魚にふれて、命を知る──食育体験<鮮魚タッチ>のススメ 魚と触れ合うとより美味しくなる?
近年、日本人の「魚離れ」が急速に進んでいるといわれています。
農林水産省の意識・意向調査では、「家族が肉を好む」「価格が高い」「調理が面倒」など魚が食卓から遠ざかる声がたくさん寄せられています。中でも、私が気になったのは「調理方法がわからない」という回答でした。
調理方法どころか、「魚を切り身でしか見たことがない」「生の魚を触ったことがない」という子どもたちは、今や少なくありません。
鮮魚コーナーでよく知られている魚でも、まるごと一尾を見ても、なんの魚かわからない子どもが多いのではないでしょうか。
現代の子どもたちにとって、鮮魚はすでに“見慣れない存在”になってきています。ですが、魚との距離が縮まれば、調理についても知りたいという気持ちに繋がるかもしれません。
魚を見て、触って、知る──食育体験「鮮魚タッチ」
「鮮魚タッチ」とは、魚まるごとの姿を見て、実際に触ってみる食育体験です。
難しいことは何もありません。まずはスーパーなどで購入できる鮮魚を数種類用意し、「これは何の魚でしょう?」と名前あてクイズから始めます。まずは興味を持ってもらうことが鮮魚タッチの目的です。
食べたことがある魚でも、名前と姿が一致している子どもは少ないでしょう。「この魚がアジフライの『アジ』なんだ!」それを知るというだけで、子どもにとっては楽しい瞬間です。
手をきれいに洗って、実際に触ってみます。ツルツルだったり、ザラザラだったりする皮膚の感じは魚特有のもの。鳥の羽のようなヒレの動きを、実際に動かして再現してみるのもいいかもしれません。
そうすると、「意外と目が大きい」とか「口の中には鋭い歯があった」とか……想像以上の発見があるはず。イカや貝、カニなども含めて観察すれば、水生生物の見た目の不思議さに自然と好奇心が湧きます。
「不思議だな」「面白いな」と感じるだけでOK。子どもたちはその感覚がスイッチになって、魚と仲良くなることができるのです。
命をいただくということを知る
次は、魚をさばく工程を子どもと一緒に見ていきます。
包丁を入れると、血が出ること、内臓があること。「私たちは命を頂いているんだ」ということを視覚で理解します。
「いただきます」は、命をいただきます。「ごちそうさま」は、ご馳走をありがとう。
この言葉の意味を、子どもたちは自然に知ることでしょう。
切り身にしたら、「いつも見てるのはこれだよね。これが、さっきの魚なんだね」と話します。魚との距離感がぐっと縮まっているはずですよ。
そして最後は、煮て、焼いて、揚げて。いろいろな方法で調理してみましょう。
できたてほやほやを一緒につまみ食い! 距離が近くなった分だけ、美味しく感じるのが「鮮魚タッチ」の魔法です。
魚とふれあい「生きる力」を育てていく
海に囲まれた日本には、魚を中心に育まれた独自の文化があります。魚を獲る技術、様々な魚料理、保存の方法、包丁や箸などの道具など、蓄積されてきた先人の知恵があります。
それらを次の世代に伝えていくためにも、この「鮮魚タッチ」の体験を大きな一歩としてもらえたらと思います。自由研究のテーマにもぴったりなので、この夏は魚とふれあい、命・食・文化を学んでみてください。
(サカナトライター:こやまゆう)
参考文献
農林水産省「食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」(令和元(2019)年12月~2(2020)年1月実施、消費者モニター987人が対象(回収率90.7%)ー水産庁