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​【「朝霧JAM2024」初日リポート 】XAVI SARRIA、キセル、Cornelius-。好天の下、熱演続く

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静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は10月12~13日に富士宮市で行われた野外音楽フェスティバル「朝霧JAM」の様子を、2回に分けてリポートする。(文・写真=論説委員・橋爪充)

好天に恵まれた12日のお昼過ぎ。日中の日差しは強いが、吹き抜ける風は涼しい。のんびりした雰囲気の朝霧JAM2024は、湘南の3人組maya ongakuによる15分超の長尺曲で幕を開けた。ゆったりしたリズムトラックに、空間を埋め尽くすような広がりのあるギターが響く。「1番目、務めさせていただいています」という園田努(ギター)のMCもどこかふわふわしていて、「白日夢」を見たような気分になった。

大小2ステージのうち、小さい方の「ムーンシャイン」でのmaya ongakuの演奏が終わり、大きいステージ「レインボー」に足を運ぶと、ほどなくスペイン・バレンシア地方からやってきたXAVI SARRIAが現れた。1990年代から2014年までバンド「OBRINT PAS 」を率い、現在もレベル・ミュージックの重鎮としてソロ活動を続けている。

男女混成の6人編成を従えたシャビは、パンキッシュな縦乗りビートに、哀愁を秘めたメロディーを乗せ、客席を大いに沸かせた。かつてのマヌー・チャオ、近年ではハンガリーのBOHEMIAN BETYARSを思い出す。こういうバンドは朝霧の祝祭的なムードによく似合う。

「La nit ferida」「Un foc que creix」「Presagi」といった、最新作「Causa」を彩る楽曲群では、ブズーキやバレンシアの木管楽器ドルサイーナが大活躍。ロック、スカ、フラメンコ、レゲエ、アラブ音楽などジャンルを超越した演奏の合間には、パレスチナの解放を訴えるメッセージも織り込んだ。「Music Is Our Weapon!」と高らかに宣言するシャビの表情は、闘士そのものだった。

そのままレインボーにとどまり、Kroi。エレガントなメロディーの「Stellar」でムーディーにはじめ、ファンク、ディスコ色が強い楽曲で徐々にテンポアップする構成が見事。ギターソロにジェフ・ベックの魂を感じた。 

ムーンシャインのキセルは、途中から聴いた。3人編成の一音一音に意味があると感じさせる、素晴らしい内容。ギターを基本としつつドラムの「たたき語り」も披露した兄・辻村豪文、ベースの弟・辻村友晴に、グッドラックヘイワの野村卓史がキーボードで加わった。落としたテンポの中に、強靱なグルーヴが確かに感じられた。

ボサノヴァのリズムを使った「楽しい明日」、友晴が琴のような音がする弦楽器を操る「一回お休み」、兄弟の口笛と民謡のような旋律が印象的な新曲が、特に心に残った。

朝霧JAM「第3のステージ」、カーニバル・スターに足を運ぶと、コロンビア出身の女性DJ、METRALLETA DJが、ラテンパーカッションに電子音が混じる楽曲を鳴らしていた。フロアで観客とともにステップを踏んだり、手拍子を求めたり。とっぷりと日が暮れ、たき火のにおいも漂うキャンプサイトに陽性のエネルギーを注ぎ込んだ。

再びムーンシャイン。鍵盤楽器奏者のJOHN CARROLL KIRBYは、ドレッドヘアの管楽器奏者を真ん中に置き、自身はステージ左端でスペイシーなフレーズを次々繰り出す。5人編成のバンドはアンビエントな楽曲、エレクトリックピアノを基調にしたメロウな楽曲など、端正な演奏が際立った。

レインボーに戻ると、一帯に汁物の香り。だいぶ気温も下がってきた。鶏そば、シチューの店に長い列ができている。

小山田圭吾率いるCorneliusは、シンセサイザーの和音と雑味を廃したクリアなトーンのギターで始まる「火花」を1曲目に持ってきた。例によって、背後のスクリーンの映像と完璧にシンクロした演奏。モノトーンの衣装でそろえた4人が横一列で並び、「クールに熱を帯びる」という不可能にも思えるサウンドを現実化する。

「COUNT FIVE OR SIX」「MIND TRAIN」と続く中盤は、激しいギターストロークを前面に。最終曲「あなたがいるなら」では、4者4様のグルーヴがより合わされて一つのうねりを生むという、至難の業を見せた。

夜更けのムーンシャインでは、石橋英子。ここ数年、県内では10月の熱海未来音楽祭(熱海市)でのジム・オルークとの共演や、11月のFRUE(掛川市)でのドラマー山本達久とのセッションなど、カフカ鼾関係の即興演奏が多かったが、この日は管楽器2人を含めた重層的なバンド編成。自らの歌声をアンサンブルの中心に置いた演奏は、彼女のポップネスに目を開かせるものだった。「牛ちゃんたちのうんちのにおいがだいぶ消えてきましたね」という、くだけた雰囲気のMCも印象に残った。

最終ステージはレインボーのCARIBOU。エレクトリックサウンドを展開するダン・スナイスのソロプロジェクトだが、この日はドラムとベースを含む4人編成。スナイス自身も別のドラムセットに座り、ツインドラムで演奏する場面もあった。10月に出たばかりの新作「Honey」からのハウスミュージックの色濃い楽曲が、肉感的に再現された。

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