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「アサリより美味しい?」身近な河口にもいる超絶美味貝『ウネナシトマヤガイ』

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大都市の近くでも見られる不思議な二枚貝・ウネナシトマヤガイ。知る人ぞ知る美味な貝ですが、人知れず姿を消しつつあります。

カキの間にこっそりいる不思議な貝

皆さんは「二枚貝」と聞くとどんなものを思い浮かべるでしょうか。多くの人はアサリやハマグリのように「砂に潜って暮らす」ものを連想すると思いますが、なかには砂に潜ることなく、岩などに固着して移動せずに一生を過ごすものもいます。代表例がカキです。

そして今回紹介するのは、そのカキの影にくっついて暮らすちょっと不思議な二枚貝。名前を「ウネナシトマヤガイ」といいます。

ウネナシトマヤガイ(中央)(提供:茸本朗)

苫屋というのは藁やカヤで葺いた粗雑な屋根の建物を指します。地味で華のないこの貝の外見を苫屋に例えた「トマヤガイ」という貝があり、それに似ているけど表面がツルッとしている(≒畝のような盛り上がりがない)ことからウネナシトマヤガイと名付けられたそうです。

一般的な知名度はおろか、魚介類に詳しい人でもその名を知る人はきっとほとんどいないのではなかろうかというマニアックな貝です。

不思議な生態と絶滅危惧種なワケ

そんなウネナシトマヤガイ、実は非常に丈夫な貝だと言えます。その理由は「水質の変化に強い」から。

ウネナシトマヤガイは河口域や汽水湖などに生息しているのですが、そういったところは潮の満ち引きによって海水に浸かることも淡水に浸かることもあります。加えて干潮時には完全に水面上に出てしまうこともあります。そういった環境の変化に適応できるようになっており、他の二枚貝では死んでしまうようなところでも平気で生きていくことができます。

水がなくても生きていられる(提供:茸本朗)

しかし、そんな上部で強いウネナシトマヤガイは実は「絶滅が心配されている生き物」でもあります。理由として、そもそも彼らが暮らす汽水域自体が開発の影響で大きく減少してしまっているからです。棲むところを追われてしまっては、どれだけ環境変化に強くても生き残ることはできません。

そのためかつては東京湾や大阪湾のような内湾に無数に生息していたのですが、現在は往年と比べその生息数を大きく減らしてしまっています。ただそれでも、東京や横浜のような都市河川の河口域でも稀に姿を見かけることができ、ホッとさせられます。

その味は絶品!!

そんなウネナシトマヤガイ、マニアックな貝ながら一部地域では食用にされることもありました。とくに有明海沿岸、あるいは日本有数の汽水湖である島根県の中海周辺では食材として愛され、流通することもあったようです。

採取したウネナシトマヤガイ(提供:茸本朗)

小さくて見栄えも悪く、数を集めるのも大変な貝ですが、わざわざ食べるということはやはり「味が良い」ということ。「貝類で一番美味しい」「アサリより美味しい」などという人もいるそうです。

筆者も実際に食べてみたのですが、こんな小さな貝とは思えないほど味が濃厚で、汽水性の貝にありがちな臭みもなく、まさに絶品と言えるものでした。こんなにも美味しい貝が人知れず消えていっているというのは残念でならず、汽水域や汽水湖の保全によって数が増え、再び流通に乗るような世界線が来ることを祈るしかないと思いました。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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