上森人さん。永田さんと井上監督が出会ったのは熱海市で毎年秋に行われている「熱海怪獣映画祭」でも開催されていて、ロケ地も熱海市。完全に静岡映画です。
永田さんが2021年ごろからアイデアを温めていたのですが、井上さんとの出会いで一気に実現に向けて動き出したそうです。熱海の商店街、旅館、児童公園、海辺など、熱海のまちが隅々まで映画のロケに使われています。「こんなところからサメが出現するのか!」という驚きがあると思います。「えっ」という場所からも出ます。
(山田)サメですから、人を食べたりするわけですか。
(橋爪)そうですね。ガンガン食べます。この映画、制作費を募るために昨年の6月4日から7月17日までクラウドファンディングを行ったんですが、1140万6000円も集まったんです。支援者はなんと1278人。サメ映画愛好家というのがこれだけいるのかと。
(山田)いるんでしょうね。
(橋爪)クラファンの返礼品が非常にユニークなんです。中でも「サメマシマシプラン」というのがあって、これは支援1口=1000円ごとに、映画のクライマックスでサメが1匹増えていく、というもの。「サメ映画というなら、しっかりしっかりサメがでてきたほうがいい」という思いのもと、支援の数だけ劇中のサメを増やしてしまえとなったそうです。このプランの賛同は何と432口。つまり、クライマックスに432匹のサメがどっと登場します。これは、最大の見どころでしょうね。
(山田)ゾンビを思わせますね。
「テクノ御三家」の顔合わせ
(橋爪)個人的に興味深かったのは、熱海市在住の音楽家で「ヒカシュー」のリーダーの巻上公一さんがテレビのコメンテーター役で登場するところです。サメが各地の温泉に出現するメカニズムを解説してくれます。
そして、特殊音響効果に平沢進さんの名前があります。この方はバンド「P-MODEL」の中心人物。巻上公一さんはヒカシューのリーダー。この二つのバンドは「プラスチックス」とともに1980年代、 「テクノ御三家」と言われていたんです。御三家のうち二つがこの映画に集結しているんです。相当感動的ですね。
(山田)マニアックな見方ですねえ。
設定いろいろ「サメ映画」
(橋爪)さて、「温泉シャーク」が公開されたこともあり、今年の夏は「サメ映画」を掲げた映画祭が、全国で相次いで開催されています。
7月に東京・池袋で「第1回東京国際サメ映画祭」、そして8月17日に横浜市の元町映画館で「サメ映画祭2024」が開幕し、現在開催中です。どちらも「温泉シャーク」がメインコンテンツになっています。
(山田)サメ映画といえば大きなサメが出てくるイメージしかないですね。どんなサメ映画があるんでしょう。
(橋爪)わたしもそんなに詳しいわけではないですが、「サメ映画祭2024」の上映作品の中からいくつかピックアップしてみましょう。
「エクソシスト・シャーク」(2015年、アメリカ)
邪教に魅入られた修道女がこの世の全てを食らいつくす異形の存在「悪魔鮫」デビルシャークを召喚する話。
「トイ・シャーク」(2022年、アメリカ)
お父さんから小さい息子に贈った鮫のぬいぐるみが大暴走。悪魔の「サメぐるみ」化し、男の子にいじわるをするベビーシッターに襲いかかる。
「パペットシャーク」(2022年、カナダ)
これはわたしも見ました。アメリカの子ども番組「セサミストリート」仕様のパペット(人形)を動かすサメ映画。人食いザメを追う少年たちの姿を描く。
「温泉シャーク」を手がけた永田雅之さんによると「大作のしっかりしたものもあるが、B級映画の低予算映画も大人気。作り手の自由な発想でとんでもない映画が出てくるところが魅力」とのこと言っていますね。
(山田)楽しむところって、いわゆる普通の映画と違う気がしますね。
(橋爪)脱力しに行く、突っ込みどころを探しに行くといった面があるのでしょう。「温泉シャーク」は今後、海外への輸出も計画されているようです。世界中のサメ映画ファンに届くことを願っています。
(山田)世界中のサメ映画ファンが「温泉シャーク」をきっかけに熱海に来てくれたらいいですね。29日まで静岡市葵区で見られるということで。きょうの勉強はこれでおしまい!