「シラサギ」という名前の鳥は存在しない? 超複雑なシラサギの世界&見分け方
田んぼや小川で見かける白くて大きな水鳥のことを何と呼びますか?
「シラサギ」と教わった人も多いのではないでしょうか。しかし、実は「シラサギ」という種の鳥は存在しません。調べてみると、非常に細かく種がわかれているのです。
筆者の体験を基に、複雑なシラサギたちの見分け方をみてきましょう。
図鑑を読んで気づいた「違和感」
筆者は自然観察が好きで、よくフィールドワークに出かけます。
最近は高性能の一眼レフカメラを手に入れたため、ついにバードウォッチングも始めました。目の前に現れた鳥を手当たり次第に撮影し、家に戻ってから図鑑で調べて楽しんでいます。
ある時、撮影した写真と図鑑を見比べていて違和感を覚えました。写真に映っているシラサギが何サギなのか、よくわからないのです。
これは何サギ?
<チュウサギ>かと思いきや……
まず図鑑で目に入ってきたのは、チュウサギです。
筆者が撮影したのは冬季。図鑑には、チュウサギは冬季にクチバシが黄色くなると書かれてあり、これは一致しました。しかし、他の特徴はどう見てもチュウサギに当てはまらないのです。
図鑑を詳しく読むと、チュウサギは同じ場所に留まり続ける「留鳥」ではなく“渡りを行う鳥”であり、日本には夏にやってくるようです。つまり、チュウサギは冬季にクチバシが黄色くなりますが、日本ではそもそも冬季にチュウサギはいないため、筆者が撮った鳥はチュウサギではない別の鳥ということになります。
さらに調べていくと、筆者が撮影した鳥はダイサギという鳥であることがわかりました。その名の通り、チュウサギよりも大きく、顔の口角の長さがチュウサギよりも長いことで見分けられるそうです。
ダイサギは1年中日本で見られるため、冬季に筆者が撮影した鳥はダイサギで確定。他にも「コサギ」というシラサギもいますが、この鳥は明らかに小さく、顔つきもまるで違うため、すぐに見分けられました。
ダイサギに亜種がいた!
よしスッキリしたぞ!……と思ったのも束の間でした。
なんと、このダイサギには亜種がいたのです。その名もチュウダイサギ。チュウサギとダイサギを混ぜたような名前に名前ですが、ダイサギの亜種。チュウサギ、チュウダイサギ、ダイサギ……と同じような名前が多すぎてこんがらがってきました。
筆者が撮った鳥がダイサギなのは間違いなさそうですが、亜種レベルで見た時、この鳥はダイサギなのかチュウダイサギなのか、どちらなのでしょうか。
ダイサギしか撮っていない?
いちど情報を整理すると、ダイサギは冬季に飛来し、チュウダイサギとチュウサギは夏季に飛来することがわかりました。
いずれのシラサギもクチバシが黄色になるのは冬季であり、夏季は黒色になるそうです。先ほどの写真は冬季に撮影したため、やはりダイサギと思われます。
一方、何気なく夏季に見ていたシラサギはダイサギではなく、チュウダイサギかチュウサギだったのです。てっきり、冬季も夏季も全く同じ種を見ているものだとばかり思っていました。
シラサギは大きく分けて3種、亜種を含めると4種もいるのです。
そして改めて写真フォルダを見返すと、私はダイサギとコサギしか満足に撮影していないことがわかりました。ここまで理解できたのに、2種しか撮れていないのはもったいない。
そこで筆者は夏季になったらチュウダイサギ、もしくはチュウサギを狙おうと決めていました。
夏にチュウダイサギを狙う
チュウダイサギ、もしくはチュウサギを追い求め、暑い暑い炎天下の田んぼを探索しました。
すると遠くに見覚えのある白い影が見えました。いや、正確には見覚えはありません。夏季にいるシラサギがダイサギなのかチュウダイサギなのかチュウサギなのか、それが分かったのはつい最近のことですから。
とにかく、そこに“夏季シラサギ”はいました。種同定は後で行うとして、とにかく撮影です。
しかし、撮影しようとするとすぐに逃げてしまいます。特別近づきすぎたわけではありませんが、かなり目がいいのか、相当離れた位置からもすぐに逃げられました。冬季に撮影したダイサギはここまで神経質ではありませんでした。
遠距離過ぎて、筆者のカメラレンズでは満足に撮影ができませんが、下手に彼らを刺激したりストレスをかけるわけにもいきません。ピントは甘々ですが、遠距離から撮影しました。
ピントは甘いですが、チュウサギよりも口角が後ろに長いことが確認できました。また、偶然同じ場所にいたアオサギと大きさが同じか少し小さいため、サイズ的にもおそらく「チュウダイサギ」と思われます。
チュウダイサギと思ったら……クチバシの色が違う?
よし、ようやくチュウダイサギを見れたぞ!と思った矢先、またまた違和感に気が付きます。クチバシが黄色いのです。
いずれのシラサギもクチバシが黄色になるのは冬季のはず。もしかして、また亜種レベルで違うのか……?
繁殖期で変わるクチバシの色
さらに図鑑やネットで調べていくと、正確にはクチバシの色は季節ではなく、繁殖期か否かで変わるそうです。クチバシが黒いときは繁殖期、黄色いときは非繁殖期となるようで、つまり今回撮影したのは「非繁殖期のチュウダイサギ」でした。
しかし、それでも違和感があります。図鑑にはチュウダイサギの繁殖期は夏であり、日本で行うと書いてあるのです。
でも、このチュウダイサギは夏に日本で撮影したにもかかわらずクチバシが黄色です。なぜなのか?
日本でも場所によってクチバシの色が違う
さらに調べてみて、ようやくわかりました。
チュウダイサギが繁殖するのは本州以南、より多く繁殖が見られるのは西日本や九州だそうです。筆者が撮影した関東では、繁殖しない個体もいるということです。つまり、同じチュウダイサギでも地域によってクチバシの色が異なるのです。
結論として、今回筆者が撮影したシラサギは、「身体が大きい(チュウサギより大きいがアオサギと同じか少し小さい)」「口角が眼より後ろにのびている」「夏季ではあるが、関東圏で撮影したため非繁殖期のクチバシが黄色い」という要素から「チュウダイサギ」ということになります。
いや、難しすぎませんか……。
またこれは憶測ですが、よく見るとチュウダイサギのクチバシの先端が黒くなっています。もしかしたら、これから黒いクチバシに変わっていき、繁殖期を迎えるのかもしれません。
筆者的シロサギの見分け方 最後にもういちどまとめ!
ここまでの状況を整理して、もう一度<シラサギの見分け方>を表にまとめました。
上記の表はあくまで筆者が調べた限りの筆者目線の見分け方です。図鑑やネットによっても、研究者によっても、シラサギの見分け方や亜種であるか否かなどは意見が異なるようです。
筆者がまとめたこの表を見るだけでもかなり複雑なことがわかります。
同じ種でも冬季か夏季か、また同じ時期でも繁殖期か否かによってクチバシの色が変わります。さらに研究者によっても意見が異なります。
さらにさらに、表のとおり、チュウダイサギの一部には越冬する個体もいます。冬季に見られたからと言って、その鳥がダイサギとは限らないのです。そりゃ“シラサギ”ってひとくくりにしたくなるよ……と感じました。
普段何気なく見ていたシラサギたちの世界は、こんなにも奥深かったのですね。
また、未だに「チュウサギ」はきちんと観察できていません。まだまだシラサギの世界は深まってきそうだなと感じたフィールドワークでした。
(サカナトライター:みのり)