「学びのプロセスを評価する」山田先生が実践する子どもの成長を認める多様な評価とは
教科の枠にとらわれない「プロジェクト」型授業を実践する、茅ヶ崎市立香川小学校山田剛輔先生の連載第4回。自ら考え行動する中で見られた子ども一人ひとりの頑張り、成長はどのように評価すればよいのでしょうか。評価の考え方の転換、保護者と子どもへの伝え方など、「子どもが前向きになれる評価」について聞きました。
「算数」「国語」がない時間割! 教科横断型の「プロジェクト」で小学生が学ぶ意味を実感する理由茅ヶ崎市立香川小学校の山田剛輔先生が実践する「プロジェクト」は、教科の枠を超えて、子どもたちと一緒につくる授業。
山田先生は、子どもが自ら考え行動するプロセスの中で、テストや数値では測れない頑張りや素晴らしさを感じることがたくさんあったといいます。
それらをどのように評価するのかを試行錯誤してきました。
現行の学習指導要領でも重視される、一人ひとりの可能性や成長を重視した評価について、山田先生の考えや実践をうかがいました。
この授業 子どもたちを「評価」する方法はあるの?
他者を尊重し、自立する子どもたち
山田先生は、2024年度に担任した4年3組の子どもたちの様子を、次のように話します。
「個人で取り組むことが多い科目でも、お互いに励ましながら、よいところは認め合っていますね。
プロジェクトを進めるために、子どもたちは何度も話し合い、助け合ってきました。友だちの長所、優しい部分などに触れる機会もたくさんありました。
そうした経験が他者を尊重する行動を引き出し、クラス全体の温かい雰囲気につながっているのだと感じます」(山田先生)
子どもたちの自立的な行動も増えてきました。それをよく表しているのが、朝の会です。4年3組では時間になると日直が前に立ち、先生の到着を待たずに会の開始がアナウンスされます。
取材した日、体育の準備をしていた山田先生が少し遅れて教室に入ってくると、「先生、遅いよ。もう始めちゃった」との声があがり、「ごめんごめん」と謝るやりとりがありました。
子どもたちだけで始まった朝の会。 写真:川崎ちづる
連載第3回で紹介した「教室のつくり手は子どもたちであり、教師はいち参加者」という山田先生の言葉どおり、子どもたちが自ら学校生活を進めていることがよくわかります。
学びのプロセスを評価する
学びへの積極性、主体的な行動、仲間へのサポートなど、子どもたちはこの1年間で大きな変化を遂げました。
山田先生は、こうした成長についても子どもたちにフィードバックし、今後の学習につなげてほしいと考えています。しかし、一般的な「評価」では、それが難しい部分もあります。
「評価」というと、成績表や通知表を思い浮かべる人がほとんどです。これは「総括的評価」という方法で、学期末や学年末などの学習の最後に、どの程度達成できたのかを測ります。
総括的評価はテストの点数を根拠にすることが多く、平均値を算出して「よくできる、できる、もう少し」などの成績づけを行います。
「総括的評価だけに偏ると、子どもたちはどうしても『できた/できなかった』という部分にとらわれてしまいます。それに、いくつかの単元を平均した結果を示しても、どの部分ができて、どの部分できていないのかまではわかりません。
僕自身は、取り組んだ学習でどんなよいところがあったのか、どのように成長したのか、といった具体的な内容こそ、子どもたちに伝えるべきだと考えています。子どもはよい部分を認められたときに、『次もやってみよう』と前向きになるからです。
こうした点を評価するためには、学習のプロセス段階で行う評価(形成的評価)が有効です。だから僕自身は、普段の授業で子どもたちの姿をしっかりと見取り、必要に応じて声かけなどを行う『評価』を大切にしています」(山田先生)
「評価」という言葉からイメージされるのは、テストの点数や入学試験などでの合否といった「結果」を知らせるものです。しかし、山田先生が話すように、授業など学習過程の中で子どもたちに寄り添い、よいところや改善点を言葉で伝えていくことも、評価のかたちの一つであり、重要な側面です。
2020年に施行された学習指導要領においても、評価について「学習の成果だけでなく、学習の過程を一層重視することが大切」「一人一人のもつよい点や可能性などの多様な側面、進歩の様子などを把握し、(中略)児童がどれだけ成長したかという視点を大切にする」と明記されています。
「じっくり考え自分なりの考えを書く子、自分が終わっても周りをサポートする子、納得するまでこだわり抜いて仕上げる子。授業をしていると、子どもの創意工夫、学習に向かう意欲にたくさん出合います。
子ども自身にも保護者にも、こうしたその子なりの素晴らしさ、学びのプロセスの中で出てくるよさを認め、伝えていきたいと考えています」(山田先生)
子どものよさ、頑張りを認める
日常の子どもの学びを保護者に伝える方法として、山田先生はアプリ(Google Classroom)を活用しています。
保護者へ送ったGoogle Classroomの内容(2023年度1年生の担任時)。 写真提供:山田剛輔氏
日々の出来事や授業風景を写真とコメントで掲載し、時には子どもたちの姿から感じた熱い思いなどを書き綴ることもあります。保護者にも好評で、「子どもの学校での様子がわかってうれしい」などという感想が寄せられています。
