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深川麻衣さんインタビュー「京都の人の本音と建前、目のつけどころが面白いですよね」|映画『ぶぶ漬けどうどす』

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深川麻衣さんインタビュー「京都の人の本音と建前、目のつけどころが面白いですよね」|映画『ぶぶ漬けどうどす』

穏やかで優しい空気をまとい、ナチュラルな透明感を感じさせる俳優の深川麻衣さん。最新主演映画『ぶぶ漬けどうどす』が公開されます。深川さんが演じるのは、京都に魅せられたフリーライターの澁澤まどか。京都という名の迷宮へぐいぐいと切り込むまどかの巻き起こす、ややこしい騒動の顚末。深川さんに聞きました。

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掲載:2025年6月・7月合併号

ふかがわ・まい●1991年生まれ、静岡県磐田市出身。2018年に映画『パンとバスと2度目のハツコイ』で初主演。以後、『愛がなんだ』『水曜日が消えた』『今はちょっと、ついてないだけ』『パレード』などの映画、『アイのない恋人たち』『特捜9 』シリーズなどのドラマに出演。映画『おもいで写眞』『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』『嗤う蟲』では主演を務めた。

映画のテーマは、京都人の本音と建前

 「目のつけどころが面白いですよね。京都は魅力的な場所ですが、そのコミュニケーションの仕方というか言葉の表現での表と裏、本音と建前に焦点を合わせた作品はなかったなと。映画のジャンルとしても一言では表せません。コメディタッチだけどただのコメディではなく、SNSの問題や、ちょっと……狂気じみたところもあったりとかして(笑)。さまざまな要素の詰まった、不思議な余韻をもたらすお話だなと」

 映画『ぶぶ漬けどうどす』の物語に触れた感想を、深川麻衣さんはそう振り返る。深川さん演じるまどかは京都大好き!なフリーライター。京都で450年続く老舗扇子店の長男と結婚し、東京から京都へ。その体験を漫画家と組んでコミックエッセイにしようと、街の女将さんを取材する。

 でもこのまどか、かなりのくせ者。素直なのに鈍感で、おとなしそうに見えて物怖じせず、嫌われても踏まれても(?)、ヘコたれないメンタルの持ち主。見ようによっては、ちょっと怖くもある。

 「そんなまどかをどう表現しよう? この熱量はどこから?と、人物像をつくっていくのは今まででいちばんというほど迷いました。でも一本筋を通さないと気持ち悪くて。クランクイン前に、監督とお話しする時間をつくっていただきました。撮影している間も、100%理解できていたかというと、そういう自信もないんですけど(笑)。ただ監督の演出が刺激的で、台本通りでない部分もあって。自分で固め過ぎると苦しむことになる。演出を柔軟に楽しみながら、波に乗るような感覚で徐々に役をつくっていきました」

 監督は『白鍵と黒鍵の間に』など、作家性の際立つ冨永昌敬さん。冒頭から独特な音楽への感性を生かし、一気に映画の世界へ。その中心で深川さんは、この絶妙に難役なまどかを、いい塩梅にナチュラルに体現する。なんという懐の深さ! 冨永監督が「深川さんしかいない。もしダメなら撮れないくらいの気持ち」とオファーしたというのも納得する。

 「まどかは京都で、人びとの本音と建前に翻弄されます。自分で突拍子もないことを言い出したりしますが、京都を壊しにいく人に見えてはもったいない。監督も、〝観る人から応援してもらえる人物像に〞と。トリッキーな人物ではあるけど、どうしたら面白がってもらえるか?京都の魅力とまどかの人間性をうまく混ざり合わせるには?と考えました」

 本音と建前への反応について、「私自身はまどかと真逆」と深川さん。「言葉ではああ言っていたけど、本当はこう思っていたんじゃ?などと考えてしまう性格」であるらしい。

 「でも〝ぶぶ漬け(お茶漬け)どうどす?〞と言うときの裏の意味を知らなかったら、〝いただきます!〞と言ってしまいそう(笑)。ただ日常的に誰もが思いをそのまま口にするわけではなく、TPOに合わせた言い方をしますよね。それもある意味、本音と建前で。京都のそれは圧倒的な歴史のなかで積み重ねられた美徳でもあります。完全に理解するのは難しいし、日常的に感じることと大きく離れていないのかな?とも思うんです」

