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“建築家 松岡恭子 まなざしの彼方へ” vol.2 中村人形の魂が宿る場所『ギャラリー 傀藝堂』を訪ねて

muto

1917年創業、中村人形三代目・信喬氏、四代目・弘峰氏の作品を展示する『ギャラリー 傀藝堂』

中村人形の信喬氏、弘峰氏、お二人の作品に触れる機会を私は心から楽しみにしている。
遥か遠くを見つめる澄んだ眼差し、天の声に静かに耳を傾ける背筋、キリリと的を狙う集中力。「人としてこうありたい」と誰もが願う姿が人形というかたちで結晶化して、向き合っていると、日々の芥が足元に沈殿していく。

人形という存在は世界に溢れている。おもちゃ、お守り、伝統劇。
人間や生きもののかたちは、子どもの寝床、お祭りのにぎわい、住まいの一角で人々の心に寄り添ってきた。黙して語らずともその存在が慰めとなってきた。人形はいろいろな文化圏で、はるかはるか昔から、誰かの代わりを務めたり神への願いを届けたりしてきたのだ。

博多人形も福岡、博多の人間にとってDNAを共有するような親しみある存在だ。お二人のファンが多いのは、底辺にある伝統への馴染み深さに加え、文化芸術と歴史に造詣の深い知的基盤が生む創造性に心打たれるからだと思う。しかも絶対に「人形」の枠を逸脱しない創造性というのは、実は題材の広がりとものすごい深みを持つ。

中村人形 工房入り口

中村人形の工房は福岡市内の桜坂という、地形の起伏に沿ってうねる細い坂道の行き止まりにある。
静かな住宅地にある工房に何度もお邪魔する機会を得たのは、チョコレートショップ80周年プロジェクトで2020年から約一年間コラボレーションさせてもらったから。私は信喬先生作の人形を納める箱をデザインした。コロナ禍の真っただ中だったからこそ、会えない人への想いを込める対象として、人形の存在がさらに際立つと感じることになった。

 さらにその打ち合わせの度に信喬先生から伺うさまざまなお話には、日本人の心と人形、東洋と西洋の交流など知らないことがたくさんあり、こういう方だからこそ心打たれる作品が生まれるんだなあ、と感じ入った。

左から、佐野隆さん(チョコレートショップ)、中村信喬さん、松岡恭子さん

建築家として視る『傀藝堂』

さて、博多人形は土から生まれる。土は大切なテーマだ。
博多人形は700年以上つづく祭、博多祇園山笠のシンボルで、よく知られる歴史的エピソードや人物が描かれる。その製作を受け持つという大切な役割を負う人形師のお二人だが、自由な創作活動から生まれる作品たちにも日常的に触れることができる場所が生まれた。それが傀藝堂だ。お二人のインタビューはすでにmutoが昨年掲載している。

なので私はここで建築家としてこの傀藝堂について書こうと思う。

建築は機能から湧き出してくる空間の力と、置かれる環境との対峙から生まれる。傀藝堂はそのどちらも土につながっている珍しい建築だ。土から生まれる作品が、土を抱える擁壁の連続にできた空間に置かれている。土木的な重しの効いた、土の塊をヘラでカットしたような姿はちょっと時間感覚を狂わせる、まるでずっと前からそこにあり続けた遺跡のようだ。実際となりの擁壁とくっついている。おもねるようなフレンドリーな佇まいとは真逆な、ずっとここで存在し続けるぞ、という力強さを発している。

しかし内部に入ってみると、壁に切られた大きな窓が周囲を取り込み、開けた場になっているのだ。なんという対比だろう。

そして外からの自然光と人工の光を繊細に組み合わせた展示空間で、人形たちは力強い壁に護られて息をしている。

作・中村信喬
作・中村弘峰

この建築の設計は神谷修平氏。周辺の文脈を丁寧に読み込みつつ、半分地下に埋まった三角形の敷地にギャラリーと住居をつくった。高低差や道の狭さのため、とても建設しにくい環境だったはずだが、粘り強く向き合った仕事だと思う。もちろんクライアントも無から有を産む方達だから、きっと双方間にたくさんの対話が行われ、困難さも面白がりながら進んだのではないかと想像する。

 結局は建築は人の営みなのだ。人と人が出会い、対話し、格闘し、手で触れて、目を凝らし、時間をかけて積み上げていくのが建築の真髄だと思う。

四代目になる弘峰さんは絵も上手く筆も立つ、才能に溢れた若き作家だ。これから手がける新しい作品たちも、この傀藝堂でつぎつぎと披露されることだろう。自身の作品だけでなく、これはと目を付けたアーティストの作品展もプロデュースしている。そんな場所を私は自分の人生の一部のように楽しませてもらおうと思う。

四代目・弘峰さんと

ギャラリー 傀藝堂
住所:福岡市中央区桜坂1-10-46
tel:092-791-5316

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