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香港・深圳を訪ねて考えた福岡・九州と東アジア,そして大学のスタートアップ支援のこれから【飛田短信】

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香港・深圳を訪ねて考えた福岡・九州と東アジア,そして大学のスタートアップ支援のこれから【飛田短信】

スタートアップ創出数1,800社超、経済インパクト約8兆円。驚異的な実績を誇る香港科技大学「Unicorn Day」の視察を目的に、学生とともに訪れた香港・深圳。熱気あふれる現地で見えてきたのは、福岡・九州が東アジアとどう関係を築くか、そして大学がスタートアップ支援の現場で果たすべき役割だった。飛田先生が現地から綴る出張短信。

「ユニコーンデー」に見るHKUSTの驚異的成果と大学の姿勢

3月に続いて,今年2度目の香港出張は大学発スタートアップ支援の現場を学生たちとともに肌で感じる機会となった。HKUST(香港科技大学,先日発表されたQS大学ランキングでは44位にランキングされた)では大学発スタートアップのショウケースでもある「Unicorn Day」の視察,中国・深圳では本学OBの起業家を訪ねた。

 

これらの訪問で見えてきたのは,これから日本,特に福岡や九州が東シナ海を挟んだ各地域との関係性をどう築き,大学としていかなるスタートアップ支援を進めていくべきかという課題だった。

 

HKUSTイベントポスター

 

 

 

スタートアップ支援の熱源:香港で出会った起業家精神

今回の香港訪問の目的はHKUSTが年1回開催している一大イベント「Unicorn Day」の視察であった。同大学は開学からわずか30年余で10社のユニコーン企業,13件の上場等によるエグジット,1,800社以上のスタートアップ創出という驚異的な実績を誇る。さらに,これまでに累積で4,000億香港ドル(約8兆円)もの経済価値を生み出している。

 

HKUSTの研究部門副責任者によるステートメント

 

現地で印象的だったのは、こうした成果の背景にある大学の姿勢だ。研究と教育をいかに社会実装に結びつけ,学生の知的好奇心と社会課題解決を両立させるのか。政策的にも環境,医療,創薬,バイオといった分野に重点投資がなされ,教員とスタートアップとの接点が日常的に生まれている。そのスピード感と社会実装の徹底ぶりは日本の大学にとって多くの示唆に富んでいる。

 

友人経営者と参加した学生たちとの集合写真

 

今年の「Unicorn Day」でも100社以上のスタートアップがブース出展し,若手起業家たちの熱気に満ちた会場を学生たちと歩いた。現地の大学関係者や以前の訪問で知り合った香港人起業家とも再会し,まさにグローバルな起業家精神が養われる現場を目の当たりにする経験となった。

 

 

 

「未来が始まっている」深圳のリアルとOBの挑戦

翌日は深圳へ足を伸ばした。華強北の電気街や深圳・前海のインキュベーション施設「前海深港青年夢工場」を視察。

2014年に香港と深圳の行政機関によって開設され,広さは5.8万㎡とみずほpaypayドームの1.7倍ある。

 

深圳のインキュベーション施設

そこで本学OBであり,現在は深圳で起業している石河凌平さんを訪ねた。

 

石河凌平さん

 

中国での起業のリアルを学生たちに伝えてもらった。

ここに至るまでの道程。会社設立に至るまでの人との出会い。資金調達と事業構築。そして,すでに5名の規模になった会社の組織マネジメント。日本でも“起業”に対するハードルの高さを感じるところ,事もなげに今のありのままをお話ししてくださった。

 

自動運転タクシーの画面

 

深圳はまさに「未来が既に始まっている街」だ。AI,自動運転,バイオテック,クリーンエネルギーなど新産業が勃興するスピードとエネルギーは圧倒的であり,学生たちもその空気を肌で感じ取ったようだった。

異国で奮闘するその姿は挑戦の精神を学生たちに深く印象づけたに違いない。

 

深圳・宝安の繁華街

 

その後,石河さんに深圳西部の中心地である宝安,后海地区の視察にご案内頂いた。

この日は土曜日ということもあり,深圳だけでなく「北上消費」と呼ばれる香港からの買い物客で溢れていた。学生たちはその人の波に圧倒されていると同時に,パワーを感じたことでしょう。

 

 

 

福岡・九州はこのダイナミズムとどう向き合うべきか

一方で,改めて感じたのは「福岡・九州という地域がこうしたダイナミズムとどう向き合うか」という問いである。

 

福岡はアジアの玄関口を自認し,スタートアップ・シティを標榜してきた。しかし,コロナ禍以降,交流は徐々に戻りつつあるものの,香港や深圳とのつながりは以前と比べればまだまだと言える。福岡から飛行機でわずか3時間圏内に世界トップクラスのスタートアップ都市と大学が存在する。今この地域で何が起きているかを冷静に観察し,自分たちの立ち位置を再確認する必要があるのかもしれない。

 

 

 

日本の大学に求められる「社会実装」とアントレ精神の育成

大学としても同様だ。HKUSTのように研究と教育を社会実装につなげ,アントレプレナーシップを育成する場を日常的に生み出せているだろうか。九州大学や九州工業大学を中心に大学発スタートアップを支援する体制は整いつつあるが,香港や深圳で進むスタートアップ支援の規模,資金,スピードは圧倒的である。

 

14億人の巨大市場だけではなく,華僑が多く暮らすシンガポールやマレーシアなど東南アジアを含めば20億人のマーケットにアクセスできる。

 

そこを開拓できる強みがあるからこそ,若い優秀な人材がスタートアップに興味・関心を向けられるというのもあるだろう。

 

高鉄(新幹線)香港西九龍駅構内にある香港と中国の管理区域を示すライン

 

今回の出張を通じ,私自身も学びの多い旅となった。学生たちも自らの可能性と日本の課題を改めて見つめ直す機会になったようだ。

 

 

 

東アジア20億人市場と向き合うヒントは、3時間先にある

香港では2019年に大きな混乱があり,レッセフェール(自由放任)の中で培われてきた経済的地位が失われつつあるという見方もある。

一方で,隣人として付き合っていかねばならないという事実がある中で,香港や深圳を通じて学ぶこともあるだろう。

 

福岡・九州は東シナ海の向こうにある20億人のマーケット,東アジアとどう向き合っていくべきか?

大学は次世代にどんな学びと挑戦の機会を用意すべきか?

そのヒントは,福岡から3時間ほどでたどり着ける香港・深圳の街の熱気の中にあるのかもしれない。

 

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