ひさしぶりに会ったママが超エキセントリックだった!不器用すぎる逃避行の結末は?『KIDDO キドー』
里親のもとで暮らす少女ルーは「明日、ママが迎えに来る」と言われ、あふれる喜びを押し殺して待ち続ける。
ママと最後に会ったのはいつだったか、もう覚えていない。オレンジの香りがしたママ。「すぐ戻る」という約束だけして、ハリウッドに行ってしまった。でも、夜空の星がママと自分をつないでくれている。
盛大に遅刻しつつも、ママは本当に迎えに来た。想像していたよりガサツな感じだけど、なんだかクールな気もする。ボロいクラシックカーに乗せられ、ケータイは投げ捨てられてしまった。すぐに戻らなきゃいけないのに、ママは「お祖母ちゃんに会いに行く」と言い車を走らせる。
母と娘の奇妙なロードムービー『KIDDO キドー』
かなり強引な幕開けで始まる映画『KIDDO キドー』は奇妙なロードムービーだ。「1日1回は叫ばないと気がヘンになる」と言うママのカリーナが、とにかく破天荒。「これは誘拐なの」と言われた娘ルーは面食らいながらも、ボロ車でお祖母ちゃんのいるポーランドまで行くことになる。
ルーは母親恋しさのあまりカリーナに従っているようにも見えるが、初めてのママとの旅は新鮮で、ワクワクする気持ちを隠せない様子。もちろん2人の行動は現実的には多くの問題があるわけだが、しつこいほどに挿入される効果音がポップな印象を植え付け、悲壮感を感じさせない。
ザラついた白昼夢のような、すれ違い逃避行
冷静に見ればカリーナには何らかの闇があると想像すべきだろう。でもザラ・ドヴィンガー監督は、レトロなキャラクター造形や音楽で時代設定も時間軸も曖昧にし、白昼夢のような逃避行を少女ルーの目線で描き続ける。しかし、カリーナは愛に飢えた娘の自動補正機能でもカバーできないほど無軌道で、ルーの表情もこわばり始める。
やることなすことガチャガチャなカリーナからたびたび(どこかで聞いたような)名言が飛び出し、そのたびにハッとさせられたりもする。しかし、何かと達観したような憧れのママ像と、戸惑いながらも付き従う幼い娘という構図は次第に崩れ去る。それでも、すぐさま現実を突きつけ取捨選択を迫るような、説教くさい社会派ドラマ的セオリーには陥らない。
カリーナは自分が母親から与えられなかったものを、理想のママを演じることで娘に与えようとしているのだろうか。かたや無茶な逃避行の中で急速に成長を促され、全力で母のテンションに合わせつつ現実と折り合いをつけようと密かに葛藤するルー。最後に彼女が叫ぶ切実な希望は痛ましくもあり、旅路を見守ってきた観客に安堵を与えもする。
米インディー映画のバイブスもありつつ、外側からの目線がなければ醸し出せないであろうザラッと怪しい質感が新鮮。スクリーンでこそ映えるタイプの映画なので、ぜひお近くの劇場で観てほしい。
『KIDDO キドー』は2025年4月18日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、京都シネマ、テアトル梅田ほか全国順次公開