介護のピンチを乗り越える!高齢者の「怒り」と上手につきあう方法
ご自身やご家族の介護について、不安を感じることはありませんか? もしそうなら、この一冊があなたの心強い味方になるかもしれません。予約が取れないと話題の介護施設「くろまめさん」を運営する稲葉耕太さんの著書(KADOKAWA)。この本では、介護の中で直面する予期せぬ「大ピンチ」に、どのように向き合い、乗り越えていくかのヒントが具体的に紹介されています。稲葉さんのユニークな「めっちゃ笑える介護!」という視点を取り入れることで、日々の介護が、きっと今よりもっと心穏やかで、笑顔の多い時間へと変わっていくはずです。
※本記事は稲葉耕太(くろまめさん) 著の書籍『介護の大ピンチ解決します』から一部抜粋・編集しました。
突然の怒りにおびえる毎日
イライラがはじまったら無理になだめなくていいし、ケンカしたっていいと思いますよ
お年寄りのご家族からの相談ごとで上位にくるのが、怒りっぽくなること。突然怒り出したり、感情に波があったり。予測不能な「怒り」にはハラハラしてしまいますよね。くろまめさんの利用者にもこんな方がいました。
認知症の症状があらわれた努さん(79歳)は、穏やかな性格でしたが、だんだんと感情のコントロールがきかなくなりました。
くろまめさんのリビングルームでほかの人がテレビを見ていたり、おしゃべりしているのをじろりとにらんで、しきりに「子ども見ちゃってくれや」と繰り返すのです。スタッフにもなにかにつけてイライラをぶつけるので、ちょっと困った方とみなされていました。
僕は努さんの話を一度、じっくり聞いてみることにしました。ある日、いつものように「子ども見ちゃってくれや」がはじまると、
「子どもは見てますから心配ないですよ」
と答えました。すると「ああ、そうけえ」と努さんはうなずき、ぽつりぽつりとひとり娘である尚子さんのことを話してくれたのです。その横顔は本当に優しそうで、本来の努さんの人間性を感じました。
後日、尚子さんにそのことを話すと、
「亡くなった母はお世辞にも家庭的な人ではなく、私が子どもの頃から出歩いてばかりでした。おとなしい父はずいぶん我慢をしてきたんです」
と自分たち家族の歴史を語ってくれました。努さんの「子ども見ちゃってくれや」は、奥さんに「もっと子どもの面倒を見てやってくれ」という、精いっぱいの訴えだったのです。ずっと我慢してきた感情が、認知症をきっかけにあふれ出したのでしょう。
以降、努さんの「子ども見ちゃってくれや」モードが発動したら、僕らはそうっとしておくことにしています。昔怒れなかったぶん、せめて今、思いっきり怒ってもらおうと。
ピンチを分解
怒りには背景があります。かつて体験したつらい思いが、認知症になって過去と現在があいまいになっているため、不意にぶり返すことがあります。本人も怒りの理由はわからないけれど、自分が怒っているということはわかっています。感情は色あせないんです。
努さんのエピソードで僕は、怒っている人には存分に怒ってもらうのもアリだなと考えるようになりました。介護のハウツー本には「心に余裕をもって怒りを受け流して」といったことが書かれていますが、なかなかそうはできませんよね。だから、介護する人がしんどくならないためにも、相手が怒りはじめたら無理になだめなくてもいいと思う。もっと言うなら、ときにはケンカをしてもいいんじゃないかな(ほどほどなら!)。
※本記事に掲載されている情報は2025年4月時点のものです。掲載の内容には細心の注意を払っておりますが、万が一本記事の内容で不測の事故等が起こった場合、著者、出版社はその責を負いかねますことをご了承ください。