 そんな一筋縄ではいかない京都人、京都そのものに翻弄される(翻弄する?)まどかを演じるうえで、核となったのは「まどかの京都への愛」だった。

 「私自身は京都にお仕事で滞在したり、観光で何度か訪れたくらいで。普段から気になるお店、好きな店をインターネット上のマップに記録するのですが、京都でもおいしいお店をたくさん教えていただいて、そのマップが潤いました。おばんざい以外にもカレーが激戦区だったり、『小麦粉は摂取しない』と決めているグルメで知られる有名な方が、年に一度は訪れるという豚骨ラーメン屋さんがあったり。キーマカレーのおいしいお店には、2回行きました(笑)」

 食の好みは意外とがっつり系?な深川さん。そうしてカメラの外でも京都を文字通りに味わいながら映画は完成を迎えた。

 「音楽と京都の街並みが融合するオープニングから、冨永さんだからこその雰囲気や要素が詰まっていて。そこから暴走したまどかの行動が、京都の街や人を混乱に巻き込んでいきます。できた映画はどうしても、最初は冷静になれなくて観るのが怖いんです。自分の反省会になってしまいがちなのですが、この映画は純粋に楽しめました」

 まどかを含め、誰かに共感できるわけではない。なのに置いてきぼりにはならず、「まどかどうする? これどうなる!?」と気づけば前のめりになっている。映画を観ながら感じた不思議な感覚を伝えると、「よかった〜!」とうれしそうに破顔するのがまたキュート。

 「実際に京都の老舗でロケをさせてもらったり、大前提として、京都の街並みや魅力がたくさん収められています。それで言葉の表と裏、京都ならではの文化の面白さや発見があって。さらに古きよきものがなくなってしまうかもしれない怖さなども織り込まれています。京都が好きで通っていた方もそうでない方も、きっと何かしら発見をしていただけるんじゃないかと思っています」

長野? それとも佐賀? ただ今、田舎暮らし妄想中

 よそ者には敷居が高い京都の素顔に触れるような物語。それを経て、京都に暮らすということに今どんな思いを抱くだろう。

 「竹林とか庭園とか、京都のそうした景色が、家を出てすぐに広がっていたらいい。そんな憧れはあります。でも京都に住むなら、その土地のしきたりやマナーをちゃんと勉強してからでないと失礼になってしまいそう。なので観光で足しげく通いたいと思っています」

 そんな深川さんの地元は静岡県磐田市。東京で暮らす彼女に、故郷はどう映るだろう?

 「やっぱり人との距離が近いです。東京で引っ越しをしても、あいさつをしたらいいか、しないほうが?と迷いますよね。でも静岡ではあいさつするのが当たり前だし、たびたび地域ごとに集まりがあったり、近くに畑のあるおばあちゃんが〝たくさん穫れたから〞と野菜をお裾分けしてくれたりする。回覧板もまだあるし、そうした横のつながりは田舎ならではかなと」

 二拠点居住への憧れもあり、妄想することもあるそう。

 「長野とか、いいですよね。東京との距離感がちょうどいいし、古きよき文化を感じさせるところと、すてきな新しいカフェなどもあって。そうしたバランスがちょうどよくて好きなんです。……でも佐賀に行ったときも、街並みが居心地よくていいなあ〜なんて(笑)。もちろん地元の静岡もよいところがたくさんあります、それこそ東京に通いやすいですしね。そうしてお仕事で地方へ行くと、またいろいろと考えちゃいます」

 プライベートではスイスで登山をしたり、灼熱のエジプトを訪れたり、休日もアクティブに動く。

 「生まれ育ったところは自然に囲まれ、緑が当たり前にありました。そのせいか、しばらく触れていないと緑を欲するんです。疲れてくると、気分転換に自然があるところへ行きたくなります」

 幼少期は自然のなかでのびのび育ったそう。

 「小学生のとき、木登りが流行りました。木に名前をつけて(笑)、登って、実を取って。逆さまにした帽子に入れて実を食べながら帰ったり、花の蜜を吸ったり。家にはTVゲームもありましたが、学校が終わると校庭のアスレチックで散々遊んで帰るとか、そんな感じで。そうした記憶のせいか、いつかは自然の多いところに住みたい。人が混み合っていない、居心地のいい場所に――。そんな思いがあるんですよね」

