【「清水駅前芸術祭」開幕】 見る者に「爪痕」残す13アーティスト。秀逸なアニメーション作品群
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は3月22日に開幕した、静岡市清水区の駅前銀座商店街や清水文化会館マリナートなどが会場の「清水駅前芸術祭」を題材に。(リポート・写真/論説委員・橋爪充)
静岡県出身のアーティスト13人がJR清水駅を挟んだ南北の会場に作品を展示している。2023年秋に続く2回目。今回は特にアニメーション作品や映像作品が目立つ。そのどれもが興味深い。見る者に「爪痕」を残す力が備わっている。
静岡市葵区出身の村本咲さんの「パーキングエリアの夜」は、2024年以降ブルガリア、フランス、韓国、米国など各地の映画祭やアニメーション映画祭で受賞実績がある手描きアニメ作品。深夜のパーキングエリアを舞台に、高速バスで移動する動物たちのつかの間の「休憩時間」を描く。せりふがほぼない映像は、他者同士がベンチに腰かける場面、発光する自販機の前でそれぞれが寒風に身をすくめる場面など、互いの適正な距離を見計らう空気が漂う。「広さ」と「狭さ」を強調した演出が巧みで、物語の起伏にうまくつなげている。
伝承に範を取ったストーリーをアナログ的なぬくもりを生かしてコマ撮りアニメーションにした餅山田モチ世さん(同市清水区出身)の「羽衣」、チェコでパペットアニメーションを学んだ仁藤潤さん(同)による動物たちの物語「Friends」は、それぞれにオリジナルな情緒を醸し出す。テレビアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」のエンディングを手がけたスズキハルカさん(同)は、ぐにゃりと変化を続ける「かわいい」系のキャラクターを、横丁の壁を思わせるスペースに映し出す。
映像作品でインパクトがあったのは、チョコレート製のリアルな子羊を解体する中西凛さん(藤枝市出身)の「仔羊のこと」。真っ白な羊の腹に銀色のスプーンやフォークを突き立てると、血液と見まごう粘度の溶けたチョコレートが流れ出る。スプラッター的な印象にならないのは、羊や画面の登場人物の衣装の透き通るような白が爽涼感を強めているからだろう。清水駅前銀座商店街には、チョコレート製の子羊の頭部も展示されている。
主宰の薩川さん(静岡市清水区出身)は静謐で精密な色鉛筆画とともに、立体も展示。「SANCTUARY」は色とりどりの小さなパイプ状の素材でアルファベットを構築。鮮やかであるが故に境界線が曖昧になるという、不思議な視覚経験を促す。
横山文昭さん(牧之原市出身)の「ばかおもいしみず」は、コンクリート製のひらがな3文字を商店街のど真ん中に横たえた。マテリアルとしての重量感と、鑑賞者の心中に残る言葉としての「重み」を同時に喚起する試みだ。昨年は「あいしてる」を展示したという。作品化する言葉選びの作業もまた「重い」。
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■清水駅前芸術祭
会場:清水駅前銀座商店街、まちかどギャラリー、AKIBAKO、静岡市清水文化会館マリナート
会期:3月30日(日)まで※観覧無料
展示時間:月~金曜午前10時~午後4時半、土日曜午前10時~午後5時半