中森明菜 史上初のトリビュートアルバム「明響」リリース!これはファンのみならずとも必聴
奇跡のトリビュートアルバム「明鏡」
令和の今、中森明菜が大復活を遂げている。何度もの活動休止を乗り越え、59歳になった彼女はとても自然体で、それでも “伝説” と呼ばれる表現力とオーラは格段に輝いていて――。
復帰してすぐは動画配信を中心とした静かなる活動だった。そこから扉がゆっくりと外に向けて開いている。香取慎吾とのコラボレーション。小室哲哉とタッグを組んでのジゴロック参加。それらは、デビューから明菜ちゃんを応援してきた人、サブスクや動画を観てファンになった若者、すべてを巻き込んで大きな喝采に包まれていた。
ああ、夢なら醒めないで!いやいや落ち着け。まだまだ興奮は続きそうなので深呼吸。というのも、奇跡のアルバムが届いたからである。そう、初のトリビュートアルバム『中森明菜 Tribute Album "明響"』。“明菜を響かせる” “明菜が響く” Wの意味の “明響”!
昭和、平成、令和と、彼女に影響を受けているシンガーやアーティストは数知れず。ただ、彼女の楽曲は、繊細かつ完璧に表現されているゆえに取扱注意でもある。リスペクトだけでは触れられない。今回は、それを百も承知で、それぞれの解釈やアレンジでカバーし歌い継ぐ “猛者” たちが集結した。その面々を見てもワクワクドキドキ 。“えっ?” と3度見くらいしてしまった意外なアーティストも参加している。
それぞれの個性がありながら不思議と “パラレルワールドの明菜" を感じさせるのが奇跡的。しかもデラックス・エディションには、トリビュートアルバムと同選曲の『中森明菜ベスト』(2025年リマスター)を収録。カバーを聴いたあと、すぐに明菜のオリジナルが聴けるというわけだ。なんという贅沢でブリリアントな企画なのか。その内容と興奮を、少しだけご紹介しよう。
エモーショナルを見事継いだ玉井詩織
先陣を切るのは、玉井詩織(ももいろクローバーZ)による「スローモーション」。こんなに “正しい” カバーを聴いたことがない。オリジナルの世界観を、1ミクロンたりとも汚さない。明菜が表現した瑞々しいエモーショナルを、両手でていねいにすくい、一滴も残さず飲みこんでいる風情だ。ぬおお、ありがとう、しおりん!
エモーショナルといえば、土岐麻子「セカンド・ラブ」も素晴らしい。中森明菜の「♪帰りたくない そばにいたいの」と心でつぶやく少女のそばでやさしく吹く風の音は、こんな感じだったのでは、と思う。
GYUBIN(ギュビン)の「トワイライト -夕暮れ便り-」は、パステルカラーの歌声。シティポップの魔法が少しかかっていて、聴いていて口角が上がる!中森明菜の初期の来生たかお&えつ子作品は、健気に咲く小さな花のよう。玉井詩織、土岐麻子、GYUBINの歌声は、明菜が撒いた種が新しい花を咲かせるようなイメージであった。
明菜へのリスペクトを感じるAdo「十戒(1984)」
恋は素晴らしいだけではない。明菜が歌ったもうひとつの “女” の顔、別れ際の切なさと情念も、しっかりとパワーボイスの歌姫たちがカバーしている。JUJUによる「DESIRE -情熱-」の酸いも甘いも嚙み分けた大人フレイバーは安定。一青窈による「北ウイング」は、切迫感強め。北ウイングは広い。中森明菜が歌う主人公と、経緯は違えど、同じ境遇にある女がいてもおかしくない。同じフライトを待ち、彼女たちはいる―― そう思わせてくれる不思議。
そして、Ado「十戒(1984)」! 彼女の誠実な性格が見え、明菜の溜息歌唱法へのリスペクトを感じる歌いっぷりだ。はっきりしない男へのイライラは時代を問わず共通。叶うならカバー返しとして、明菜に「うっせぇわ」を歌っていただき、2人がステージに並び歌うのを見てみたい!
特筆すべきは中島美嘉「難破船」。中森明菜が表現する哀しみは “和" の趣である。外国語では完全に訳せない “せつなさ” とか “やるせなさ" というような、複雑かつ繊細な心の痛み。これがふんだんに盛り込まれた「難破船」を歌い継ぐには、ちりめんの皺のように広がるビブラートを持つ中島美嘉のほかになかっただろう。最後まで、息ができないほどの哀しみが押し寄せる。
城田優が歌う「少女A」は男性目線
興味深いのは、男性陣によるカバーだ。作曲を担当した玉置浩二が自ら歌った「サザン・ウインド」は誘惑が強め、色気がありあまる。さらに、“走る車” のエンジン音の重量感がハンパない鈴木雅之の「飾りじゃないのよ涙は」も、主人公の強がりが、人生3周目くらいのパンチを感じる。
さらに、クレジットを3度見した城田優による「少女A」。なるほど、こうくるか……!“フェロモン" という言葉を思い出すほどの色香漂う仕上がり。中森明菜が歌っていた主人公を見ていた、もしくは誘っていた “男たち” の目線かも。
恋心というフィルターは厄介だ。こちらが何気なく言った言葉が、相手からしてみれば “気を持たせるための誘い文句” に思えることもある。そんな男と女の駆け引きが “中森明菜” という主人公と、彼らによるカバーとの対比により、ありありと見えてくる。なんとも挑発的な実験ではないか。
カーニバルの “演奏側” を思わせるCHEMISTRY
CHEMISTRYの「ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕」は本当に興味深い。中森明菜の歌う同曲がカーニバルに迷い込んだ恋する女性目線だとすれば、彼らは “演奏者の目線" を思わせる。どこか俯瞰で、カーニバルを煽るような雰囲気と、目が回るような不思議な興奮を覚える。
East Of Eden 「TANGO NOIR」も、結成300年くらいの魔法使いの音楽隊を思わせる風情。Ayasaのバイオリンが時空を飛び越え、ある祭りに召喚される。その輪の中心には、体を揺らし踊っている(踊らされている)明菜がいる。酔うほどのファンタジー度なので心して聴いて! また、星屑スキャット「TATTOO(T-Groove Remix)」も、地下の仮面舞踏会に迷い込んだような気分。彼女たちが歌っているさなか、偽名で紛れ込んだ “TATTOOの女=明菜" が仮面を手に、にやりと笑っている―― 。
大好きな映画が3Dになり、ざわめきを増して目に飛び込んでくるような感覚になる。そして一段と会いたくなるのだ。物語の主人公、中森明菜という “伝説” の歌姫に。13組のアーティストたちと明菜が創る、めくるめく “明響” の世界。プレイボタンを押したら簡単に引き返せない。お覚悟を!
Information
▶︎中森明菜 Tribute Album “明響” 2CDデラックス・エディション
2025年5月1日(木)発売
中森明菜ベスト・アルバム付2枚組
価格:5,500円(税込価格)
▶︎中森明菜 Tribute Album “明響” 通常盤
2025年5月1日(木)発売
価格:3,520円(税込価格)
▶︎中森明菜 Tribute Album “明響” (デラックス・エディション / 中森明菜ベスト・アルバム付)ダウンロード / ストリーミング