「仕事の評価=自分の価値」からの考え方の変化

 「どんな世界観でも違和感なくそこにいられる女優さんになりたい」――。約7年前、アイドルから俳優へとシフトした深川さんが抱いた理想像。それから映画にドラマに舞台に、着実にキャリアを重ねる彼女。今回のどう考えても、いや頭で考えたらどツボにハマりそうな役柄も、「私がまどかですけど?」みたいな顔で揺るぎなく、映画の中心に立つ。傍から見ても、かつての理想像へ着実に近づくよう。

 「今も、その理想像は変わりません。このお仕事を始めたばかりのころは、自分の軸の真ん中にお仕事がど〜ん!とあって。仕事の評価イコール自分の価値、そんなふうに感じていました。するとお仕事が思うようにいかないと心がブレてしまって。でも周りの先輩を見ると、趣味を持ち、全力で楽しむ人のほうが心に余裕があると思ったんです。お仕事の手を抜くというのではなく、遊ぶ余白を持つ。男女問わず童心を失わない人ってすてきですよね」

 深川さんにそうした余白をもたらすのは、モノづくり。

 「絵を描いたり、陶芸やアクセサリーをつくったり。旅先でそうしたモノづくり体験をすると、無心になれてリラックスできるんですよね。とても息抜きになります」

 そこまで真面目に考えないと、余白をつくれない。この人が、演じることと本気で向き合っていることがひしひしと伝わる。

 「演じることは答えがないぶん難しく、それゆえの面白さもあります。以前は、いわれたことに100%対応したい、監督が表現したいものを表現できる人になりたい――。そう思っていました。でもそれはある意味、受け身で。このお仕事を始めた当初、2人の監督さんに『もっとワガママになっていいよ』と言われたんです。それがどういう意味か、よくわからなかったんですけど」

 作品を重ね、そうした思いは変化する。せっかく自分がやらせてもらうのだから、感覚やアイデアを大事にしたほうがいい。

 「もしかしたら面倒くさがられるかもしれない。それで反映されなくても、アイデアや意見を言葉にして伝えることが大事だなと。それはさっきの趣味にも通じます。自分は何が好きか? どういうことを不快に思うか?そうしたことに見て見ぬふりをすると、自分の感覚に敏感でいられない。鈍くなってしまうようで」

 常に自分と向き合い、与えられた脚本をその時点での極限まで読み込む。時にダメダメな自分からも目を背けず、そんな自分の抱いた感覚を受け入れ、それを誰かと共有するために言葉を磨かなければならない。簡単に言って、手間がかかるのでは?

 「やることが増えたという感覚はないんです。今までも感じていたけど、どう言葉にしていいかわからなかったことを少しずつ言葉にできるようになったなと」

 それは抱いてしまった違和感に、「脚本に書いてあるから」とフタをしないことでもあった。

 「そうしなければ、腑に落ちないまま演じることになります。だからそこはとことん話し合い、一本筋を通す。すると演じていても、気持ちのよさが違います。気持ち悪さがなくなるというか」

 身にまとうナチュラルな透明感と、どこかおっとりとしたしゃべり方、やわらかいほほ笑み。でもそれにだまされてはいけない。この人が、やたらトリッキーであるはずの役を、「私がまどかですけど、何か?」という顔で平然と映画をけん引したのには、確かな理由があった。

『ぶぶ漬けどうどす』

(配給:東京テアトル)

●監督:冨永昌敬 ●企画・脚本:アサダアツシ●出演:深川麻衣、小野寺ずる、片岡礼子、大友律、若葉竜也、松尾貴史、豊原功補、室井滋 ほか ●6月6日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
©2025「ぶぶ漬けどうどす」製作員会 

フリーライターの澁澤まどか(深川麻衣)は夫の実家である京都の老舗扇子店へ。数百年の歴史を持つ老舗の暮らしぶりを、漫画家の安西(小野寺ずる)と組み、コミックエッセイ「京都老舗赤裸々リポート」にまとめようとしていた。義父の達雄(松尾貴史)、義母の環(室井滋)は笑顔で引き受けるが……。

文/浅見祥子 写真/鈴木千佳  ヘアメイク/鈴木かれん スタイリスト/山口香穂

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