また、2023年度からは年度末に「三者面談」を取り入れ、子どもや保護者と対話する時間を設けています。
「面談では僕からの評価も伝えますが、子どもが行った自己評価についても話してもらいます。誰かから与えられる評価ではなく、自分自身で振り返って考えることも大切にしています。
三者面談は、『こういうところを頑張ったね』『あのときは素晴らしかったね』と保護者と一緒に子どもを認め、励ますことができる貴重な機会です。
こうした時間を持つことで、評価が過去の振り返りだけでなく、次の学習へのモチベーションにもつながります」(山田先生)
「感動した」「ありがとう」も大切な評価
ここまで見てきたように、山田先生は自身が行う評価方法についても工夫していますが、プロジェクトに取り組んでいると、教師以外からも子どもたちは「評価」を得るチャンスに恵まれるそう。
「地域の人や団体と活動することも多いため、必然的に学校外に出ることが多く、いろいろな人に出会います。なかには『素敵な取り組みだね』『頑張って』などとコメントしてくださる人もいます」(山田先生)
取材の日も地域センターの前で活動していると、とおりかかった地域の方が子どもたちに話しかけ、やりとりが生まれる様子を目にしました。
「香川商店街プロジェクト」の活動で、エコプランターに花を植えました。 写真:川崎ちづる
「そうした言葉や反応が、子どもたちにとって最も意味のある『評価』だと思うのです。一生懸命取り組んでいる内容が、会ったばかりの人にも認めてもらえる。やってよかったと活動の意義を実感できます」(山田先生)
2024年11月には、茅ヶ崎市内の公園で行われた食や農、音楽をテーマにしたイベント「ハーベストパーク」にて、4年3組の子どもたち(有志)がオープニング合唱とシンガーソングライターCaravanさんのLIVEにコーラスで参加しました。
イベント主催者がプロジェクトでお世話になった農園の方で、子どもたちも参加してほしいと誘いを受けたことがきっかけです。
朝の時間や音楽の授業で練習を重ねた子どもたちは、1万人以上もの観客の前で、楽しみながら堂々と歌い切りました。
Caravanさんのコーラスで歌う子どもたち。 写真提供:山田剛輔氏
「子どもたちの歌声を聞いて涙を流している人や、舞台を降りたあとに『とてもよかった』『すごく感動した』と伝えにきてくれる人がたくさんいました。
心に残る『評価』をしてもらったことで、子どもたちは確実に歌うことに対して前向きになりました。もっと表現してみたい、聞いてもらいたいという音楽へのモチベーションも上がったと実感します」(山田先生)
小学校で学ぶ意味とは
山田先生は、小学校で学習する意味について、次のように話します。
「原点に返って『何のために学ぶのか』を考えてみれば、それはもちろん、テストで高い点をとることやよい成績を得るためではないでしょう。
子ども自身が今をよりよく生きるためであり、自分が属するコミュニティー、ひいては社会をよくしていくために小学校での学びがある。僕はそう考えています。
自分たちが考え行動したことで、何かを作ったり変えたりすることができる。そして、それが誰かのためになると実感できる。子どものころからの経験の積み重ねが将来、民主主義を担っていく力になるのではないでしょうか」(山田先生)
商店街のお店に協力を依頼する子どもたち。 写真提供:山田剛輔氏
山田先生の授業に伴走する久保寺節子先生(青山学院大学教育人間科学部特任教授)は、「山田先生と子どもたちは、プロジェクトをとおして社会とつながり、どうしたらよりよく生きられるのかを考え、試行錯誤するという貴重な経験をしている」と話します。
教科横断型、子どもの生活に近いテーマ、学校外との交流・協働。山田先生の「プロジェクト」の実践を、これらのキーワードでとらえることもできるでしょう。しかし、取材をしてわかったのは、授業や学習の形式以上に重要な要素がある、ということです。
一人ひとりを尊重し、自分の意見を押しつけずに対話する。一方的に「教える」「指導する」のではなく、常に一緒に考える。よいところを認め、伝える。こうした山田先生のあり方そのものが、子どもたちの自由な発想や自発的な行動につながり、学びへの前向きな態度を引き出したのです。
大人にできるのは、「将来のためだから」と子どもを型にはめることではなく、子どもに寄り添い、ともに悩み考え、その子自身のよさを認めることといえるでしょう。
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【山田剛輔 プロフィール】
茅ヶ崎市立香川小学校総括教諭。2005年に教員になり2024年で20年目。2018年から香川小学校に勤務。2024年9月『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版/共著)を出版。神奈川県「第1回いのちの授業大賞」優秀賞受賞。
山田先生の共著『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版)には、プロジェクトの実践内容が詳しく紹介されています。
取材・文 川崎ちづる