『MINAMI WHEEL 2024』キービジュアルも好評の一筆書きアーティスト・YUIHALF、飛躍のキッカケとなったアートフェア『UNKNOWN ASIA 』を振り返る
日本をはじめアジア各国で活動するアーティストが集うアートフェア『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2024』が12月7日(土)、8日(日)に梅田サウスホール(大阪梅田ツインタワーズ・サウス 11F)で開催される。2015年より続く同フェア。その特徴は、アーティストの持続的な活動をサポートするため、企業、ファン、コレクター、ギャラリーなど多様なマッチングの機会が提供される点。過去にもさまざまなアーティストがこの場でチャンスをつかんできた。
その中の一人が、一筆書きのアーティストであるYUIHALF。一筆でさまざまな場面や物語を描き出すスタイルと作風が注目を集め、バラエティ番組『プレバト!!』(TBS系)などにも出演。12月5日(木)19:00放送回にも登場予定だ。そこで今回はYUIHALFに、『UNKNOWN ASIA』の印象とここまでの自身の仕事について振り返ってもらった。
●「一本の線が繋がっていることの意味合いなどを読み取ってほしい」
――YUIHALFさんは『UNKNOWN ASIA 2023』でイープラス賞を受賞されました。そのほか2022年にはスポンサー賞など3つ、2021年も4つの賞を受賞されています。賞を獲得するのは、クリエイターとしてやはり励みになりますか。
現在、いただいているお仕事のルーツを辿ると、その多くは『UNKNOWN ASIA』がキッカケとなっています。特に私の場合、「経歴」が欲しかったので、イープラス賞などの受賞はすごくありがたいものでした。これまでも私は、「結果を残したら作品が商品化される」というようなコンテストによく出品していました。というのも現実的な話として、いろんなコンテストから「展示しませんか」とオファーはいただくものの、そこで賞をいただいたとしても、作品づくりにかけた労力と見合わないことが少なくないんです。
――ビジネス的な視点で考えるとそれだけでは厳しいところがありますよね。
「趣味的に自分の作品をつくりたい」であればそれでも良いですし、もちろんそういったコンテストも大切。でも私自身の活動はクライアントワークを中心とし、作家としてこれからも生きていきたい。そういう意味で『UNKNOWN ASIA』のように「こういう企業が参加しています」「こういった企業と繋がれる可能性があります」と分かりやすく明示されているコンテストは、特に貴重だと思っています。しかも2022年のスポンサー賞、2023年のイープラス賞などをいただいたことで、「この人はこういう賞を獲っているんだ」と一目で分かってもらえるようになりました。お仕事をオファーしてくださる企業の方にとってもそういった経歴は、大きな説得力を持ち、また依頼材料になるのではないでしょうか。
――しかも2023年のイープラス賞受賞がキッカケとなり、イープラスの社員の名刺作りも担当されたという。その名刺内容がこれまたユニークで!
