得意科目でうっかりミス!重要なテストでも「見直しは面倒」ADHD中学生の向き合い方は
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
テストにミスはつきもの?
現在中学生の息子のコウは、ADHD(注意欠如多動症)によるものなのか、日常生活でミスが目立ちます。ADHD治療薬を服用するようになり以前よりは軽減していますが、毎日何かしら「そうだっけ?」「あっ、そうだった!」を繰り返している状態です。
登校しては家に忘れ物、下校しては学校に忘れ物、塾に手ぶらで向かい、宿題をすれば丸つけを忘れ……といった調子のコウです。内申点に関わる定期テストもミスが多く、中学入学以降頭を悩ませてきました。
持ち物も宿題もテストも、コウに聞けば「見直したよ」と言います。ですが、ミスを防ぎきれてはいない状態です。見直しによりミスを発見できることもありますが、実際に見直している姿を見ると「見直しかたが雑だな」と感じることもしばしばです。
私自身もADHD(注意欠如多動症)があり、見直したつもりでもミスをしていることは多いです。「1時から30分」の予定を「1時30分から30分の予定」と間違えて覚えてしまったり、歯医者の予約日と仕事の予定が入れ替わってしまっていたりします。
リマインダーを設定するなど自分なりに対策を心がけてはいますが、そのリマインダーの設定日時が既に間違っていたりします。そのため、家族の助けを借りて何とか生活を回しています。
最近は息子の受験関係のスケジュールや宿題のチェックに追われて、私のミスが雪だるま式に増えている状態のため、「私から息子に言えることなどあるのだろうか?」という気持ちが正直なところです。
とはいえ、そんな私から見て「見直しが雑だな」と感じるのですから、コウの見直しの穴は相当大きいのでしょう。
二学期の学期末テストに向けて、ここ数日は「見直しして~!宿題付箋つけてあるとこ確認して~!!」といった具合にコウに毎日何度も見直しを迫っていました。
テストの見直しをしたと言うコウのビックリ発言と、母のあたたかい一言
そんな中、ついにやってきた期末テスト最終日、コウは「今日のテスト、時間が15分余ったから見直ししたら、ミスを2つ見つけたんだよ~」と教えてくれました。
「お~!見直しでミスを見つけられるの珍しいやん。よかったね!見直した甲斐があったね」と私が感心していると、コウはニコニコしながら「前半見直してたらミス見つけて『あっぶね!』ってなってさ」とさらに詳細を話してくれました。
それを「うんうん」と聞いていると、話は予想外の展開を迎えました。「そのあと見直しを続けてたら、後半は面倒になってきちゃって~」と言うのです。
予想外の話の展開に「面倒になってきちゃって……!?」と驚いていると、コウは「けど、見直さなきゃなって続けてたら、ミスがもう1つ見つかったんだよ」と頷きました。
『進学に関わる内申点に影響するテストの見直しで「面倒になってきちゃって~」ってある!?』と驚きましたが、それを乗り越えて見直したんだなと思うと、コウの頑張りを感じて少しうれしくなりました。それを伝えると、コウも満足そうに「頑張ったんですよ~!」と笑いました。
そんな期末テストのエピソードを母に電話で伝えたところ、母は「いやー、『面倒になってきちゃって』を親に言えるのってすごいよ」と、私にとって予想外の感想を言いました。
「怒られるかな?って思ったら言えないでしょう。『面倒になったけど、そこを乗り越えて見直しをしたんだな』ってお母さんに思ってもらえるだろうと考えたから、コウは言えたんだよ」と母に言われて、私は「そう言われれば、そうだね」と納得しました。
受験生の親としては、「突っ込みたくなるエピソードはないのが一番だよー!」と思ってしまいますが、子どもから『突っ込みたくなるほど素直なエピソード』を聞けることはありがたいことなのかもしれませんね。
執筆/丸山さとこ
(監修:新美先生より)
ミスと見直しについてのエピソードを聞かせてくれてありがとうございます。ADHD(注意欠如多動症)の方にとって、うっかりミスはデフォルト設定、避けては通れないものです。「見直しを」とはさんざん言われるけど、それができるなら苦労しないよと言う話です。「めんどくさがり」という特性もほぼ漏れなくついてくるので、見直しなんてめんどくさいことは、そうそうできるものではありません。ボロボロボロと、ミスをそこら中に落とまくりながら生きていくのがADHD者と言っても過言ではないのです(自分のことを話しています)。
周りがいくら、「見直しをしなさい」「リマインダーを」「メモを取って」などと言ってもなかなかできないものですが、それでも本人がある程度自覚して、目的感を持つと、少しだけわずかに意識するようになります。そこに至るまでが本当に大変。コウ君が、テストで意識して見直しをしたということは、ご本人なりに自覚と目的感をしっかり持てているということですね。2つもミスを発見したなんて相当すごいです!!
そして、丸山さんも書いておられることですが、中学生が「見直してをしてミスを見つけたよ!」「めんどくさくて途中でやめようと思ったけど最後まで見直したよ」なんていう、特性にまつわる話を屈託なくお母さんに報告できるとは、とても良好な親子関係があるんだなぁと、ほっこりしました。さらに丸山さんが丸山さんご自身のお母さんにまでエピソードをシェアしているなんて、三代にわたって良好な親子関係なんだなーって、とっても素敵だと読んでいて幸せな気分になりました。
ADHD(注意欠如多動症)のお子さんは突っ込みどころエピソードの宝庫ですが、それをいちいち細かく指摘して、ネガティブな気持ちを募らせていると、中学生年代頃には自分のミスを隠したりするようになるものです。丸山さんが、ネガティブな指摘でなく、具体的な戦略・方略とサポートを続けてこられたから、親子間の信頼関係がしっかりできているんだなと思いました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。