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【実石沙枝子さんの新刊「17歳のサリーダ」】 こういう小説は強い。読み手を選ばない

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は2024年12月16日に初版発行(奥付)された実石沙枝子さん(静岡市出身)の新刊「17歳のサリーダ」(講談社)を題材に。

「きみが忘れた世界のおわり」(講談社)「物語を継ぐ者は」(祥伝社)に次ぐ3冊目の単著は、過去2作にあったSFやファンタジーのテイストを封印。テンポの良い会話劇が中心だが人間ドラマとしての分厚さは過去最高と言って良い。

親友や自分自身へのいじめを理由に、静岡市の中高一貫お嬢様学校を高校1年で中退した畑村新菜はフラメンコ舞踏家の有田玲子、スペインで修行経験もあるカンタオール(歌い手)の才原譲司と出会い、フラメンコを始める。自ら押し開いた扉の向こうには、フラメンコを愛する新しい仲間がいた-。

フラメンコ音楽やダンスの構造、世界観が詳しく説明される。熱を帯びたフラメンコ演奏にも似た、エンディングに向かってスピードが上がっていくような読書体験が心地いい。だがこの作品の美点はそこではない。フラメンコに関わる情報や設定は包装紙のようなものだ。

最大の魅力は登場人物の解像度だろう。いじめそのものより、それを放置した学校に失望している新菜。いじめの被害を受け、福岡に引っ越さざるを得なかった親友の早川英美里。カンタオールにして、洋食店の2代目として働く譲司。彼の同級生で、実家の酒屋を継いだ坂田論-。

「彼女と彼」「彼と彼」「彼女と彼女」の話が継ぎ目なく展開され、作品世界が拡張していく。ある人物の過去の体験と、別の人物の現時点の体験が重なったりすれ違ったり。エピソード群が歯車のようにがっちりとかみ合い、物語を動かしている。そして、読み手の感情を絶え間なくかき乱す。

こういう小説は強い。読み手を選ばないし、さまざまな読み方ができる。実石さんのネクストステップが実感できる一冊だ。
(は)

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