社員さんの顔写真付きの資料をいただき、好きなものもアンケートでいただいて。中には「チャイナボタンが好き」みたいな方がいらっしゃったので、「どのように表現しようか?」と迷った結果、チャイナ服を描きました(笑)。ほかにもラジオ体操がお好きだという方がいらっしゃり、どういうポージングが絵として分かりやすいか考えたり。名刺制作って、そうやっていろいろ、みなさんへのイメージを膨らませて描くことができるのでとても楽しいです。
――「分かりやすさ」というのは、やはり重要なのでしょうか。
本来あるはずのものを省いて描いて、それでも伝わるような絵にしたいんです。でも逆に服のシワ、筋肉の影など普段あまり目につかないものを描くようにもしています。「目に見えて輪郭のないもの」を描いて、そして分かるものにする。それが私の一筆書きのポリシーでもあります。線を増やして、細かくして「すごい作品でしょう」とならないように心がけています。あとご依頼いただくときも、「シンプルなもので」というオーダーが多いんです。
――大阪の音楽フェス『Eggs presents FM802 35th Anniversary “Be FUNKY!!” MINAMI WHEEL 2024』のキービジュアルはシンプルでありながら、赤い糸でアーティストや観客らがつながっていて「音楽ライブの一体感」が見事に表現されていました。
「一本の線で描いている」という技法に着目されることが多いのですが、そうやって一本の線が繋がっていることの意味合い、ストーリーなどを読み取っていただけるとより嬉しいです。私はダンスもやっているのですが、大会などで踊っているとき、一つの曲、ある瞬間で「会場が一体なった」と感じることがあって。そういった自分の経験も踏まえて、『MINAMI WHEEL 2024』のキービジュアルを表現しました。
――『MINAMI WHEEL 2024』のキービジュアルは魚眼風に描いているところも特徴的でした。
初めは平面で描いたのですが「もっと臨場感が出せないですか」というお話があって、そこで、自分で魚眼パースをまず作りました。魚眼パースとは、魚眼レンズで撮影したような絵を描くための方眼紙みたいなもの。それを作って、下に敷いて、そして一筆書きしたんです。私自身はそういったやり方で描いたのが初めてだったので、すごく良い経験になりました。
●KEENのポップアップ制作で広がった可能性、今後は「お笑いコンビの一筆書きも!」
――アウトドア&フットウェアブランド、KEENのポップアップも印象的でした。KEENは2本の紐と1枚のシューレースでシューズを作っている。物質をできるだけ省略しながら製品化する、という点ではYUIHALFさんの一筆書きに近い精神性が感じられます。
おっしゃるように、依頼をいただいた理由としてそういうお話もありました。私自身、まさかのあの素晴らしいシューズが2本の紐で出来ているなんて、想像もしていませんでした。あとKEENさんは海洋ゴミのクリーンアップなど自然保護活動をなさっています。KEENさんが豊かな自然を作り出す、というイメージを膨らませた上で、ウミガメ、花など自然を描いて、そしてKEENさんのそういったメッセージと一本の線で繋げていきました。
――ただ作品として完成させるには、これまでとは大きく異なる工程を要したのではないですか。
やはり紐で仕上げることへの難しさがありました。一筆書きを下絵にして、その上に紐をくっ付けていくのですが、やっぱり絵のようにスッとはいきません。角ばった表現の箇所だと、どれだけやってもしっかり角にならなかったり、あと思ったよりも紐が太いので隙間が潰れたり。いろいろ調整しながら作っていきました。でも、だからこそ普段の一筆書きの作品とは違った動線の作品になりました。作家としての私の可能性も広がった気がします。
――作品にはいろんなメッセージが含まれている、という点ではInstagramに投稿していらっしゃったお笑いコンビ、ヤーレンズの一筆書きも興味深かったです。お笑いコンビって一蓮托生じゃないですか。たとえば、プライベートでは仲が良くなかったとしても舞台の上では自分たちだけで笑いを生み出していく。そういった相方との繋がりが、一筆書きが持つ精神性にぴったり合うなって。
そのように捉えていただけると、嬉しいです。実は私はお笑いをよく見ていて、特に漫才が大好き。いつかお笑い関係のお仕事をやってみたくて。そこで、私もファンであるヤーレンズさんを描きました。令和ロマンさん、四千頭身さんも好きなのでいつか一筆書きしてみたい。今一番描きたいのは、さや香さん。漫才のときのお二人の噛み合い方が本当にすごい。そういう姿を描きたいです。
――そうやって活動のフィールドが広がったキッカケの一つが、『UNKNOWN ASIA』だったと。同イベントは2024年12月7日(土)、8日(日)に大阪・梅田サウスホールで開催されます。今回もたくさんのクリエイターが参加しますね。
これまで三度参加して気付いたことがあるのですが、作品をブースに展示してそれで完結させるのではなく、ブースそのものを一つの作品とする方が、より多くの方の関心を集められると思います。そしてなにより、たくさんの参加者がいる中で、自分にしかない作品表現が必要。『UNKNOWN ASIA』は今後の自分の活動に繋がる可能性が高いイベント。だからこそ、いろんな人に作品を鑑賞してもらう仕掛けが作れたら“強い”ですよね!
取材・文=田辺ユウキ